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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第四章「神事」

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4-19:「祭り:1」

4-19:「祭り:1」


 丈士が、美しくみやびおごそに神楽を舞う満月の姿の余韻よいんに浸りながら、他の人々に交じって石段を下りていくとそこでは、星凪が丈士を待っていた。


 自分では通り抜けることのできない神社の鳥居のわき、キツネの石像の足元でうずくまった星凪は、すっかりねてしまっていた。


「わりぃな、星凪。お待たせ」


 機嫌の悪さがありありと伝わってくる様子の星凪に苦笑し、丈士はなるべくさりげなく、周囲の人々に気づかれないように小さくした声をかける。

 すると、星凪は振り返ってジロリと丈士を睨みつけた。


「あの人の神楽は、どうでしたか? お兄ちゃん? 」


 少しよそよそしい口調での、なかなか、答えが難しい問いかけだった。

 丈士の答え方次第で、星凪はよけに不機嫌になるだろうし、また、いつものように嫉妬心しっとしんにかられてヤンデレを発動するかもしれない。


 かといってお世辞やおべっかを使えば、星凪はきっと丈士を軽蔑けいべつするだろう。


「ああ。きれいだったよ。見に行ったかいがあった」


 少し考えてから、丈士はまずそう言って、正直に感想を述べた。


 星凪はあからさまに不満そうな顔で、丈士にそっぽを向ける。


「お前も、ああいうのができればよかったのになって、思ったよ」


 それから丈士は、星凪の隣でキツネの石像の台座に背中をあずけながら、そう言葉を続けていた。


 それは、不機嫌な星凪へのフォローのつもりだったが、丈士のまぎれもない本心でもあった。

 生きていたとしても星凪が神社に関わるようなことはまずなかっただろうから、巫女装束で神楽を舞う、という場面はあり得なかったかもしれないが、仮にあったとしたら、それはそれで見てみたいと丈士は思っている。


「ふん、だ」


 星凪は丈士の言葉にそう言うだけで振り向きはしなかったが、機嫌は直してくれたようだった。


「それで? 星凪。待ってる間に、屋台の偵察はしておいたんだろ? どの店が美味そうだった? 」


 その気配を察知した丈士がそうたずねると、星凪は神社の前の通りに並んだ屋台の内のいくつかを次々と指さして行った。

 たこ焼き屋、焼きそば屋、じゃがバター屋、クレープ屋。

 この4つが、星凪の好みにかなったようだった。


「オッケー。……もう少ししたら、満月さんとゆかりちゃんも来るはずだから、そしたら一緒に回ろうな」


 丈士がそう言うと、星凪はまた少し不満そうに頬をふくらませたが、小さくコクンとうなずいた。


────────────────────────────────────────


「丈士さん! 星凪ちゃんも! お待たせしました! 」


 満月がそう言いながら、石段をトントンと駆け下りてきたのは、それから20分ほども待った後だった。

 そしてその背後からは、嬉しがっているのか、不満がっているのかよく分からない表情を浮かべたゆかりが、静かに石段を下って来る。


「あれ? 思ったより、早かったっすね? 」

「はいっ! 大急ぎで着替えてきました! 」


 30分くらいはかかるだろうと思っていた丈士が意外そうな顔でそう言うと、満月ははしゃいだ様子で、両手でガッツポーズのようなものを作りながらうなずいた。


 満月は、私服姿だった。

 ニットにカーディガンをはおり、下はデニムのパンツ。

 少しおでかけする、といった程度の、さりげないおしゃれをした格好だった。


(浴衣じゃないのか……)


 私服姿の満月もかわいらしかったが、丈士は内心で少しだけがっかりしてしまっていた。


 もっとも、それは贅沢ぜいたくな願いというものだろう。

 高原稲荷神社の雨ごい祭りは大きなお祭りではなかったし、わざわざ浴衣を着てくるほど大げさなものではない。

 何より、今回はそうやっておしゃれに気を使うような関係にある人が集まっているわけではないのだ。


「丈士さん、星凪ちゃん、ゆかりちゃん! 早く! 早く屋台に行きましょう! 」


(ま、元気そうな満月さんを見られれば、十分か)


 はしゃいだ様子でにこにことしている満月の姿を見て微笑んだ丈士は、そこで、治正からバイト代として渡された封筒を胸ポケットから取り出した。


「実は、満月さんのお父さんからさっきこのバイト代をもらって来たんです。けっこう稼がせてもらったんで、ここは、オレがおごりますよ。満月さんには今までお世話になりっぱなしだし」

「えっ!? いいんですか!? 」


 丈士のその言葉に、満月はキラキラと瞳を輝かせる。


「あっ、気にしないでください。どうも、そういうふうに使えっていう意味で、多めにもらったみたいなんで」


 前のめりのその様子に丈士は少したじろいで、慌てて事情を説明した。

 なんだか、今は満月を直視していられないような気分なのだ。


「なるほど! でしたら、遠慮なく甘えさせてもらいますね! 」


 事情を納得した満月は、屋台の方を振り返ると、「どのお店がいいですかね~」と楽しそうに言いながら周囲を見渡す。


「ええいっ! 全部まわっちゃいましょー! 丈士さん、星凪ちゃん、ゆかりちゃん! 行きましょう! 」


 そして、満月はウキウキとした足取りで屋台へ向かって駆けだしていく。


「あっ、待ってくださいよ、先輩! 」


 そのあとをゆかりが慌てて追いかけていき、丈士は肩をすくめて星凪の方を振り返る。


「それじゃ、オレたちも行くか」

「うん」


 星凪は丈士の言葉にうなずくと、いつものように丈士の腕にしがみついてくる。

 この場所だけは絶対にゆずらない、そういう意思表示であるらしい。


 苦笑した丈士は、こちらを振り返って手を振っている満月と、憮然ぶぜんとした顔でこちらを見ているゆかりに向かって、星凪と一緒に歩き始めた。


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