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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第四章「神事」

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4-21:「同盟」

4-21:「同盟」


「うー……っ、食べ過ぎました……」


 トイレに立った丈士の戻りが遅いということで、もしかしたらトイレの場所が分からなかったのではないかと満月が様子を見に行って、星凪と2人だけで残されたゆかりは、畳の上に仰向けに寝転びながら苦しそうにうめいていた。


 ゆかりが座っていた場所の正面、テーブルの上には、ゆかりが丈士を破産させてやろうという勢いで買い込んだ食べ物が、三分の一ほど残った状態だ。


 買った時は、もちろん、すべて自分で食べきるつもりだったのだ。

 だが、普段から小食であるゆかりには、あまりにも量が多すぎた。


 満月には「食べられないのに買ったらいけませんよ」をしかられたが、しかし、ゆかりには悔いはなかった。


 丈士に、彼が労働の対価として得た正当な報酬を浪費させることができたのだ。

 ゆかりにとって、満月の周囲に居座る邪魔者である丈士に、一矢報いたのだ。


 それに、やけ食いしたかった、というのもある。

 その原因も、もちろん、丈士だ。


 何もかも、丈士が悪いのだ。


(ぜったいに……っ! 満月先輩は、私が守ります! )


 苦しそうにしながらも、内心でそう決意を固め直したゆかりは、自身の拳を突き出して握りしめる。


 ゆかりには恋愛経験はなかったし、男性と女性の間の感情の機微はまだよく分からない。

 満月が丈士や星凪に親切にしているのも、恋愛感情というものには思えない。


 だが、ゆかりに言わせれば、世の中の男どもはみな、油断ならないケダモノたちだった。


 芸能事務所にスカウトされ、霊感があることからそれをウリにした霊能アイドルとして活動し始めたゆかりのファンの多くは、占いやオカルト好きな女の子たちだったが、男性のファンも少なからずついていた。

 いわく、ゆかりのクールでツンとしているところが「イイ」らしく、一方的に好意をよせてくるようなやからもいる。


 ゆかりが少しでも優しい態度を見せれば、「ゆかたんがデレた! 」などと大騒ぎするような相手には、自分のファンとはいえ、ウンザリとした気持ちにさせられる。


 今のところ、丈士は分別を持って満月と接している様子だったが、きっと、本性をいつわっているだけに違いない。

 ゆかりに言わせれば、男性というのはそういうものに違いないのだ。


 満月の優しさゆえの親切を勘違いして、いつ、丈士がその本性をあらわし、その毒牙に満月をかけようとするか。

 想像するだけで、ゆかりはゾッとしたような気分になる。


 そして、許せない気持ちになるのだ。


 それに、ここしばらくの間、満月は丈士と星凪の世話にかまけて、ゆかりにかまってくれる時間が減っている。

 ゆかりとしても満月のやることはできるだけ尊重したかったが、正直、耐えられそうにない。


 そしてなにより、満月とゆかりの大切な時間を奪っているのが、男なのだ。


「アンタ、このあたしの目の前で、よくそんなに油断していられるわよね? 」


 そう言われたゆかりが見上げると、そこには、霊体である星凪がいて、ゆかりを睨みつけながら見下ろしていた。


「はっ」


 ゆかりは、星凪の言葉を笑い飛ばす。


「あなたは、霊としてはそこそこの力を持っているようですが、正直言うと私の敵ではありません。満月先輩に止められてさえいなければ、今すぐにでも除霊して差し上げますよ」

「そんなこと、ぜったいにさせないもん」


 刺々(とげとげ)しいゆかりの言葉に、星凪は舌を出して言い返す。


「あたしはこれからもずっとお兄ちゃんと一緒にいたいの。アンタなんかに邪魔させないし、あのオンナだって、そのうち追い払ってやるんだから! 」

「残念ですが、それは無理ですね。……満月先輩は、私なんかよりよほど強いですから」

「ぐぬぬぅっ」


 ゆかりの実感のこもった言葉に、星凪は悔しそうにうめいた。

 星凪自身も、満月の強力な霊能力は認めざるを得ないのだ。


 もう話は終わりだとばかりに両目を閉じたゆかりは、丈士を探しに行った満月がまだ帰ってこないということで、たまらなく不安な気持ちになって来た。

 自分の知らないどこかで、丈士と満月の2人だけで話し込んでいるかもと、そう思ったからだ。


(どうにかして、あの男を満月先輩から遠ざけないと……っ)


 焦りはつのるばかりだったが、満月には一度「こう」と決めたら曲げない、少し頑固なところがあって、ゆかりの力だけではどうすることもできない。

 今までも様々な手段で満月と丈士が親密になるのを阻止しようと試みては来ていたが、効果はあがっているとは言えず、成果はないままだ。


(私だけでは、やはり、不足です……)


 焦燥感と悔しさ、嫉妬心しっとしんで悶々(もんもん)とし続けていたゆかりだったが、その時、唐突に何かを閃いた。


「わっ!? な、なによ、急に起き上がって」


 がばっ、と上体を起こして突然視線を向けてきたゆかりに、クレープの残りを口に運んでいた星凪が驚きと警戒の入り混じったような視線を向ける。


 そんな星凪に、ゆかりはニヤリ、と、不敵な笑みを向けていた。


「私、気がついたんです」

「な、何に……? 」


 ゆかりのことを怪訝けげんそうに、少し気味悪そうに見ている星凪に、ゆかりはついさっき思いついたことを話す。


「私は、満月先輩とあの男が仲良くするのが嫌。あなたは、あの男と満月先輩が仲良くするのが嫌。それで、間違いありませんね? 」

「そ、そうだけど……、それが、って……、ハッ!? 」


 そこで星凪も何かに気づき、意外そうな表情をゆかりへと向ける。

 そんな星凪を見つめ返しながら、ゆかりは提案した。


「私たち、相いれないところはありますが、利害関係は一致しているんです。……というわけで、ここは、一時休戦といきませんか? 」


 その言葉に、星凪もニヤリ、と不敵な笑みを浮かべる。


「つまり、同盟を結ぼうってことね? ……その話、乗った! 」


※作者より

 第四章は、本話で完結となります。

 次章、第五章は、1日お休みをいただきまして、8月9日より投稿開始とさせていただきます。


 第五章から、本作の折り返しとなります。

 また日常パートから入りますが、ストーリー上の大きな転換点となる予定です。


 もしよろしければ、今後も熊吉と本作をよろしくお願いいたします。

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