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一戦を交える時

 3階に上がりこんだ般若父母は相変わらずのむっとした顔をしています。私はこの人たちの笑顔を見たことがない気がするわ。気味悪いにやけ顔はよく見たけれど。


その般若2体の前に立つ私達5人。誰も座らず誰も飲み物を出す素振りもありません。

これが倒幕時代の戦なら、何藩対何般若でしょうか。


「綾さん、お話があります。悪いですけど他の方々は席を外して」と般若母。


「お断りします。私達もここの住人、綾の友人。綾はここから動きません、私達も動きません。嫌というならお帰りください」

と、言ったのはあこでした。


「なに、綾さんが綾さんなら友人も、ねぇお父さん」


「まあ、いい。今回の調停とやらは今の陽介では無理だ。わかるね?息子があそこまでまいったのは、綾さん、あなたが容赦なく追い詰めたからだ。」


 あぁ私が一番嫌いなのはこの男です。

ゆっくりと分かったような大口。人を攻めるのは得意。いざ立場が悪くなれば知らんぷりで表舞台から去る小物。

今も我が物顔で目を細めて大仏のふりしています。むすっと。


「息子さんの、病気は前からです。あなたがたご家族が責任をなすりつけ、仕事で悩み退職した頃からでは?それ以来経済的、精神的に追い詰められたのは、こちらです」


「はあ、よくまあそんな。あんたは昔からそうだ。周りに守ってもらって、一人前の口きくが、まともに会社経営もできないだろ。あんな水商売で」


「ちょっと、失礼な」あこがキレそうです。


「当人たちに任せていても、らちが明かないのでね。ということで、このような状態が続くようであれば、場合によってはあなたを訴えますから。高野家として。離婚だ別居は勝手にするがいい、ただし息子を追い詰めた事実は変わらない。

それが困るんであれば、別れずにやっていくしかないだろうな。」


「ちょっと!粗塩あったよねっ塩!」

 般若父母が退散し、かずぴが玄関に塩をまきにいくのでした。


その後ゆりの旦那様、まさしさんが話があるといいます。


「綾さん、陽介さんは通院してるんですよね。または、診断書の為に一度だけの外来か、ゆりに聞きましたが、もう投薬が必要なレベルでは?

何度も綾さんに近づいてるなら危険です。本人の行動もさることながら、綾さん。綾さんが精神的にまいりますよ。」


「そうですね。通院してるかは分かりませんが、実は最近よく待ち伏せされたり、ずっと着信があったりなんです。」


「ああ、パニック障害はこじらせるとさらに他の精神的な症状も出ます。うつや不安障害のような」

「はい......」




その翌日のこと


 朝カイを幼稚園へ送った帰り道、般若がいました。明るいのどかないい天気だというのに、不気味にただ立っています、シェアホームの手前にスーツ姿の男が。


「カイは?カイに会わせてくれ」


「カイは幼稚園よ。今のあなたに会ったらカイは驚くわ。まともになってからに.....」


「俺はまともだ。おかしいのはおまえ、綾だろ。急に何もかも終わらせようとするのは......おいっお前のせいだ!」


急に声の調子が変わり、誰に言ったのかと。

振り返れば悟さんがいました....。

嫌です。こういうのは私嫌なのです。


「悟さん、行きましょ。話さなくていいから」


「なんだよ、結局逃げるんだな。どいつもこいつも。」


「俺は逃げない 陽介おまえ大丈夫か?」


「はあ?なんだよ その言い方っ。おまえは何様だ。綾の付き人程度がよくも。

言っとくがな、綾みたいな女はお前の手には負えない。じきに綾は俺が必要になる。お前みたいな雑魚は最初から相手にしてないんだよ」


「悟さん、悟さん 行こう」


私は悟さんの腕を引っ張ります。ぐっと力が入った彼の腕を。

悟さんは、私とそっとその場を去りました。


「悟さん......」

と私の不安げな呼びかけに笑顔で悟さんは、小さなスティックのようなものを見せます。

「音声 ボイスレコーダー。今のはあまり収穫なかったな。」


この人は、案外タフなのかもしれません。どんな時も冷静な悟さん。

私に迫るとき以外は...ですけど。


「悟さん、それの為に?」

「ああ これからは俺もじっとはしてられないよ。綾が毒されたままずっと過ごすのは見ていられない。早く決着がつくように何かさせて。」

「ありがとう」


「今から忙しい?」

「え、まぁ そりゃいろいろとすることはあるけど」

「じゃ、15分だけ」

悟さんは私を乗せて車を走らせました。

近くの山の公園にある展望台の駐車場。


「ほら、たまには見おろしてごらん あの町を」


ガードレールから少し乗り出して下に広がる私たちが暮らす住宅街を見た。

こうしてみたら小さな世界。小さな世界で私はいつも生きている。小さなことにつまずきながら。


「そうね あの中でもがいていたら明日も見えなくなりそうね」


「綾」

こちらを向いて近づいてきた悟さんは、山の風で髪がまとわりつく私の髪をかき分けて優しく口づけをした。


「俺が守るよ だから諦めないで」


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