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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第三章 「ゴールデンウィーク」

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3-7:「怪異:3」

3-7:「怪異:3」


「危ない! お兄ちゃん! 」


 突然、姿をあらわし、丈士に向かって突っ込んできたトラックに跳ね飛ばされるよりも早く、丈士は星凪に突き飛ばされていた。


 ポルターガイストの応用で、星凪は丈士にある程度は物理的に干渉することもできる。

 日頃は迷惑かつ危険な能力ではあったものの、今は、それに丈士は救われていた。


 丈士は突き飛ばされて倒れこみながらとっさに手をつき、手をすりむいてしまったが、大型トラックに跳ねられ、全身をグチャグチャにされるのよりもずっと増しだった。


 丈士に突っ込んできたトラックは丈士がうまくかわしたことを知ると、左に切っていたハンドルを右へと戻し、タイヤから悲鳴をあげさせ、エンジン音をうならせながら、再び丈士に突っ込もうと曲がり始める。


 だが、異界にあらわれたトラックも、その転回性能は本物の大型トラックと同じように悪いようだった。

 曲がり切れなかったトラックは、そのまま丈士が向かおうとしていた方向の歩道に乗り上げ、建物へと突っ込んでしまう。


 現実なら大事故だったが、しかし、トラックはなんてことないようだった。

 すぐにトラックはギアをバックに入れ、ピー、ピー、と周囲にバックすることを知らせる警告音を鳴り響かせながら、再び丈士に車の前方を向けるために動き始める。


 丈士は一瞬、自分が現実の世界に引き戻されたのかとも思ったのだが、建物に突っ込んだのに傷一つないトラックの姿を見て、そのトラックもまた、霊たちが起こしている怪異の一部であることをさとっていた。


 そして、その運転席にいるのは、ついさっき、トラックが突っ込んでくる直前に丈士が交差点で目撃した男性の霊だった。


 タウンコート高原にいた丈士たちに襲いかかって来た少女の霊から、少しでも遠くに逃げるべく駅前商店街を目指していた丈士だったが、その進路はトラックによってふさがれてしまっていた。


「くそっ! 星凪、こっちだ! 駅に逃げる! 」

「分かった! お兄ちゃん、早く! アイツ、また突っ込んで来るよ! 」


 周囲を見回し、逃げられる先が1つしかなさそうだということを理解した丈士はそう叫びながら走り出し、星凪は丈士のことを必死に急かす。


 トラックのエンジンがケモノの咆哮ほうこうするようにうなりをあげ、トラックは加速して、丈士をひき殺すために突進を開始する。

 背後を振り返った丈士は迫りくる巨大な鉄の塊に恐怖し、全速力で走り続けたが、しかし、トラックは徐々に加速し、丈士に追いつきそうな勢いだった


「させない! 」


 星凪が叫び、ポルターガイストを使ってトラックの進路を変えなければ、丈士はトラックに跳ねられ、命を失ってしまっていたのに違いなかった。


 星凪の攻撃で左に急ハンドルをきらされたトラックはまた建物に突っ込み、そうして得た時間に、丈士は数歩よろめきながらも、逃げるために必死に走り始めた。


────────────────────────────────────────


 トラックに襲われた交差点から一方に進むと、その道はやがて高原駅の駅前へとたどり着き、そこでロータリーを形成する。

 5~10階建ての雑居ビルが立ち並ぶロータリーは周囲をペデストリアンデッキでぐるりと囲まれた構造で、ロータリーの中央には送迎用の車やタクシー、バスの待機場所が用意され、駅の改札口に面した部分にはいくつものバス停とタクシー乗り場が並んでいる。


 普段なら駅前のロータリーを、歩道かペデストリアンデッキに沿ってぐるりと回って駅の改札口に入るのだが、今は緊急事態で、ここは霊が生み出した[異界]だった。


 丈士はロータリーをまっすぐに突っ切り、駅の改札機を飛び越え、急いで建物の中に逃げ込む。

 そのすぐ後を追ってきていたトラックはそのまま改札口へと突っ込んできて、だが元々大型トラックが通れるほどの大きさはない改札口を突破することができず、轟音を立てながらそこで停車した。


 ひとまずトラックからは逃げ切ることができたようだったが、丈士は走るのをやめなかった。


 今、この異界には、少なくとも3人の霊がいる。

 1人は言うまでもなく丈士の妹の星凪のことだったが、あとの2人は、明らかに丈士たちに敵意を持っていた。


 とにかく、その、丈士たちを攻撃してくる霊から逃げ、身を隠さなければ。

 満月が以前のように助けに来てくれることだけが希望だったが、満月がここにたどり着いてくれるまでは、丈士と星凪は自力で生き延びなければならない。


 丈士はひとまず、駅の中に作られたトイレに逃げ込んでいた。

 この狭い場所ならトラックなどでは絶対に入ってくることができないはずだったし、霊が追って来たとしても、隠れてやり過ごせそうな場所もある。


「はぁ……っ、はぁ……っ! いったい、何だって言うんだよ!? 」


 ひとまずトイレの洗面所までやってきて、ようやく走るのをやめた丈士は、自分の両ひざに両手をつき、荒い呼吸をくり返しながら、戸惑ったような声をあげていた。


 どうして、霊たちが攻撃してくるのか。

 その理由が丈士にはさっぱり分からなかったし、身に覚えもない。

 そんな状況では戸惑うことしかできない。


 呼吸を整えながら、丈士は数回、「ゲホ、ゲホ」とき込んでいた。


 こんなに走ったのはずいぶん久しぶりだった。

 受験勉強のために部活を引退して以来、まともに運動をしたことは数えるくらいしかないし、引っ越して来てからも走り回ったことはない。


 久しぶりに酷使された丈士の身体が、悲鳴をあげていた。


 それに喉もカラカラだった。

 水でも飲めればと思って丈士は洗面台の自動式の蛇口じゃぐちに手をかざしてみたが、この異界では現実世界の水道とはつながっていないらしく、水は出てこなかった。


「大丈夫? お兄ちゃん? 」


 荒い呼吸をくり返している丈士のことを、星凪が心配そうに見つめている。

 丈士について必死に走り回って(霊なので実際には飛び回って)来た星凪だったが、少しも息を切らしていないし、疲れた様子もなかった。


 そんな星凪のことを見上げ、丈士は、妹を少しでも安心させてやるために軽口を言う。


「へ、へへへ、いいな、星凪は。幽霊だから、疲れもしない、ってか? 」

「……もォ。無理しちゃダメなんだからね? 」


 強がって見せる丈士に星凪は少し呆れながらそう言ったが、その直後、2人は上の方を同時に見上げていた。


 駅のホームがある方から、駅員のアナウンスで、電車が到着することを告げていたからだ。


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