第12話 人の円
こんにちは。
頭の中の物語を文字にしてみます。
ラストにたどり着けるように、不定期ですが更新したいと思っています。
よろしくお願いします。
※千紘が少しずつ変わっていきます。
定時を過ぎ、千紘は鈴木と一緒に会社のエントランスに向かっていた。
社員証をリーダーに当て、ピッと読み取りの音が聞こえたのと同時に「ちょっと!」と声をかけられる。
振り向くと立っていたのは亜理紗だった。
千紘は「え……?」と戸惑った。
亜理紗はおもむろに千紘に近づき「あなた、海斗の知り合いなの?!」と聞かれた。
千紘は(あの時と同じだ……)と思う。
明らかに亜理紗は千紘に好感を持っていない様子で、突っかかって来た。
千紘は冷静を保って言う。
「知り合いというか、落し物を拾った顔見知りです」
亜理紗は「ふーん」と言い、「あなた総務なんでしょ? 海斗は営業で大事な時期なのよ。だから……」
そこまで聞いて、千紘は次の台詞が目に浮かんだ。
そして亜理紗に向かって笑顔で言った。
「『気安く近づかないで欲しいんだけど!』そう、言いたいんですよね?」
にこっとする千紘に亜理紗が言葉に詰まる。
「あの一つ言っていいですか?」千紘は続けて言った。
「同じ会社で仕事をする上で、営業だ総務だ、派遣だ社員だって、そんな事どうでもいいんじゃないですか? みんな自分に与えられた仕事を、その立場で精一杯努力してるんですよ。そこには上も下もない。あなただって、佐々木さんのサポートをするために必死で努力してるんでしょ? ちなみに、佐々木さんには私から近づいた訳ではないので、それだけは言っておきます。失礼します!」
千紘はそう言うと、亜理紗に頭を下げくるっと向きを変え歩き出した。
その後、亜理紗がどんな顔をしていたのかはわからない。
ただ、千紘は「今回はちゃんと思っていることが言えた……!」と心が昂っているのがわかった。
しばらくして鈴木が声を出す。
「野村さん、かっこいいね」
千紘は慌てて「そんなことないです!」と大きく手を振った。
そして「でも……」と続ける。
「私ずっと自分に自信がなくて、思ったことを言えずに過ごしてきたんです。でも、ある人に『少しずつでもいいから、自分に自信をもって前に進んで欲しい』って言われて。私は強くなりたいって思ってます。そして、人と向き合うためにはちゃんと思っていることは言わないといけないんじゃないかって思って」えへへと千紘は笑った。
駅に向かいながら千紘は鈴木に聞いた。
「鈴木さん。運命ってあると思いますか? どんなに状況が変わっても、必ずその人とは出会うっていうような」
鈴木は「うーん」と考えてからゆっくりと話した。
「私はあると思うよ。『縁』とも言うかも知れないね。今関わっている人たちって、やっぱりどこかで縁がある人たちなんだと思うな。その縁が繋がって、自分をまるく囲む人の『円』、輪を作っていくのかも知れないね」
微笑みながらそう話す鈴木の顔を見ながら、千紘は(やっぱり鈴木さんって素敵な人だな……)と思った。
鈴木と別れ、一人で電車に乗る。
「人の円……か」千紘はそうつぶやき、自分にはこれからどれだけの人と、その輪を作っていけるのだろう、と思っていた。
◆
千紘が自宅に帰ると「待ってました」とばかりに母が玄関まで飛んでやって来た。
「見つけたのよ! マサくんの家の年賀状」
「え?! 本当?!」千紘は大きな声を出し、年賀状を受け取った。
「お母さん! ありがとうーー!!」
そう言うと、千紘はすぐに自分の部屋に入った。
年賀状の日付は「2008年1月1日」。
マサくんが引っ越した次の年のものだった。
写真はなく、干支と文字のみのシンプルな年賀状。
「引っ越し後の生活もやっと落ち着きました。ぜひ遊びにいらしてください」という、マサくんの母親からのメッセージが書いてあった。
「マサくんの様子はわからないかぁ。まあ、わかっても13年前の年賀状だもんね」
千紘はそう思いながら住所を調べる。
マサくんの家は隣の市だった。これだったら電車で行ける距離だ。
「次の週末に行ってみよう」千紘はそう心に決めた。
◆
~2021年9月4日~
千紘は電車を乗り継ぎ、マサくんの家の最寄り駅までやって来ていた。
初めて降りる慣れない駅に少し緊張してしまう。駅の出口の案内板を頼りに進んでいく。
事前に調べた所では、マサくんの家まではバスに乗る必要がありそうだった。
大きなこの駅ではバスの種類も本数も多かった。
どのバスに乗れば良いのかわからず、案内板の前で立ち尽くしていると「あれ?!」と後ろで声がした。
千紘は「え?」と振り返り、「えぇ?!」と驚いた声が出る。
立っていたのは海斗だった。
「野村さん?! 何でここにいるの?!」海斗も驚きを隠せない様子だった。
千紘も急な出来事に動揺し一瞬言葉を失う。
海斗は会社にいるときのスーツ姿とは違い、シャツにデニム姿のラフな服装だった。
(どんな服装でも素敵なんだな……)動揺しつつも、ふとそんな事を思っている自分に気がつき、千紘は赤面する。
「あ、あの。この前話していた知り合いの子の家がこの近くで……。突然なんですけど、ちょっと訪ねてみようと思って……」
そう言いながら、千紘は「あれ?」と首をかしげる。
明らかに海斗の様子が動揺していたのだ。
「それって……もしかして……」そう小さく言い、海斗は口をつぐんだ。
千紘は普段見慣れない、そんな海斗の様子を不思議に思いながら見つめていた。
お読み頂きありがとうございました!!!→つづく
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