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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第四章「神事」

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4-8:「お父さん:2」

4-8:「お父さん:2」


 ハクという名の白いキツネは、本物の、動物のキツネではない。

高原稲荷神社の神主かんぬしで、満月の父親でもある羽倉はくら 治正はるまさつかえる式神だった。


 稲荷神社では、キツネは神の使いとしてうやまわれることの多い存在だ。

 ハクはそういった稲荷神社の信仰に沿うように治正が生み出した式神で、普段、日本全国に出張して霊に対処している治正について回り、その仕事をサポートしている存在だった。


 そのハクが、家の門で満月が帰って来るのを待っていた。

 そして、誰もいないはずの家に、明かりがついている。


 そうなれば、そこに誰かがいること、そしてそれが誰なのかは、すぐに理解することができる。


「お嬢様。旦那様が、お待ちですよ」


 いきなり飛びつくように抱きしめられ、全身の毛並みを満月にモフられたことにも一切動じていない様子のハクは、呆然としたように立ちすくんだ満月に、すました顔で父親との再会をうながすようにそう言った。


 満月は自分でも意識しないままにじみ出ていた涙をぬぐうと、少し駆け足になって家の玄関へと向かい、少し焦って慌てながら、勢いよく玄関の扉を開いた。


「ただいま! 」


 家に帰るたび、誰もいない空間にむなしく吸い込まれていくだけだった、その言葉。


 だが、今日は、満月のことを出迎える、暖かな言葉が帰って来た。


「おお、満月。今、帰ったのか。……おかえり。そして、ただいま」


 奥の方から顔を出した男性、オールバックにした黒髪に茶色の瞳を持つ、よく鍛えられた精悍な体躯を持つ、満月の父、羽倉 治正はそう言って、満月に向かって微笑んだ。


 満月は今年で18歳になる、もう子供よりも大人に近い年頃の少女だったが、この時ばかりは何も遠慮せずに父親の胸の中に飛び込んでいた。

 治正もそんな満月のことを優しく受けとめ、満月の頭を優しくなでる。


 2人は、しばらくのあいだ、無言のままそうやって再会を喜び合っていた。

 お互いに話したいことはたくさんあるが、今はうまく言葉にできなかったし、2人にとってはそれでも十分だった。


 普段は離れている親子が、今、手の届く場所にいる。

 それだけでも、十分に幸せなことなのだ。


 たっぷり、数分間はそうしたままだっただろう。

 やがて満月は治正から身体を離し、父親の顔を見上げて微笑むと、治正も娘に向かって微笑み返した。


「お嬢様。お忙しいかと思いまして、僭越せんえつながらわたくしが夕食をご用意させていただきました。つもる話もございましょうから、ぜひ、旦那様と食卓を共になさってくださいませ」


 その時、満月と治正の邪魔をしないようにそばでじっとひかえていた式神のハクが、その上品な声でそう言った。


「満月。お前には苦労させてばかりだからな。ハクに頼んで、いろいろごちそうを用意してもらったんだ」


 ハクの言葉に続いて、治正は優しい声で満月に言う。


「お前の好きなものもたくさんあるんだぞ。な? 父さんと一緒に食べよう」


 しかし、満月はその誘いに、申し訳なさそうな顔をし、「あ、あはは」とから笑いをしながら、左手の人差し指で自身の頬をかいた。

 その満月の様子に、治正もハクも、いぶかしむような顔をする。


「どうした? 満月。何か、身体の調子でも悪いのか? 」

「いっ、いえ、そういうわけでは! 」


 心配そうな表情になる治正に、満月は慌てて首を左右に振った。


「なら、どうしたんだ? 」


 いぶかしむようにたずねてくる治正の視線から一度視線をそらし、それからもう一度まっすぐ治正のことを見つめ返した満月は、決心したように口を開いた。


「お父さん。実は、ご相談したいことがあるのです」


────────────────────────────────────────


 満月は、治正とハクと共に食卓を囲みながら、ここ1、2か月の間に丈士と星凪との間で起こったこと、そして、2人の特殊な状況について説明した。


 食卓の上には治正が言っていた通りたくさんのごちそうが並べられ、満月の好物もたくさんあったのだが、すでに丈士たちと一緒に夕食を済ませて来てしまった満月は、少し口をつけることができただけだった。


 久しぶりに、親子水入らずで食事を楽しめると楽しみにしていた様子の治正にも、式神の力を使って料理を作ってくれたハクにも、満月は申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、何とか延命措置はしているものの、丈士と星凪に残された時間は限られている。

 少しでも早く現状の解決方法を知るためにも、この場で話さざるを得ないことだった。


「話は、わかった」


 食事をしながら満月の説明を黙って聞いてくれていた治正は、そう言うと、おちょこにそそいだ冷酒をくいっと飲み込み、トン、とおちょこをテーブルの上に置いた。


 それから、治正は満月のことを見つめ、はっきりとした口調で言う。


「お前は、昔から優しい子だった。だから、霊が相手であっても、その霊のためにできるだけのことをしてやりたいという気持ちなのだろう。そのことに、俺も反対はしないし、できる限りの協力をしよう」

「あっ、ありがとうございます! 」


 満月は、治正が協力することを快諾かいだくしてくれたことに嬉しそうな笑みを浮かべたが、すぐに「えっ? 」っと驚くような顔をする。


 治正が、どういうわけか怒っているような顔になっていたからだ。

 それも、かなり。


「え、ええっと、お父さん? 」


 満月が困ったような笑顔を浮かべながら、治正の怒りの原因をたずねると、治正はとっくりからおちょこに冷酒をなみなみと注ぎ、それをまた一息に飲み干した。

 そして、おちょこをタンッ、とテーブルの上に置くと、治正は説教するような口調で満月に言う。


「満月。お前の気持ちはわかるし、俺も尊重しよう。……だが、だからと言って、どうしてお前が毎日のように食事を作りに行ってやらねばならんのだ? ……お前は、年頃の娘なんだぞ!? 」


※満月の父親、羽倉 治正のイメージイラストはこちらです

https://www.pixiv.net/artworks/91688429

 「オールバックのかっこいい男性」ということで、るろうに剣心の斎藤 一さんをモデルに描いていたんですが、熊吉の画力だと応用できずだいぶ似て(注:熊吉の目から見ると)しまいました(笑)


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