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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第二章「霊能アイドル」

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2-10:「2人きりで」

2-10:「2人きりで」


 星凪への手当てを終えた後、満月は丈士と星凪にお茶をすすめてきた。

 丈士たちはあまりお世話になるのも悪いから、と断ろうとしたのだが、満月はゆずらなかった。


「せっかくなので、お話したいこともあるんです」


 その、話したいことが何なのかは丈士にも星凪にも分からなかったが、満月には202号室の幽霊、昨日の昼食の件、そして今日のゆかりとのトラブルと、お世話になりっぱなしだったので強く断ることもできなかった。


「別に、いいですよ。今日はもう予定もありませんし。……あれ? そう言えば、部活の途中で抜け出して来たんじゃ? 」

「あ、それは大丈夫です。同じ部活の子にもう連絡はしておいたので。それに、そこまで話し込むつもりはありませんから」

「なるほど。分かりました」


 丈士はうなずくと、居住まいを正して話を聞く姿勢になったが、満月はすぐには話し始めなかった。

 彼女は星凪の方をちらりと見ると、それから、申し訳なさそうな視線を丈士へと向ける。


「あの……、できれば、丈士さんと2人きりでお話をしたいのですが」


 その言葉に、丈士は満月の意図が理解できずにきょとんとし、そして、星凪は激昂げっこうした。


「このオンナァ! やっぱり、お兄ちゃんを狙ってるのね!? コノッ、ドロボーネコッ! 」


 髪を逆立て、どす黒いオーラを身にまといながら立ちあがった星凪は、ハイライトの消えた暗い闇に満たされた視線を向け、今にも満月に襲いかかろうとする。


「はい? わたし、ネコではありませんが……? 」

「キッ、キサマァッ!! 」


 そして、不思議そうな顔で首をかしげながらの満月の天然な返しの言葉に、星凪は我を失ったように叫んだ。


「おっ、落ち着けって、星凪! 」


 嫉妬しっとのあまり暴走をはじめつつある星凪を、丈士は慌てて止めに入る。


「満月さんは、お前が思ってるようなことは考えてないって! 話が終わったら、お前にもどんな話だったか、ちゃんと話すからさ! なっ!? 落ち着けって! 第一、お前の力じゃ、満月さんには勝てないって! 」


 満月には勝てない。

 その言葉で、星凪はみるみる、冷静さを取り戻していく。


 満月があやつる式神たちによって、文字通り手も足も出ない状況にされたのは、つい昨日のことなのだ。


「……ヤダッ! お兄ちゃんは、あたしのものなんだから! 絶対に、他の女に渡したりなんかしないんだからっ! 」


 星凪はその叫ぶと、泣きながら丈士に抱き着いてくる。


 それから、星凪を落ち着かせ、納得させるのに5分かかった。


────────────────────────────────────────


 2人きりで話がしたい。

 その満月の願いを受け入れた丈士は、満月の家を出て、満月と一緒に神社の境内へと向かって行った。


 一応、丈士の説得で納得はしてくれたものの、いつ、星凪が耐え切れなくなって盗み聞きをしに来るかも分からない。

 そこで、幽霊などの侵入を拒む霊的な力を持つ神社の境内で、歩きながら話そうということになった。


 丈士と満月は、恨めしそうにこちらを見上げている星凪を置き去りにし、ゆっくりと石段をのぼっていく。

 そして、拝殿などがある辺りに出ると、満月はそこでようやく、用件を切り出した。


「お話というのは、丈士さんの妹、星凪ちゃんのことなんです」

「ああ、なるほど」


 満月のその言葉で、丈士はどうして彼女が[2人きりで話したい]などと言い出したのかを理解した。

 星凪には直接聞かせたくないような話をするつもりなのだろう。


「アイツのことですか。どんな話なんです? 」

「はい。……星凪ちゃんが幽霊になった理由についてです。昨日、お話をうかがった時、丈士さんはあまり心当たりがないようなことをおっしゃっていましたよね? 」

「えっと、確かに、昨日話した時はそんな感じでしたっけ? ……でも、今思ったんですが、」星凪の未練ってやっぱり、事故で死んじまったことじゃないかと思うんです。あんまり、いきなりだったから」

「その可能性はあります。……ですが、問題なのは、[事故で失った命]で、何をしたかったのか。……事故で命を失ってしまったことが、どうして未練になっているか、ということなんです」


 神社の境内を歩きながら、丈士はいぶかしむような顔で、隣を歩いている満月のことを見おろす。


「えっと、よく分からないんですが……? 」

「人は、誰もが死を恐れ、忌み嫌うものです。事故で命を失うことになって、幽霊になる。原因としては十分あり得ますが、そうなるには、生きているうちにやっておきたかった、何か、大きな悔いがあるはずなんです。誰にも未練はあるはずですが、それがよほど強くないと、幽霊にはならない。……そうでなければ、この世界は今頃、幽霊だらけになってしまいますからね」

「ちょ、ちょっと、待ってくださいよ」


 満月の言葉に、丈士は少しだけ慌てた。


「満月さん。もしかして、星凪のことを成仏させようとか、そんな風に考えていたりしませんか? 」

「最終的にそうなって欲しいとは願っていますが、すぐにどうこうしようとは考えていません。……今は、別のことを考えています」


 満月はそう言うと、突然立ち止まった。


 数歩満月よりも前に進んでしまった丈士は、満月の方を振り返って驚かされる。

 満月が、丈士のことを、真剣な顔で見つめていたからだ。


「丈士さんは星凪ちゃんが幽霊になるような強い未練に心当たりがない。当の星凪ちゃんも、今は強く丈士さんに執着しているようですが、それは幽霊になってからのことで、それが幽霊化した原因とは考えられない。……そこで、わたしは、別の可能性を考えました」

「別の、可能性? 」


 丈士は満月にそう聞き返しながら、ゴクリ、と唾を飲み込んだ。


 緊張していた。

 真剣な表情をした満月がこれから何を言うのか、丈士には見当もつかなかったが、それが、何か重大なことであるのは間違いないからだ。


「わたしが思い至った可能性。……それは、星凪ちゃん自身の未練ではなく、丈士さんの未練が、強い思いが、星凪ちゃんを幽霊としてこの世界に存在させているのではないか、ということです」


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