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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第四章「神事」

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4-18:「神楽:2」

4-18:「神楽:2」


 神楽殿の舞台に、3人の巫女が、静かに入って来る。


 1人は年配の女性で、3人のうちでリーダーの様な役割を果たすらしく中央に立った。

 2人目は30代ほどの女性で、どこかの神社の親族であるようだ。

 そして、3人目が満月だ。


 3人は舞台の上でそれぞれの位置につくと、観衆に向かってうやうやしくこうべを垂れ、それから、それぞれに決められている姿勢をとった。


 やがて、音楽の演奏が始まるのと同時に、神楽が始まった。


 笛の音と、太鼓の音に合わせて、3人の巫女が静かに舞いはじめる。

 巫女たちのそれぞれの手にはおうぎががあり、それをゆっくり、優雅に動かしながら、流れるように様々な動きをくりかえす。


 やがて、辺りに巫女たちの歌う声が響き始める。

 独特な旋律せんりつで、長くのばしながら歌われる言葉だ。


 丈士にはその意味など分かりはしなかったが、それは清らかな泉の透明な水のようによく澄んだ声で、聞いているだけで不思議なことにおごそかな気持ちにさせられる。


 それは、丈士だけではなく、集まった人々も同じ気持ちだったのだろう。

 神楽が始まると、にぎやかだった観衆はスッと静まり返り、誰もが神楽を舞う3人の巫女たちへ視線を向けていた。


 やがて、舞は徐々に激しくなっていく。

 左右に身体をくるくると回転させる動きが加わり、音楽のテンポも少し激しいものになっていく。


 そして、3人の巫女が一斉にトン、と足を下ろしてポーズを決めた後、そこから舞はまた静かなものへと変わって行った。

 どうやら、舞の終わりが近づいているようだった。


 丈士はずっと、神楽から目を離すことができなかった。

 巫女たちは主に本殿や観衆の側を向いて舞っているので、丈士の側からはほとんど後ろ姿しか見えなかったのだが、ちらちらと見える満月の横顔に浮かんでいる笑顔を、丈士は自覚していなかったが(もっと見たい)と思っていたのだ。


 やがて、神楽は終わりを迎えた。

 3人の巫女はそれぞれ最後の姿勢を取り、音楽の演奏が終わると、再び観衆に向かって深々と頭を下げた。


 観衆から、一斉に拍手が沸き起こった。


 当然、丈士も拍手をしていたのだが、


「ぃてぇッ!? 」


 どういうわけか、隣に座っていたゆかりに太腿ふとももを全力でつねられ、丈士はそう悲鳴をあげていた。


────────────────────────────────────────


 雨ごい祭りの一番の見せ場が終わると、集まった観衆は二手に分かれて移動し始めた。

 一方はこのまま帰るのか石段の方へ、もう一方はこれから本殿で行われる祈祷きとうや、神社の建物そのものを見学するために境内の奥の方へ向かって行く。


 丈士としては、満月と「みんなで一緒に出店を巡ろう」という約束をしているし、境内に入ることのできない星凪を待たせているから、石段へ向かって行く人々の流れに加わるつもりだった。


 ゆかりに思いっきりつねられたところをさすりながら立ちあがった丈士だったが、しかし、そこで治正に呼び止められた。


「え、えっと、何でしょうか……? 」


 どうも自分への当たりの強い治正に呼び止められ、丈士は少し警戒したが、そんな丈士に治正は「ホレ」と言いながら無造作に封筒を突き出して来る。


「え、えっと……? 」


 突き出された封筒を見て、その意味が分からずに丈士が戸惑っていると、治正は少しうっとおしそうにため息をついた。


「バイト代だ。まだ払っていなかっただろう? 働かせた分はきっちり入っているから、確かめてくれ」

「あ、ど、どうも、ありがとうございます」


 ようやく治正の意図を理解した丈士が封筒を受け取ると、その封筒には思ったより厚みがあった。

 少なくとも、指で触っただけで厚みを感じられるだけのものが入っている。


「あ、あれ? 何か、思ってたよりたくさん……。い、いいんですか? 」

「ふん。お前が働いて稼いだものだ。まじめにやっていたようだしな、こっちもケチと思われたくはないからそれなりのものを用意した。好きに使え。……それと、お前、これから満月たちと一緒に祭りを見てまわるんだろう? ……俺の言いたいこと、分かるな? 」


 戸惑いながら確認する丈士を、治正はギロリと睨みつけていた。


「……あっ、ハイ、了解でっす」


 それで、暗に「この金でみんなに何か買ってやれ」と言われているのだと理解した丈士は、ぎこちない笑顔で治正に向かってうなずいてみせる。

 おそらく、丈士のバイト代だけでなく、満月やゆかりへのお小遣いも含まれている故の、封筒の厚みなのだろう。


 稲荷神社でのバイトは忙しかったが、その割りの良さは期待以上だった。

 だが、丈士は素直には喜べない。


(これって、ケチったらあとでどやされるパターンじゃん……)


 これから丈士がどれだけ満月たちのために実弾を使ったかどうか、治正はしっかりと見張っているだろうからだ。


 そして、もし少しでも納得がいかないようなことがあれば、治正は丈士に対して容赦ようしゃしないだろう。


「俺はこれから祈祷きとうをしなければならんから、娘のことをよろしく頼むぞ」

「は、ハイ、わかりました! 満月さんのことは任せてください、お父さん! 」


 丈士は治正の意向に逆らうつもりなどまったくなかったが、一言余計であったらしい。


「ダァレが、お父さんだッ!? 」

「イデデデデッ!? すんません、すんませんッ! 」


 丈士は、治正からチョークスリーパーをくらうハメになった。


※作者注

 近年では、神楽を舞うのは若い巫女だけではなく、神職の関係者である年配の女性も舞うことがあるようなので、今回このような構成としました。

 高原稲荷神社は地元のローカルな神社、という設定ですので、若い子ばかりを集めるような余力はないだろうという判断からです。

 加えて、満月が目立つように、という意識もしています。

 また、神楽としては、[八乙女舞]を基本としたもの、という設定で考えています。


※ヒロインのイメージイラストはこちらです

https://www.pixiv.net/artworks/91766736

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