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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第五章「梅雨」

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5-22:「欲しいのは、あたしでしょ!」

5-22:「欲しいのは、あたしでしょ!」


 この状況を乗り切った後の約束をしたことで、満月とゆかりはほんの少しだけ前向きになることができた。

 だが、拝殿の中は、再び沈黙していた。


 いくら気をまぎらわすためとはいえ、おしゃべりをこれ以上続けるのはさすがに無理なことだった。

 いつ、気をまぎらわすためのおしゃべりの中で、ぽろっと、目の前に迫ってきているタイムリミットへの不安や、恐怖といった本音がこぼれ出てきてしまうか、わかったものではない。


 拝殿の中は、重苦しい沈黙で満たされていた。


 その、暗く沈んだ雰囲気の中、ずっとうずくまっていた星凪が、突然立ち上がった。


「星凪ちゃん? どうしたんですか? 」


 黙ったままストーブの火にあたっていた満月が星凪の様子に気がついて顔を向けると、そこには、ついさっきまでの星凪とは、まるで別人のような表情を浮かべた星凪の姿があった。


 その視線はまっすぐ前を見据え、何か、重大な決意を定め、すべての迷いを消し去ったような表情を浮かべている。

 それは、同時に、一切の余裕を失った表情でもあった。


「……あたしが、いく」


 その決然とした表情のまま、星凪は、そう呟くように宣言した。


「いくって、どこにですか? 」


 満月と同じように、星凪の雰囲気の変わりようを見て驚いていたゆかりがそうたずねたが、その問いかけに星凪は何も答えなかった。


 ただ、星凪は、その1歩を踏み出す。

 幽霊である星凪にとって、移動するために、半ば消えかけている足を前に踏み出す必要などないはずだったが、それでも星凪はまるで歩きだすようにその足を前へと踏み出した。


 自身の足で、前に。

 それは、星凪がした決意の強さを物語っているような姿だった。


 歩んでいく星凪の姿を、満月もゆかりも、呆然としたまま見送った。

 2人には、星凪が[どこへ][いく]のかまったく想像がついていなかったし、突然の行動にどう反応すればいいのかわからなかった。


「ちょっ、星凪ちゃん!? 」

「どっ、どこへ行くんですかっ!? 」


 だが、満月もゆかりも、すぐに慌てて立ちあがることになった。


 拝殿の中を横切るように進んでいった星凪が、ぴったりと閉じてあった拝殿の扉を開き、たたり神が待ち受ける外へと向かって行ったからだ。


────────────────────────────────────────


 慌てて、薙刀なぎなたを手に拝殿を飛び出した満月とゆかりは、そこで、たたり神と正面から対峙する星凪の背中を見つけていた。


 すでに、水かさは拝殿の床下まで到達している。

 空から降り注ぎ続ける無数の雨粒によって静かな水面みなもにいくつもの波紋が生まれては、消えて行く。


 その水面みなもの上に立つように、たたり神の真正面に立った星凪は、両手を大きく左右に広げながら叫んだ。


「欲しいのは、あたしでしょ!? 」


 それは、迷いのない、振り絞るような叫び声だった。


「お前が、3年前に殺した! でも、あたしの魂は手に入らなかった! だから、アンタは、あの時手に入らなかった[あたし]が欲しくて、こんなところまで追いかけてきた! そうなんでしょう!? 」


 星凪の叫び声に、たたり神は答えない。

 だが、たたり神は星凪の言葉に、言葉で返答する代わりに、その手の1本をゆっくりとさしのばし、星凪の黒髪にそっと触れ、いとおしむようにそっとなでた。


 まるで、何年も、何年も、ずっと待ち続けた想い人の髪をなでるような手つきだった。


「いいわ。……あたしを、あげる」


 星凪は、そんなたたり神を真っ直ぐに見上げ、静かに、はっきりと言った。


「お前が欲しがっているものを、あげる。……だから、お兄ちゃんたちは、見逃して! 」

「そっ……、そんなの、いけません! 」


 星凪の決意の正体をようやく知った満月は、思わずそう叫んでいた。


「そっ、そうです! そんなこと、する必要はありませんし、して欲しくもないです! 」


 続いて、ゆかりもそう叫ぶ。


「星凪ちゃん! 下がってください! もうすぐ、お父さんが助けに来てくれるんですから! 」

「満月先輩の言うとおりです! 星凪さんが犠牲になる必要なんて、ありません! 」


 満月とゆかりは叫び、星凪を説得しようとしたが、しかし、星凪は2人の方を振り返らなかった。


 そして、その星凪に向かって、いく本ものたたり神の腕がのびてくる。

 星凪は、すべてを受け入れるように、抵抗しようとするそぶりさえ見せなかった。


(このままじゃ、星凪ちゃんがっ! )


 そう思った満月は、とっさに、雄叫びをあげ、薙刀なぎなたをかまえながら拝殿を飛び出し、水の中に駆けこんでいた。

 その姿を見たゆかりも、叫び、薙刀なぎなたを振り上げて水の中へと駆けこんでいく。


 しかし、2人の突撃は、すぐに弱まった。

 すでに水かさは満月の腰の高さ位になっており、思うように前に進むことができなかったのだ。


 身動きの取れない2人に、たたり神の腕がのびてくる。


「きゃっ!? 」「うわっ!? 」


 満月とゆかりは、反撃することもできず、あっという間にその腕に捕まってしまった。


「やめてっ! あたしは、どうなってもいい! だから、その人たちに手は出さないで! 」


 満月とゆかりを捕まえ、空中に持ち上げたたたり神に、星凪が必死になって叫ぶ。

 だが、たたり神は星凪の言葉など無視して、満月とゆかりを捕えた手に力をこめる。


 このまま、2人を握りつぶそうとでもいうのだろう。

 満月もゆかりも、苦悶の声をもららし、必死にもがくが、逃げ出すことができないようだった。


「満月さんと、ゆかりちゃんを、離せェッ! 」


 その時、丈士がそう叫びながら、拝殿を飛び出して行った。


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