第20話 あの日のはじまり 千紘のループ:高校1年生
こんにちは。
頭の中の物語を文字にしてみます。
ラストにたどり着けるように、不定期ですが更新したいと思っています。
よろしくお願いします。
※キーになるあの日に戻ります。
走ってフロアを飛び出していく海斗の後ろ姿を見送り、亜理紗はつぶやいた。
「なにそれ。かっこよすぎじゃない……」
◆
海斗は待ち合わせの場所に向かう電車の中で、何度も時間を確認していた。
もう時間は午後9時近い。
「会社携帯から千紘の番号を書き写しておけばよかった……」と後悔していた。
ほんの数十分の距離が、今は永遠にも感じる。
時間が遅くなればなるほど、千紘が家族に気がつかれずに外に出るのは難しくなる気がしていた。
夜が更けて街が静かになる前にたどり着きたい。
最寄駅に着いてから、海斗は全速力で走った。
「大丈夫。引退したっていったって、ついこの前までは選手だったんだから」
自分を励ましながら海斗は走っていた。
◆
千紘は何度も窓から外を見下ろしていた。
赤ちゃんはさっき一度目を覚まししばらく泣いていたが、ミルクを飲ませやっと落ち着いた所だ。
「今なら出られる。海斗さん……」
千紘は手を合わせて祈った。
そして、海斗に何かあったとしたらどうしよう、と不安な気持ちを抱えていた。
ふと、窓の外に違和感を感じ、立ち上がって下を見下ろす。
「海斗さん!」
海斗の姿を見つけ、千紘は声を出していた。
きっと走って来たのだろう。海斗は膝に手をついて、はぁはぁと大きく息をしていた。
「ちょっと待っててください!」
千紘は声をかけ、出発の準備をした。
部屋を出る前にもう一度赤ちゃんの寝顔を確認し、お腹にタオルケットをかけた。
足音が聞こえないように、そっと下の階に降りる。
両親はリビングでテレビを見て笑っていた。
その笑顔を見ながら、両親からこの幸せを奪っていいのだろうか……と、千紘は一瞬迷う。
それでも……
「いつかすべてのループが終わった時、また二人にこの幸せをあげられるようにしよう」
千紘はそう決心して玄関を出た。
そっと鍵をかけ、門を開ける。
と、海斗が近づいてくるのが見えた。
「海斗さん……」と千紘が声をかけようとするよりも早く、千紘は海斗に力いっぱい抱きしめられた。
「本当にごめん。待たせちゃって……会えないかと思って、すごい焦った」
海斗の背中は汗で湿っていた。
千紘は、ふふっと笑って「ありがとうございます。嬉しい……」と言いながら、海斗にタオルを渡した。
汗を拭い、落ち着いた海斗が言った。
「それじゃあ。行こうか」
千紘も「はい」と頷く。
「もしかしたら次に戻るのは2013年よりも前かも知れない。そうだったら、必ずこの石の前で会おう」
海斗の言葉に、千紘は力強く頷いた。
二人は手をつないだまま、石の前に立つ。
海斗のつないだ手に、より力がこもった気がした。
お互いに顔を見つめ頷いてから、そっと石に手を伸ばした。
◆
~2013年8月27日~
ミーン、ミーン……
蝉の声が聞こえる。
「ここは……外?」千紘は強い日差しに一瞬目が眩んだ。
徐々に瞼を開けていく。千紘が立っていたのは、家の門の前だった。
「あっっ!」と急いで周りを見渡す。
海斗の姿は見当たらない。
「やっぱり海斗さんとは、はぐれちゃったんだ……」
そう思いながら自分の服装を見て、はっとする。
白の半袖ワイシャツ・赤い線のチェックのスカート・同じ柄のリボン・紺色のハイソックスにローファー。
「高校の制服だ!! 高校生に戻ってる!」
千紘は慌てて、家の中に飛び込んだ。
「お帰りなさい……」という母の声も半分に、千紘はカレンダーを見る。
「2013年!!」
まさか、と思いつつ千紘は母に向かって叫んでいた。
「お母さん! 今日、何日?!」
母は呆れて笑っていた。
「家に飛び込んできたかと思ったら、今日は何日? って。千紘大丈夫なの?! 8月27日よ。まだ夏休み中で~す。部活どうだった?」
うん……と曖昧に返事をしながら時計を見る。
時刻は13時を過ぎた所だった。
「マサくんが事故にあった時間は聞いていない……そういえば場所も……」
自分は重要な情報を何一つ調べていなかったことに愕然とした。
(そういえば、マサくんのお母さんが、私に会いに行くって聞いたって……)
千紘がそんな事を考えていた時、ふと母が言った。
「そういえば、千紘。マサくんって覚えてる? さっきこっちに来てたのよ。びっくりしちゃった」
千紘は「え?!」と振り返り、そして思い出したのだ。
いつの日の事かは全く覚えていない。
ただ、母から「マサくんがいた」と聞いた日があったのだ。
その時、千紘は「ふーん」とだけ返事をして、聞き流していた事があったことに。
千紘はその後しばらく経ってから、そういえばもっと何か反応しておけばよかったかな、と思っていたのだった。
母は千紘の様子は気にもせず、話を続ける。
「『マサくん』って声をかけたらね、『お久しぶりです』って。好青年になってたわよ。久しぶりに昔の家が見たくなったんですって。千紘もいればよかったねって話したのよ。でも……」
母の話を聞きながらも、すでに千紘は家を飛び出していた。
「でも……不思議なのが、ブレザー着てたのよね。こんな真夏に……」
振り返りながらそう言った母の声は、千紘の耳には届いていなかった。
お読み頂きありがとうございました!!!→つづく
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