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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第五章「梅雨」

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5-6:「本当に優しい人を本当に怒らせると本当に怖い」

5-6:「本当に優しい人を本当に怒らせると本当に怖い」


「勝負あったね。……さ、武器を捨てな」


 ゆかりの薙刀なぎなたの切っ先を喉元のどもとに突きつけられ、身動きを封じらた丈士に、体勢を立て直した副部長が悠々(ゆうゆう)と歩いて近づきながらそう言った。


 丈士は、大人しく竹刀をその場に置く他はない。

 そして、すぐに丈士は、薙刀なぎなた部員たちによって周囲を取り囲まれていた。


「はっ! なかなかてこずらせてくれたけど、自分で滑って負けるだなんて、とんだマヌケだね! 」


 丈士を取り囲んだ薙刀なぎなた部員たちは、その副部長の声で、クスクスと丈士をあざけるように笑う。


(違う。ゆかりちゃんが、何かしたんだ)


 丈士は、ゆかりに何かされたのだという確信があった。

 だが、それを口に出すことはしなかった。


 説明しても信じてもらえはしないだろうし、負け惜しみととられるだけだからだ。


「さて。勝負あったわけだが、どうする? 今からでも、満月先輩に近づかないと誓えば、わたしたちは寛大にアンタを処遇しようじゃないか」


 勝ち誇った副部長の言葉に、丈士は小さく首を左右に振った。


「断る。……こっちにも、事情があるんだ」

「ふん。強情な奴だ」


 その丈士の返答に不愉快そうに鼻を鳴らすと、副部長は薙刀なぎなたをかまえ直し、その切っ先を丈士に振り下ろすために振りかぶる。


「あたしが、引導を渡してやるよ! せいぜい、意地を張ったことを後悔しな! 」


(くっ……! ここまで、か! )


 丈士は、無念で、悔しかった。

 だが、もはやどうすることもできない。


 そして、気合の声とともに、副部長が丈士に薙刀なぎなたを振り下ろした。


────────────────────────────────────────


 しかし、副部長の薙刀なぎなたは、丈士の身体に命中することはなかった。


(1回目は脅し、か……? )


 丈士はそう思ったが、どうやら、そうではないらしい。


「くっそ、何だ? 何か、急に薙刀なぎなたが動かされたぞ? 」


 副部長が、戸惑ったような声をあげた。


 何が起きているのかは、すぐにわかった。

 星凪が、丈士を守るために力を使い、副部長の薙刀なぎなたの軌道をそらしたのだ。


(なっ、なにしてるんですかっ! 約束が違いますよ! )


 おそらく、薙刀なぎなた部の部員たちの中で唯一、幽霊である星凪の存在を認識しているゆかりが、そう問い詰めるような視線を星凪へと向けると、星凪は苦しそうな顔で叫んだ。


「やっぱり、あたしには無理! お兄ちゃんを傷つけるなんて、絶対にできないよ! 」


(星凪……)


 なんだかんだ言っても、兄妹。

 丈士は、この土壇場どたんばで星凪が翻意ほんいしてくれたことが嬉しく、同時に、ほっと安心してもいた。


「ええい、もう一度だ! 」


 しかし、ピンチが終わったわけではない。

 副部長は丈士に引導を渡すのをまったくあきらめておらず、もう1度薙刀なぎなたを振り上げる。


「そこまでっ! 」


 満月の、道場中にビリビリと響き渡るような声がとどろいたのは、その時だった。


 その威圧感のある声にビクッと肩を震わせた後、声の下道場の入り口の方を見ると、そこには、丈士がこれまでに見たことのないような怒りの表情を浮かべた満月の姿があった。


「全員、整列っ! 」


 満月にそう命じられると、薙刀なぎなた部員たちは一斉に駆け出し、満月の前で一列に整列し、直立不動の姿勢を取った。


「いったい、みんなして何をやっているんですか? 」


 薙刀なぎなた部員たちが素直に自身の指示に従ったことに笑顔を作った満月だったが、それは、怒りがこめられた、恐ろしい笑顔だった。


 説明しろ。

 言葉のうちに込められたその要求に、副部長が1歩前に進み出る。


「こ、これは、ちょ、ちょっと地稽古じげいこをしていただけでしてっ」

「ほほぅ? わたしには、全員で丈士さんに襲いかかっていたようにしか見えませんが? 」


 震える声で説明する副部長に、満月は双眸そうぼうを細めて軽く首をかしげる。

その満月の様子に副部長は恐縮きょうしゅくして身体を固くし、他の部員たちも萎縮いしゅくした。


 満月はさらになにか副部長が言うかと思ってだまっていたが、副部長が何も言えずに黙っていると、「フム」とうなずき、怖い笑顔を浮かべたままズイッと顔を副部長へと近づけた。


「その薙刀なぎなたを、貸しなさい」


 そして、副部長から薙刀なぎなたを奪い取ると、満月は少し距離を取り、薙刀なぎなたをかまえ、そして、怒りと気迫のこもった声をあげながら、次々と部員たちへ襲いかかって行った。


 まず副部長、そして丈士から見て右から順に、部員たちは満月に足を払われて転倒させられていく。

 そして全員を床に転ばせた後、満月は倒れこんだゆかりに向かって、薙刀なぎなたの切っ先を突きつける。


「言い出しっぺは、ゆかりちゃんですね? 」


 満月の笑顔での問いかけに、ゆかりはその顔を青ざめさせ、ガタガタと震えながら命乞いをした。


「ごっ、ごめんんさいごめんなさいっ! 満月先輩、許してくださいっ! 」

「ダメです。オシオキします」


 しかし、満月は無情に言い放つと、介錯かいしゃくでもするようにゆかりののどの辺りを薙刀なぎなたの切っ先で突く。

 満月のことだから手加減はしているのだろうが、ゆかりは「ぐえっ」という悲鳴をあげ、ビクンと身体を震わせると、まるでトドメを刺されたように動かなくなった。


(本当に優しい人を本当に怒らせると本当に怖い……)


 その光景を星凪と一緒に見守っていた丈士は、その教訓を自身の心に深く刻み込んだ。


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