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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第五章「梅雨」

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5-18:「仇(かたき)」

5-18:「かたき


 外では、未だに冷たい雨が盛んに降り続けている。


 天気予報では、この雨は夜半まで降り続き、徐々に弱まっていくはずだということになっていたが、今のところはそんな気配もない。


 丈士は拝殿を飛び出すと、靴をはくのも忘れ、石畳の上を駆け抜けた。


 石段の上まで来ると、たたり神の姿が見えてくる。

 悠然と、水かさが増し、鳥居によって作られた結界が無効化されるその時を待つ、おぞましい怪物。


 星凪の、かたき


 星凪を川へと導き、星凪を連れ去り、水底みなそこへと引きずり込んだ。


 丈士から、妹を奪い去った。


 あの、いつまでも、当たり前のように続くのだと思っていた兄妹の日々を、永遠に失わせた存在。


 丈士は、一心に石段を駆け下りた。

 そして、半分以上沈んでしまった鳥居越しに、たたり神と対峙たいじすると、さやから刀を引き抜き、そのままさやを捨てて、上段に刀をかまえた。


 丈士の存在に気づき、たたり神が虚ろな眼窩がんかから、丈士へと視線を向ける。


「うああああああっ!! 」


 雄叫びをあげながら、丈士はたたり神に向かって突進しようとした。


「なっ、何やってるんですかっ、丈士さん! 」


 丈士が水の中に駆け入ろうとした寸前で、慌てて丈士を追いかけてきた満月が丈士のことを背後から羽交い絞めにした。

 どうやら、境内を駆けていく丈士の姿に気がつき、神楽殿から飛び降りて全速力で丈士を追って来たようだった。


「どうしちゃったんですかっ!? いきなりたたり神に斬りかかって! それも、1人で! 1人で戦うなんて、そんなの無茶です! 」


 満月はそう言って丈士を説得しようとしたが、丈士の耳にはその言葉はほとんど届いていなかった。

 丈士は意味をなさない言葉を叫び、たたり神への突撃を邪魔しようとする満月を振り払おうとする。


 満月は運動部に所属してしっかり体を鍛えているので体力はある方だったが、それでも、男性である丈士の力を1人で抑えきることはできず、丈士にずるずると引きずられてしまう。


「だっ、大丈夫ですかっ! 満月先輩! 」


 その時、拝殿から駆け出して行った丈士を少し遅れて追いかけてきたゆかりが到着した。


「ゆかりちゃん! 丈士さんがッ! 止めるの手伝って! 」

「りょっ、了解です! 」


丈士に引きずられていた満月が必死に叫び、ゆかりはその言葉にうなずくと自身も丈士にしがみつく。


「いったい、どうしたって言うんですかっ!? いきなり拝殿から駆け出して行って! しっかりしてください! 」

「うるさいっ! 放せっ! 放してくれっ! 」


 満月とゆかりの2人がかりで動きを封じられた丈士は、ゆかりの問いかけに、錯乱したように叫び返した。


「アイツはっ! アレはっ! オレのッ!! 星凪の、かたきなんだ! 」

「はぁ? かたきですかぁ!? いったいなんの話をしているんですかっ!? 」

「アイツがッ! 星凪を、殺したんだッ! 」

「んなっ!? アイツが、星凪さんをっ!? 」


 丈士の悲痛な叫びの意味を理解したゆかりは、丈士の錯乱の理由を知って絶句した。


「……どっこいせ! 」


 満月とゆかりが必死に引き留めているのに止まろうとする様子のない丈士に、満月は強硬手段に出る。

 満月はかけ声とともに丈士に足払いをかけると、巧みな体術で丈士を投げ飛ばした。


 丈士にしがみついていたゆかりごと。


 丈士はぬれた石畳の上に投げ出され、刀を手にしていたために手をつくこともできず、無様に倒れこんだ。

 満月はそんな丈士にすかさず駆け寄り、上から覆いかぶさるようにして抑え込み、丈士の身動きを封じてしまう。


「冷静になってください、丈士さん! 」


 なおも暴れようとする丈士に、満月は耳元で叫んだ。


「あのたたり神が星凪ちゃんのかたきだというのは、わかりました! ですが、今、1人で丈士さんが挑んで行って、どうするつもりですか!? ……丈士さんまで、あのたたり神にやられるだけですよ! 」


 耳元での満月の声は耳鳴りがするほどだったが、ようやく、その声は丈士にも届いた。


 このまま挑んで行っても、たたり神に殺されるだけ。

 刀を持った程度で、神の力を持つような相手に、敵うはずがない。


 冷たい雨と、倒れたことで思い切り水を被り、頭も冷えたことで、丈士もその現実を理解することができていた。


「ぅっ……、ぅうっ! 」


 丈士は暴れるのをやめ、悔しそうにうめきながら刀から手をはなし、握り拳を作って石畳に何度も叩きつけた。


「丈士さん。安心してください。わたしも、力を貸しますから」


 その丈士の様子に、ひとまず暴走を止められたことにほっとした表情になった満月が、優しそうな声でそう言った。


「……満月先輩、酷いです」


 そんな満月に、丈士と一緒に投げ飛ばされたゆかりが、「どうしてこっちの心配はしてくれないんですか」と言いたげな視線を向けていた。


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