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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第三章 「ゴールデンウィーク」

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3-8:「怪異:4」

3-8:「怪異:4」


≪間もなく、2番線に電車が到着いたします。黄色い線の内側に下がってお待ちください≫


 毎日何度もくりかえされる、ありふれたその言葉。

 だが、今の状況を考えれば、それは特別な意味を持っているはずだった。


「また、別の、霊か? 」


 丈士はまだ肩で息をしながら、アナウンスが聞こえて来た方を見つめている。

 位置関係的に、そこには高原駅の2番線のホームがあるはずで、アナウンスはそこに電車が到着することを告げている。


 今ここは現実世界では似て非なる異界で、そのアナウンスもおそらくは霊の仕業であるのに違いなかった。


「行かない方がいいよ、お兄ちゃん」


 星凪は不安そうな表情で丈士にそう言う。


「どうせ、霊がまた何かしかけてくるのに違いないんだから」

「そうだな。今はとにかく、ここに隠れていようぜ」


 丈士も星凪の考えにまったくの同意だったが、しかし、霊は丈士たちを休ませるつもりはないようだった。


≪お客様にお知らせいたします。タウンコート高原、201号室にお住いの百桐 丈士。百桐 星凪。ただちに2番線ホームにあがってきなさい。さもなければこちらからトイレの方まで出向かせていただきます≫


 どうやら、霊は丈士たちがどこに隠れているかまで把握しているらしい。

 一見駅のアナウンスのような口調ではあったものの、実質的には命令と恫喝どうかつだった。


「行くしかない、みたいだな」


 隠れ場所はあるが、霊にすでに居場所が分かってしまっている以上、このままトイレにいることは不利だった。

 ようやく呼吸を整えた丈士が星凪を見てそう言うと、星凪は無言のまま、真剣で不安そうな表情でうなずいた。


────────────────────────────────────────


 トイレを出て2番線のホームへとあがるための階段に向かうと、まるで[のぼってこい]とでも言われているかのようにのぼりのエスカレーターが動き始めた。


 霊の仕業なので誘われるままにエスカレーターに乗ったら何が起こるか予想もつかなかったが、丈士は恐れを振り払うようにエスカレーターに乗り、2番線のホームへと、星凪と一緒にのぼっていく。


 高原駅は高架線の駅で、2面2線という構造のホームを持っている。

 エスカレーターでその2番線ホームへと、霊の要求通りにあがってはみたものの、そこに変わったものは何もなかった。


 あるのは、どれも駅でよく見かけるような、待合室だったり、樹脂製の待機用の座席だったり、売店だったり、自動販売機だったり。

 ただ、そのどれもが輪郭がおぼろで、色もかすんでいて、実際に存在しているものとは明らかに異なっていると分かった。


 丈士と星凪は、互いに背中合わせになりながら、周囲を警戒してきょろきょろと見回してみたが、やはり、霊の姿はなかった。


 わざわざ呼び出されたのだから何かがあるのだろうと思っていたのだが、何もない。

 そのことが余計に不気味で、不安感をかきたてられるようだった。


≪2番線、電車が参りました。ご注意ください≫


 やがて、天井につるされていたスピーカーからまたアナウンスが流れ、同時に、電車が走ってくる音が聞こえ始める。


 音のする方向に視線を向けると、そこには、やはりおぼろげな姿をした電車が、ライトをつけて接近してきていた。

 霊にあやつられていたトラックのように暴走しているような感じはなく、電車は普段通り、ゆっくりと減速しながら、2番線ホームに滑り込んでくる。


 そして、電車がもうすぐ丈士と星凪の前までやってこようかという瞬間だった。


「へっ? 」


 丈士は突然、誰かに突き飛ばされるような感じがして、そんな間の抜けた声をあげていた。


 実際に、丈士は突き飛ばされていた。

 強い力で押し出された丈士はその場にとどまっていることができず、体勢を崩し、そして、ホームから線路に転落した。


「お兄ちゃんッ!!? 」


 星凪が、迫ってくる電車と、線路に落ちた丈士の姿を見て、悲痛な声をあげる。


 線路に落とされた丈士は、あわてて身体を起こしながら、目の前に電車が迫ってきているのを見て、双眸そうぼうを見開いていた。


 起き上がるためにつかんだ鋼鉄製のレールからは、電車が接近してくる震動が直接伝わってくる。

 電車は線路に丈士が転落したことに気づいたのか急ブレーキをかけ、その車輪から火花を散らしたが、しかし、とても丈士にぶつかるまえに停車できるようには思えなかった。


(死ぬ)


 丈士はそう気づいた瞬間、必死になってその運命から逃れようとした。


 立ち上がって逃げるような時間はもうない。

 丈士はレールをつかみ、脚で床を蹴り、必死に線路の上でもがいた。


 幸いなことに、丈士の目の前には空間があった。

 こういった転落事故などが起きた場合や、線路や車両の保守点検のためにホームの下には人が逃げ込めるような隙間が作られている。


 それはわずかな空間に過ぎなかったが、丈士がこの場を生き延びるには、そこに何とかしてたどり着く他はなかった。


 丈士は必死になって身体を動かし、そして、線路のレールを腹ばいのまま乗り越え、転がり込むようにホーム下の退避スペースへと逃げ込んだ。


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