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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第三章 「ゴールデンウィーク」

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3-1:「先輩と後輩」

3-1:「先輩と後輩」


 県立高原高等学校の敷地内に設けられた武道場に、威勢の良い、気合の入ったかけ声が響いている。


 高原高校は高原町の一画にある高校で、生徒数は全校生徒で約700名。

 高原町が都心部のベッドタウンとして開発され始めたころに建てられた、どこにでもよくあるような鉄筋コンクリート製の校舎を持つ学校だった。


 そんな高原高校には、小さいが、薙刀なぎなた部があった。


 所属している部員は、わずかに7名。

 その全員が女子生徒で、実質的に女子専用の部活というような扱いになっている。


 今は、防具をつけた状態で互いに自由に技をかけあう、地稽古じげいこが行われていた。


 その中で、小柄で、体格が華奢きゃしゃに見える少女と、平均よりやや高い慎重を持つ少女が対戦していた。

 小柄な方は慎重に間合いをはかりながら薙刀なぎなたを下段にかまえ、もう一方は落ち着いた様子で薙刀なぎなたを中段にかまえている。


 小柄な少女の、鎧で言えば草ずりに当たる箇所には[音寺]という刺繡ししゅうがされた布が被せてあり、もう一方の草ずりには、[羽倉]という刺繍ししゅうがされた布が被せられている。


 お互いに攻めるすきを狙いながら距離を保っていたのだが、やがて、小柄な少女の方が、気合の声をあげながら相手の脛当すねあてを狙って薙刀なぎなたを振るう。

 柄の長い薙刀なぎなたであっても、身長差があるぶん面などを狙いにくく、低く、素早い動きで相手の足元を狙おうとしたようだった。


 だが、相手の方が早かった。

 小柄な少女が自分の足元を狙ってくることをすでに予想していたからだ。


 小柄な少女の薙刀なぎなたは上から打ち払われ、相手の少女は「面! 」と叫びながら薙刀なぎなたを打ち込んだ。


 バシン、という音が辺りに響き、打たれた方の小柄な少女は数歩後ろに下がって、[参りました]とでも言いたそうに肩を落とした。


 それから、小柄な少女から一本をとった少女は周囲を見回し、薙刀なぎなた部の部員たちの多くが肩で息をしているのを見て、声を張り上げる。


「地稽古やめ! 一対多数稽古、ふりかえしをして、今日はおしまいにします! 」


────────────────────────────────────────


 練習を終え、使った道具の整理整頓や道場の清掃を終えると、その日の高原高校薙刀なぎなた部の活動はおしまいだった。


 部員たちは楽しそうにおしゃべりしながら更衣室へと消えていき、この後の予定などを話し合ったり、最近はやりの音楽について話し合ったりしている。


 そんな中、他の部員たちとの会話の輪に入ることなく壁に並べられた木製の薙刀なぎなたを見上げていた音寺 ゆかりは、憮然ぶぜんとした表情で呟いていた。


「また、先輩に勝てませんでした」


 そんなゆかりの背後に、気配を消しながら接近してきた薙刀なぎなた部の部長、羽倉 満月があらわれ、いきなり「ぅりゃっ」とゆかりに背後から抱き着いた。


「わっ!? せ、先輩、驚かさないでくださいよ! 」

「へっへっへ、ぼーっとしてるゆかりちゃんが悪いんですよー」


 満月は楽しそうにそう言うと、両手でゆかりのほっぺたをムニムニとしてもてあそぶ。


「も、もう、先輩! 練習終わった後で、汗臭いんですからあんまりくっつかないでくださいよ! 」


 ゆかりは怒ったようにそう言ったものの、満月を突き放そうとはしなかった。


「わたしが思うに、ゆかりちゃんはもっと自分に自信を持った方がいいと思いますよ。ゆかりちゃんは勉強もできるし、1年生なのに強いし、霊能力もあるしテレビにもラジオにも出ているアイドルなんですから! 今日はわたしが勝ちましたが、すぐに追い越せちゃいますよ! 」

「そんなこと、ないですよ」


 どうやら満月はゆかりが落ち込んでいるのだと思って励ましに来たようだった。

 ゆかりはそのことが分かって内心嬉しかったが、しかし、笑顔は見せずに視線を伏せる。


「すごいのは、先輩の方です。何でもできちゃうじゃないですか。霊能力だって先輩の方が上ですし、そもそもアイドルのことだって。……聞きましたよ? 芸能事務所の人から。わたしより先にスカウトされたのに、先輩、断ったっていうじゃないですか。事務所の人、私が先輩の後輩だって言ったらすごく驚いていたんですよ? 」

「あ、あはは。そんなこともありましたねぇ……」


 満月はごまかすような笑みを浮かべ、その満月に背後から抱き着かれたまま、ゆかりは小さくため息をつく。

 それからゆかりは、ほんの少しだけ怒ったような表情を浮かべた。


「先輩。……話、変わりますけど、あのタウンコート高原の兄妹、あれから、進展したんですか? 」

「あー、うん、その件ね。……特に変わったことはない、かな」


 その言葉に、満月は痛いところを突かれたのか、困ったような表情を浮かべる。


「満月先輩。……先輩が任せてくれって言うから、私、ただ見ているだけに徹していましたが、あの兄妹、このまま放っておいたら、不味いことになるんじゃないですか? 」

「う、う~ん、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないし……」

「先輩だって、気づいているはずです」


 ゆかりはそう言うと、満月の腕の中から抜け出し、満月を少し睨むような顔で振り返った。


「あのお兄さん、死相、出てたじゃないですか」

「……」


 そのゆかりの言葉に、満月は困ったように押し黙る。

 ゆかりはそんな満月の様子にはかまわず、さらに指摘を続けた。


「あの霊は、あの兄妹は、かなり特殊です。珍しい事例だと思います。だからこそ、これからどうなっていくのか、予想がつかない。……ですが、正直なところ、このまま何もしなかったら、あのお兄さん、確実に何か起こりますよ。そうなったら結局、兄弟そろって不幸なことになります」

「うん。……それは、分かってるんだけどね」


 満月は、ゆかりの指摘を否定しなかった。

 ただ、申し訳なさそうに身体を縮め、言い訳するように体の前で右と左の人差し指を突っつき合わせながら、上目遣うわめづかいになって言う。


「でも、あんまり2人の仲が良さそうなものなので、どうしても、言いづらくって。……何か起こるといっても、今すぐに、というわけではないはずなので、もうしばらく、何が2人にとって最善になるのか、考えてみたいんです」


 その満月の言葉に、ゆかりは憮然ぶぜんとした表情だったが、やがて、あきらめたようにため息をついた。


「先輩は、やっぱり、優し過ぎます。……そこが、いいところでもあるんですが」


 それからゆかりは、断固とした口調で言葉を続ける。


「ですが、いつ何が起こっても対処できるよう、私も監視だけは続けさせてもらいます」


※満月×ゆかり

https://www.pixiv.net/artworks/91476356

 作者的に、この2人は姉妹的な関係として書いています。


 ちなみに、作者は薙刀なぎなたはさわったことさえないので、作中の描写はすべて想像の産物です。

 経験者の方、何卒、ご理解いただけますと幸いです。



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