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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第三章 「ゴールデンウィーク」

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3-12:「大切なお話」

3-12:「大切なお話」


「あーっ! お兄ちゃんっ! もう、大丈夫なの!!? 」


 丈士が、自分で思っていたよりもずっと長く寝込んでいたことを知って呆然としていた時、丈士が目を覚ましたことに気がついた星凪がやってきて、そう叫んでいた。


 部屋の出入り口に立ちつくし、丈士の姿を見つめていた星凪は、徐々にその瞳をうるませる。

 やがて、感極まったように涙をこぼした星凪は、丈士に向かって飛びついてきた。


「お兄ちゃん! ……よかった! よかったよぉっ! 」


 何の重みも感じない、自身の全身を包み込む霊体の冷たい感触。

 だが、今の丈士には、それがたまらなく嬉しいものだった。


「悪い。心配、かけちまったな」

「うん……っ! 本当に、心配だったんだから! 」


 丈士の言葉に、星凪はうなずく。

 そうして、星凪はしばらくの間、ずっと丈士にしがみついていた。


 だが、やがて、涙をぬぐった星凪は、丈士の胸元にうずめるようにしていた顔をあげ、2人の様子を微笑ましそうに眺めていた満月を睨みつける。


「何よ! もう、お兄ちゃんが元気になったんだから、あなたは用済みでしょ!? せっかく兄妹が感動の再開をしてるんだから、気をきかせて帰りなさいよ! 」

「星凪。お前なぁ」


 星凪の言い分に、丈士は呆れ、少し怒ったような声を出す。


「お前だって、満月さんに助けてもらったんだろうが? オレなんか、おまけに看病までしてもらってたんだぜ? そんな言い方はないだろ? 」

「フン、だ! あたしだけでもお兄ちゃんを守れたし、看病だって、できたはずだもん! 」

「あのなぁ、お前、だいぶピンチだったろうが? しかも、幽霊で実体がないっていうのに、どうやってオレを看病するつもりだったんだ? 」

「そんなの……っ! ……なんとか、……したわよ」


 丈士の指摘に、星凪は悔しそうに視線をそらし、それでも負けを認めたくないような口調でそう言った。


「すみません、丈士さん。星凪ちゃん。……これから少し、大切なお話をさせてもらいます」


 丈士と星凪のことを黙って見守ってくれていた満月だったが、よほど、重要な話があるのだろう。

 はっきりとした口調で言われた丈士と星凪は、視線を満月へと向け、いぶかしむような顔をした。


────────────────────────────────────────


「まず、丈士さんと星凪ちゃんを襲っていた3人の幽霊。……あの人たちは、すでに除霊させてもらいました。ですので、もう、襲ってくることはありません」

「……そっか」


 満月の言葉に、丈士は短く答えてうなずいた。


 除霊。

 その言葉がもつ重みは、丈士もすでに理解している。


 霊は、生前に強い未練を残したまま命を失ってしまった人間がなるものだ。

 あの3人の霊たちも、生前に強い未練や感情を残したまま死に、霊となって存在し続けていたのだろう。


 それが、どんなに辛い思いだったのか。

 202号室の霊と対峙した際に、丈士はそのことを実感させられている。


 だが、3人の霊たちは、除霊された。

 つまり、彼らの残した強い思いは、未練は、解消されることなく、あの3人の霊は無理やり消滅させられてしまったのだ。


 3人の霊たちが丈士と星凪を攻撃したのは、無理やり除霊されたくないという重いからで、標的を丈士と星凪にしたのは思い違いというか勘違いがあったような気がしないでもないが、とにかく、彼らはみな、望まない方法で消滅させられてしまった。


 丈士と星凪を殺そうとした相手ではあったが、丈士にはそのことが切ないような気持だった。


「それで、大切な話、って? 」


 だが、満月が言う大切な話というのは、あの霊たちのたどった悲しい運命についてではないだろう。

 話の続きをうながす丈士に、満月は言いづらそうに視線を左右に行ったり来たりさせ、もじもじしたりしていたが、やがて正座して姿勢を正し、丈士と星凪の方をまっすぐに見すえて言った。


「実は……、丈士さんと、星凪ちゃんのことで、どうしても、お伝えしなければならないことがあるんです」

「オレと? 」

「あたしのこと? 」


 丈士と星凪はお互いの顔を見合わせて首をかしげた後、話の続きを聞くために満月へと視線を戻す。


 そこにはもう、話すことを迷っていた満月の姿はなかった。

 満月は丈士と星凪のことを、真剣な表情で見つめている。


「霊たちに攻撃をされた時、丈士さん、異変を感じ取っていたはずです。……全身に急に力が入らなくなって、身動きが取れなくなる。そういうことが起こったはずです」

「あ、ああ。確かに、そういうのはあったけど」


 丈士は満月の言葉にうなずき、それから、戸惑ったように聞き返す。


「けど、それって、あの霊たちが何かオレにしたからだろ? あそこは異界で、霊たちが作った世界だったわけだし、それに影響されて、3日も寝込むことになったんだろ? 」

「いいえ。それは、違います。丈士さんが寝込むことになった原因は、あの霊たちにはありません」


 満月は、丈士の言葉をはっきりと否定した。

 それから、満月は星凪の方を見て一瞬だけ悲しそうな表情をしたが、すぐに顔をあげ、決意に満ちた表情で断言した。


「丈士さんの身体に起こった不調。3日間も寝込むことになってしまった原因。……それは、丈士さんの生命力を、星凪ちゃんが吸い取りながら存在しているからです」


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