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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第二章「霊能アイドル」

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2-2:「手料理:1」

2-2:「手料理:1」


 もう昼食にはずいぶんと遅い時間で、丈士の空腹はかなりの状態だった。

 だが、丈士は、それほど待つことなく、昼食にありつくことができそうだった。


 満月の手際が、いい。

 初めて入る台所、使い慣れていない道具しかないのに、満月はそれらをざっくりと見渡して大雑把に把握すると、すぐに元々自分のものであったかのように使いこなし始めた。


 料理するのに必要な調理器具が一通りそろっていたというのも、役に立っているようだった。

 男1人で暮らす予定だった部屋にしては過剰な充実ぶりで、実際に配膳するための食器は少ないのに、料理のための道具はかなり充実している。


 というのも、丈士が[男の料理]というものに、ちょっとした憧れを持っていたためだ。

 何というか、抽象的ちゅうしょうてきだが、何となく料理のできる男ってカッコいい。

 そんな風に思っていた丈士は、この新しい、1人きりでの生活のために、様々な調理道具を買い集めてそろえていた。


 もっとも、大学での学生生活を始めてからまだ間もない上に、ここにいる予定ではなかった星凪が部屋に押しかけてきてしまったせいでいろいろゴタゴタとしていて、結局、丈士は用意した道具を一度も使っていない。


「それにしても、いろいろと道具がそろっていて、わたし、驚いちゃいました! もしかしてお兄さん、お料理とかけっこうされるんですか? 」

「ああ、いや、その……。その、そうなる予定で買ったんだ」


 ボウルの中で、玉ねぎのみじん切りと牛豚50:50の合いびき肉、生卵、少々のパン粉、そして適量の調味料などを混ぜ合わせながら、少し感心したふうな満月の言葉に、丈士はバツが悪そうな表情で答える。

 何というか、[宝の持ち腐れ]、そんな言葉が丈士の頭の中に浮かんできたのだ。


「羽倉さんの方こそ、ずいぶん、手際がいいじゃないですか。普段からやってるんですか? 」

「はい! うちの食事は、大体わたしが用意していますからね。そうじゃないのは外食するときくらいです。うちは、お父さんがあちこちに出張していていないことが多いので、普段はもっと簡単なものしか作らないんですけどね」

「へぇ。そうなんだ」


 丈士は相づちをうちながら、ふと、(そういえば、オレ、羽倉さんのこと、近所の稲荷神社の巫女さんってこと以外、何も知らないよな)と気づいた。


「そういえば、羽倉さん、オレのことお兄さんって呼んでますけど、もしかして年下だったりするんですか? 」

「あっ、はい、そうですね。わたし、高校3年生なんです。お兄さんのことは、大家の高橋さんから、大学生だってうかがっていたので、それで」

「へぇ、それで。でも、高校3年生ってことは、いろいろ大変な時期じゃ? 他の人にはできないかもしれないけど、巫女の仕事とかけ持ちって、忙しいんじゃないですか? 」

「あはは。まぁ、そうですねぇ。確かに忙しいですが、代わりになれる人も少ないので。この近所だと、霊に対処できるのは、お父さんと、あと1人、女の子がいるくらいですね」


 満月の言葉に、丈士は少しだけ驚いていた。

 この高原町の近辺で、満月のように霊能力で幽霊などに対処できる人が、満月を含めて3人もいるというのだ。


 3人、といえば、片手で数えられる程度の人数でしかない。

 それでも、一つの街に3人、というのは、多い気がする。

 少なくとも、丈士の田舎では、霊能力者というのは1人もいなかった。


「この辺りには、羽倉さんも含めて3人も、霊能力者がいるんですか? 」

「はい! ちなみに、その女の子、けっこう、有名なんですよ。霊能アイドルってことで、テレビとかラジオとかに出ていたりする子です。何と、わたしの学校の後輩ちゃんなんですよ! ちょっとクールな子ですけど、すっごくかわいいので、もしよかったらテレビを見てあげてください。朝のニュースで、占いコーナーを持っていますので! 」

「そ、そうなんだ。何か、凄いっすね」

「ええ、凄いです! 」


 満月は、何だか嬉しそうに、その霊能アイドル、満月の後輩になるという少女のことについて話してくれた。


 丈士にアイドルを追いかけるような趣味はなかったが、満月のように霊能力を持つという点には、興味がわいた。

 テレビ番組で占いコーナーを持っているということだったが、実際に霊と対峙して戦うことのできる満月が認めている存在なのだから、きっと、占いも信頼できるものに違いないと思った。


 丈士は占いで自分の運命が分かるなどとは信じてはいなかったが、おもしろそうだと思っていた。


(それにしても、多いとはいえ、3人だけ、か)


 同時にそう思った丈士は、少し、申し訳ないような気持になった。


「えっと、それじゃ、やっぱ、申し訳ないっすね。わざわざ、オレらのために昼メシ何て作ってもらっちゃって」

「いえいえ。好きでやっていることですから」


 満月は実際に楽しそうな表情で小さく首を振り、黒髪のポニーテールが左右に揺れる。


「ところで、お兄さん。……大きいのと小さいの、どっちがいいですか? 」

「……。えっ? 」


 そして不意に振り向いた満月にそうたずねられて、丈士は焦ったような顔になる。

 何故なら、その時丈士が思い起こしていたのは、幽霊と戦うことになった夜、満月から懐刀ふところがたなを借りた際の、感触だったからだ。


 大きい、小さいで言えば、満月は確実に前者だった。


(バカッ! そんな話なワケねーだろ! )


 丈士の返答を待ちながら軽く首をかしげている満月には、一切の邪念はない。

 そんな満月の視線を見て、自身の心のけがれ具合を自覚した丈士は、内心、自己嫌悪でいっぱいになった。


「えっと、その……、大きい方がいい、です」

「なるほど! 分かりました! そう言えば、テーブルナイフもありましたものね! 」


 丈士の内心になど少しも気づかないまま、満月は楽しそうにうなずくと、ボウルで混ぜ合わせて作ったハンバーグのタネを少し多めに手に取り、綺麗な楕円形に整形して、内部の空気を抜くために両手でパチパチとお手玉して形を整えていく。

 やがて、生の状態の大きなハンバーグが1つ、小さなハンバーグが2つ、できあがった。


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