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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第三章 「ゴールデンウィーク」

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3-5:「怪異:1」

3-5:「怪異:1」


 丈士と星凪、2人の兄妹は変に動いて危険に遭遇することを避けるため、タウンコート高原の201号室でじっと待っていることを選んだ。


 だが、この[異界]を作り出した相手の方が、自ら2人の前にあらわれた。


「なっ、なんだ? この、声は……」


 [電波を受信できません]というメッセージを表示し続けているテレビの画面をなすこともなくぼんやりと眺めていた丈士だったが、どこからともなく聞こえてくるその声に気がつき、慌てたように周囲を見回した。


 満月が異変に気づいて助けに来てくれたのならよかったのだが、そうではなかった。

 丈士の耳に届いたその声。

 それは、かすかな、だが、不気味な、女性がすすり泣くような声だった。


「お兄ちゃん、あたしにも、聞こえるよ」


 星凪も丈士と同じように周囲を見回しながらそう言い、丈士はこれが自分の錯覚で聞こえているものではないと知った。


 耳をすませると、声は、どうやら、少しずつこちらへと近づいてきているようだった。

 現在の状況を考えれば、それが、丈士たち以外の、この異界に巻き込まれてしまった人間のものとは思えない。

 むしろ、この異界を作り出した側の、霊に違いなかった。


 おそらくは、その声の主は、丈士たちのいる部屋に少しずつ近づいてきている。

 部屋は防音性の高い壁でできているはずなのに、ひた、ひた、と、素足で歩くような音まで聞こえてくる。


 どうやら霊は、すでにアパートの2階におり、廊下を歩いてこちらへ向かってきているようだった。


「あっ、やべっ」


 その時ふと、あることを思い出した丈士は、慌てて腰かけていたベッドから立ち上がる。


「玄関のカギ、かけわすれてる! 」

「い、今さら、そんなこと気にしてる場合じゃないよ、お兄ちゃんっ! 」


 急いで玄関に向かおうとする丈士を星凪が止めた。


「相手は、霊なんだから! 入ってくるつもりなら、壁をすり抜けて来ちゃうよ! 今は、大人しく、気配を消していた方がいいよ! 」

「そ、そうだな。そうした方がいいな」


 突然始まった怪異に気が動転していた丈士は星凪のその言葉で少しだけ冷静さを取り戻し、玄関へ向かうのをやめた。


 すすり泣く声と、足音は、もう、丈士たちの部屋のすぐ前から聞こえて来ていた。

 すすり泣く声ももうはっきりと聞こえるくらいで、「どうして? どうして? 」と、女性の声で呟いているようだった。


 そして、その足音は突然、止まった。

 霊は、丈士たちの部屋の前で立ち止まったようだった。


 丈士は緊張で身体を固くし、ベッドの横に立って身構えながら、玄関の方を凝視しながら、必死に息を殺してじっとしていた。

 星凪はそんな丈士の背中にしがみつくようにしながら、丈士と同じく緊張した表情で玄関の方を見すえている。


(頼むッ! こっちに、入って来るな! )


 丈士はそう祈っていたが、しかし、嫌な予感が消えなかった。


 どうして、自分たちは霊が作り出した[異界]に巻き込まれてしまっているのか。

 どうして、霊は丈士たちの部屋の前で立ち止まっているのか。


 これが、偶然ではなく、意図して引き起こされていることだとしたら?

 霊には明確な目的があり、それが、丈士たちであったとしたら?


 そして、その丈士の嫌な予感は、当たっていた。


 これまで1度もきしんだことなどないのに、201号室の玄関の扉が「キィィィ」という不快な音を発しながら、ゆっくりと開いたのだ。


 霊であれば、壁をすり抜けることができる。

 だが、あえてそういったことをするということは、霊は丈士たちに対し、その力を誇示し、そして、自身の標的が丈士たちであることをはっきりと教えるためなのだろう。


「どうして……? どうして……なの……? 」


 あらわれた霊は、そうすすり泣くように呟きながら、ふらふら、よろよろとした足取りで、部屋の中へと入ってくる。


 それは、長い黒髪を持った、星凪と近い年齢に見える少女だった。

 丈士がまだ見たことのないセーラー服姿で、どういうわけか、全身が水にれているように思える。

 顔は、長い黒髪に覆われていて、見ることができない。


 徐々に近づいてくるその姿だけでも十分な恐怖だったが、丈士はその少女の霊の腹部に赤い染みがあることに気がつき、言葉にならない悲鳴をあげながら顔を引きつらせる。


 それは、どう考えても血の色だった。

 そして、その部分には、ナイフのようなものが突き刺さっている。


 少女の霊は、すでに、丈士たちまであと数歩というところにまで接近してきていた。

 逃げ場もなく、霊の意図も分からず、ただじっと身構えていることしかできない丈士と星凪の目の前でようやく立ち止まった霊は、そこでゆらりと顔をあげた。


 はじめて、その顔を見ることができた。

 思った通り、星凪と同い年くらいの少女。

 だが、その顔には、痛々しいあざや、すり傷が残されている。


「どうして……、どうして……」


 少女の唇がかすかに動き、すすり泣くような声が発せられる。


 そして、その少女の手は、自身の腹部に突き刺さったままのナイフへとのび、その柄を青白い手がつかんで、それを引き抜いた。


「どうして! ダレモ! 私をタスケテけてくれないノォっ! 」


 そして、少女の霊は突然そう叫ぶと、自身の身体から引き抜いたナイフを振りかぶり、丈士たちに向かって斬りかかって来た。


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