第17話 海斗のループ:大学4年生
こんにちは。
頭の中の物語を文字にしてみます。
ラストにたどり着けるように、不定期ですが更新したいと思っています。
よろしくお願いします。
※未来が激変しています。
~2017年6月15日~
「……それで、君の希望を聞きたいと思って。どうかな?」
誰かの話声が聞こえる。
ここはどこだろう? 千紘はどうなった?
あの突風に巻き込まれた時、千紘とつないだ手は離れてしまったのだろうか。
必死で千紘の名前を呼んだ気もするが、それすらも曖昧だった。
海斗は、はっとして目を開いた。
咄嗟に目に入ったカレンダーは「2017年6月」となっていた。
海斗はあたりを見回す。
見覚えのある部屋。見覚えのある顔。
海斗はその顔を見て思わずつぶやいた。
「あぁ。監督だ……懐かしい……」
この光景を海斗ははっきりと覚えていた。
今働いているハウスメーカーの実業団チームに入らないかと打診された日だ。
その年、海斗は試合中に怪我をしていた。
選手生命を絶たれるほどの怪我ではなかった。
それでもその怪我以降、海斗は陸上を続ける事を疑問に思うようになっていった。
中学生の時からずっと陸上の事だけを中心に生活してきた自分が、正しかったのかもわからなくなっていた。
そして監督から聞いたこの話を断ったのだった。
「海斗。このまま辞めて良いのか? 今は怪我をして少し弱気になってるんじゃないか? 実業団に入れば陸上を続けられる。社会人になっても夢を追いかけられる。お前の実力だったら、駅伝だけじゃなく、トラック競技にも挑戦できると思うんだ。この企業なら世界大会にだって手が届く」
監督は海斗を説得しようとしていた。
海斗は監督の言葉を聞きながら思っていた。
やっぱり自分はこの時の決断に後悔していたんだ、と。
実業団チームに入る事は願ってもない事だった。それでも怪我をして大会に出られない日々を過ごした経験が、海斗の考えを少しずつ変えていった。
また怪我をしたら? 選手としての適齢期を過ぎたらどうなる?
選手でいられる時間より、その後の人生の方が長い。
「あぁ……それでも一度は挑戦してみたかった……」
海斗は迷っていた。
「千紘、選択を変えても……許してくれる?」
海斗は見慣れた大学のその一室で、天井を見つめてつぶやいた。
◆
~2021年8月27日~
どこかで赤ちゃんの泣き声が聞こえる。
そして後からその子をあやす優しい声。
(あれ……お母さん……の声??)
千紘は、はっと起き上がった。
そして周りを見渡す。
ここは……自宅のリビングだ。
「千紘起きたの? ちょっと疲れが出ちゃったのね。慣れない毎日だから」
母はそう言いながら、赤ちゃんを抱っこして「ばぁ~」と言っている。
赤ちゃんはもう泣きやんでいて、きゃっきゃと笑っていた。
「え? あれ? ごめん。夢見てたみたい」
千紘は言いながら、母が抱いている赤ちゃんをまじまじと見つめた。
「その子、どこのこ?」
千紘の質問に、母はびっくりした顔で千紘を見つめる。
「千紘……なに言ってるの?! ……大丈夫?! あなたの子供でしょうが!」
千紘は「え……」と絶句して固まってしまう。
私の……子供……?
「ご、ごめん。今日って……」
千紘は慌てて部屋の中を見回し、日付の表示された時計を見に立ち上がろうとして、瞬間的に体が重い……と感じる。
そしてつぶやいた。
「2021年8月27日……帰ってきてる……」
どういうこと?!
なにがどうなったらこんな未来になる?!
茫然とする千紘を母は心配そうに見て言った。
「産後はホルモンのバランスも崩れているからね。その上、慣れない赤ちゃんのお世話だもんね。疲れが出たのよ。うちに里帰りしている間は甘えて良いんだからね」
「う……うん。ありがと……」千紘は小さく言った。
「それにしても」と母が赤ちゃんに話しかけるように続ける。
「あなたのパパは立派でちゅね~」
「まだ若いのに。仕事も頑張ってるみたいじゃない? 千紘が大学出てすぐに結婚するって言った時は、お父さんと反対したけど。もう孫の顔を見ちゃったらダメね。鼻の下伸ばして」
話をする母の顔はとても幸せそうだった。
「お母さんのこんな顔、見たことないな」
千紘は母に相槌をうちながらそんな事を思っていた。
そして、机に置いてあるスマホに気がつく。
中を開けてみると、赤ちゃんの写真の他に家族三人での写真が残っていた。
まじまじと写真を見て、千紘は思わず天井を仰ぐ。
「やっぱり……先輩だ……」
あの別れ方をして、どこをどうしたらこの未来につながるのか……
「そうそう!」母の声に千紘は、はっとする。
「今度の週末に住宅展示場に行くって話、大丈夫よね。健ちゃんも来るんでしょ? お父さん、二世帯にするって乗り気だから! お父さんがその気の内に決めちゃった方が良いわよ! あっ、ミルクのお湯沸かしておくわね」
母はそう言いながら赤ちゃんをそっと千紘に抱かせる。
千紘は今にもこわれそうなほど小さくて、ふにゃふにゃの温かい人を抱き、何とも言えない気持ちになっていた。
「かわいい……」
そして心の中で叫んでいた。
「……っていうか、私! ファーストキスもまだなんですけどーーー!!!」
お読み頂きありがとうございました!!!→つづく
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