第16話 千紘のループ:大学2年生
こんにちは。
頭の中の物語を文字にしてみます。
ラストにたどり着けるように、不定期ですが更新したいと思っています。
よろしくお願いします。
※千紘と海斗が過去に戻ります。
~2021年9月5日~
AM6:30 千紘はあの石の前に立っていた。
早朝といっても、まだまだ残暑は厳しい時期だ。
(今日も暑くなりそうだな……)と千紘は思いながら空を見上げる。
「お待たせ」と言いながら、海斗が現れた。
昨日の別れ際、二人で石の前に立つには人目につかない時間の方が良いと話し、この時間に待ち合わせにしていた。
「これがその石?」海斗が石を見ながら聞いた。
「そうです。何の変哲もない石ですよね」千紘は笑いながら答える。
思い出の石は、いつも通りなんの変わりもなくそこにあった。
本当に触れたら過去に戻る石なのかと、疑ってしまうほどに静かだ。
「確認なんだけど……」海斗が言う。
「もし、石に触れても俺だけ過去に戻れなかったとしたら、千紘が声をかけて来るまで待ってて良いんだよね?」
「たぶん……私が戻って来るのは8月27日です。ただ、この事を知っている私と海斗さんが離れた場合、未来が二つに分かれてしまう……そんなことになったらどうしたらいいんでしょうか?!」
「え?! それだと一生出会えない事になるんじゃない?!」
千紘はその言葉を聞き背筋がゾッとするのを感じていた。
やはり気軽に挑戦すべきではないのかも知れない。
でも……動かなければマサくんは救えない。
海斗は千紘が不安になっている様子を感じ取って優しく話しかけた。
「不安にさせるような事言ってごめん。でももう俺たちは渦の中にいるんでしょ。正樹が俺と千紘を繋いだとしたら、きっと二人とも過去に戻れるはず。これしか正樹を救う方法はない。それなら行ってみよう」
千紘は顔を上げて海斗を見つめた。
「大丈夫。きっと、大丈夫」自分に言い聞かせる。
そして「はい」と頷いた。
海斗が言った。
「もし、戻った過去が正樹が失踪した2013年8月27日よりも後だったら、すぐに戻って来よう」
そして、笑顔で手を差し出した。
「同じ日に戻れるようにおまじない」
千紘は「え……」と戸惑ってから、少し照れつつ海斗の手のひらに自分の手をそっと置いた。
ぎゅっと握られた手のぬくもりを感じながら、二人は石に向かって反対側の手を伸ばす。
「せーの!」
◆
突風は二人を包みこむ。
千紘も海斗も必死でつないだ手に力を入れる。
千紘の意識が薄くなった時、海斗が自分の名前を呼んだような気がした。
◆
~2017年6月15日~
「あれ? 聞いてる?」
突然誰かに声をかけられ、千紘は反射的に顔を上げた。
目の前に立っているのは……誰だっけ?
千紘ははっとして、周りを見る。
「海斗さん……海斗さんがいない……?!」
慌てて鞄の中からスマホを探した。
「あった! ……これ、前に使ってた機種だ……」
そんな事を考えながら画面を表示させる。
「2017年6月15日」
日付はマサくんの失踪の後だった。すぐに未来に帰らなければいけない。
千紘は慌てて立ち上がろうとして、そして、はっと目の前の人物に目をやる。
「話しかけてるのに、一人で何やってるの?!」
相手は怒って千紘の顔を覗き込んだ。
その顔をまじまじと見つめ、千紘は「あっ……」と声がもれる。
目の前の人物は、千紘が大学時代に憧れてた先輩だった。
「ご、ごめんなさい。急に……体調不良っていうか何というか……」と千紘は慌てて言った。
周りを見回すと、そこは遊園地だった。そして千紘は思い出す。
そうだ! これは私の人生で初めてのデートの日だ!
人と関わるのが苦手で奥手の千紘は、この時まで誰ともデートすらしたことがなかった。
それがサークルで知り合った先輩とは少し話ができるようになり、初めてデートに誘われたのだった。
結局デート中、極度の緊張で全く話ができない千紘をつまらなく感じた先輩は、その後千紘に声をかけることはなく、他の子と付き合ってしまった。
「苦い思い出……私、この事って後悔してたんだ……」
「大丈夫?」そう言いながら、先輩は千紘の隣に座った。
「は、はい。少し休めば平気だと思います……」
千紘はそう言いながら、どうやってこの場を終わらせようかと必死に考えていた。
海斗とはぐれてしまったという事は、とにかく一度未来に戻った方が良いという事だろう。
「さっきの話の続きだけど……」と先輩は話しだした。
「就活するのが、本当にめんどいんだよね。何の仕事したいか、とか全然わかんないし。大学出たら専門に入ろうかな、とかも考えてる」
「へぇ、そうなんですね」千紘は適当に相槌をうった。
「千紘ちゃんだって、来年は就活に向けて動くんでしょ?」
「そ、そうですね……(失敗しますけど)」
「働きたくないな~。言われたことだけやってればいい、楽な仕事ってないかな~」
そう言いながら、ベンチの背もたれに寄りかかる先輩を見て、千紘は自分でも先輩の発言にイラっとするのがわかった。
「そう思うんだったら、ずっとバイトで生活すれば良いんじゃないですか?」
「え?!」先輩は急に千紘に反撃され、驚いた顔で千紘を見ている。
「でも、バイトだって言われたことだけやってる人は成長できないでしょうね。私がそうだったんですよ。ただ時間が過ぎて行くだけの毎日。でも、与えられた仕事の中から、自分ができる事を探して精一杯努力すれば、未来は変わるって知りました。それに……」
千紘の脳裏に海斗の姿が映った。
「自分の仕事にプライドもって、懸命に仕事をする男性は本当に素敵だってことも知りました」
千紘は自分でも予想外に熱く話してしまったことに慌てて、下を向いた。
「千紘ちゃんて、想像していた子と全然違うんだね……ちゃんと自分の意見持ってるんだ」
先輩が笑ってそう言った。
「え……」千紘は先輩の顔を見つめた。
そしてゆっくりと先輩の顔が近づいて来た気がして、慌てて立ち上がる。
「ごめんなさい! 私、帰ります」
千紘は先輩に頭を下げ出口に向かった。
「え?! ちょっと待って……」先輩の声が後ろから聞こえた。
千紘は振り向かずに歩き続ける。
そんな千紘の後ろ姿を先輩がずっと見つめていることに、千紘は気がつかなかった。
お読み頂きありがとうございました!!!→つづく
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