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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第1章「逃げられるとでも思ったの? お兄ちゃん」

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1-22:「除霊」

1-22:「除霊」


 青白い顔に浮かんだ、愉悦ゆえつに満ちた女性の霊の笑みが、獰猛にゆがむ。

 その女性の霊からのびた黒髪がヘビのようにのたうち回り、鎌首をもたげ、そして、丈士たちに襲いかかる。


「お前の好きに何か、させないんだから! 」


 そう叫び、前に出たのは星凪だった。

 星凪は気合の声を発しながらその左手を振りかぶり、霊が向けてきた黒髪に向かって握った拳を振り下ろす。


 星凪が振り下ろした拳は女性の黒髪を横っ面からはたき落とし、同時に、衝撃波のようなものが広がる。


 それは、霊感を持たない丈士には何も感じることのできない、霊的な力の発露はつろであるようだった。

 丈士たちに向かってきていた女性の霊の黒髪はその衝撃波で弾き飛ばされ、その力は霊をよろめかせる。


 霊は、不快そうに、おぞましい声で叫んだ。

 それが、元人間であった者が出せる声なのかと、丈士には信じられないような声だ。


 それでも、霊が一瞬でもよろめいたことは、丈士たちにとってはチャンスだった。


(今しかねェ! )


 そう感じた丈士は、前に出て、満月の懐刀ふところがたなで霊に斬りかかった。


 懐刀ふところかたなは、ふところに抱いて持ち運べるほどに小さいという特性上、刃渡りが短く、刃物としてはナイフなどに近い。

 必然的にその刃を霊に届かせるためには十分に接近する必要があり、丈士が接近する間に、霊はよろめいた状態から立ち直っていた。


 霊の虚ろな眼窩がんかからの視線と、丈士の視線が交差する。

 霊は丈士の接近に対処するために再び自身の黒髪をうごめかせたが、丈士が間合いに入る方が一瞬だけ早かった。


 姿勢を低くしながら鋭く踏み込んだ丈士が逆袈裟ぎゃくけさ懐刀ふところがたなを振りぬくと、かすかに手ごたえがあった。

 切っ先が霊の身体の表面をかすかにとらえ、切り裂いたのだ。


 霊には実体がない。

 だから、普通に、刃物を振り回しただけでは、何の効果もないはずだった。

 だが、満月の懐刀ふところがたなには霊的な力が宿っているのだろう。

 丈士の攻撃は、女性の霊に確かに傷を与えていた。


「グギャアアアアァァァアアッ!!? 」


 霊は斬りつけられた腕のあたりを抑えながら、怪物のような悲鳴をあげると、その場から数歩よろめき、後ろに下がる。


 そして、怒りと憎しみに満ちた視線を丈士へと向けた。


(あっ。コレ、ヤバい)


 霊の注意を、自分へと引きつけることはできた。

 だが、それはつまり、これから霊が全力で、丈士だけを狙って攻撃してくるということだった。


 霊の黒髪がしなり、丈士の右方向から襲いかかってくる。

 これを丈士は姿勢を低くしてかわしたが、今度は左から霊の黒髪が向かってくる。

 それをさらに、丈士は後ろに下がってかわしたが、体勢を崩してしまった。


(くそっ! 受験勉強で、身体がなまっちまったか!!? )


 丈士がそう思いながら体勢を立て直した時、目の前に、青白い、細長いものが迫っていた。


「ぐがっ!? 」


 丈士はその青白いものに自身の首筋をつかまれ、強烈な力で締め上げられて、苦悶の声をらしていた。


 それは、女性の霊の両腕だった。

 丈士のことを直接その手で捕らえた霊は、口角をつり上げ、獰猛どうもうな笑みを浮かべる。


「ユルサナイ……! アッハハハ! モウ、ダレモ、ユルサナイ! 」


 霊は狂ったような笑い声をらしながら、怨念おんねんのこもった声で叫んだ。


 得体の知れない力で、丈士の首筋は締め上げられる。

 息が詰まり、血が頭に十分に登らなくなって意識が鈍り、視界が白くかすむ。

 丈士の首の骨が、ミシミシと、小さく悲鳴をあげた。


「お兄ちゃんッ! 」


 丈士の背後で、星凪が叫ぶ。


 星凪は丈士を助けようと必死に接近を試みている様子だったが、霊があやつる黒髪に邪魔をされて、うまく近づいてこれない様子だった。


(くっそ……! このまま……じゃ! )


 丈士は、薄れ始めている意識のなかで、必死に考える。


 状況を変えてくれるとすれば、満月だ。

 だが、彼女は、なかなか矢を放たない。


 おそらく、その射線上に丈士の身体があって、撃つに撃てなくなっているのだろう。

 狭い、アパートの廊下で戦っているのだ。

 横に動いて射線を確保しようにも、動けない。


 丈士が、自力で霊の手を振りほどく他は無かった。


 丈士は懐刀ふところがたなを振り上げ、霊に切りつけようとするが、その手に霊の黒髪が絡みつき、身動きを封じる。


(しまったっ! )


 丈士は焦り、霊は勝ち誇った笑みを浮かべる。


 そして、霊は丈士にトドメを刺すために、さらにその手に力をこめ、丈士を床に押しつぶそうとするように前のめりになる。


 丈士はほとんど意識を失いかけていたが、その瞬間、わずかに残った意識が、最後に生まれたチャンスを見つけ出していた。


 丈士はほとんど無意識のまま、自身の全ての体重を使って、霊が自身を床に押しつけようとする力に逆らわず、そのまま後ろに向かって、自身の筋肉の力も使って倒れこんだ。


 実体を持たない霊を相手に、丈士は本来、満月の懐刀ふところがたなのような道具を使わなければ、干渉することができない。

 だが、今は霊の方から丈士に干渉してきていて、霊は、丈士が倒れるのにつられて前へと引きよせられ、空中に投げ出された。


 その瞬間を、満月は外さなかった。


 満月は弓を引き絞り、額に緊張の汗を浮かべながら瞬時に狙いを定め、最後の破魔矢を放った。


 そして、放たれた矢は、愉悦ゆえつゆがんだ笑顔を浮かべたままの霊の顔面に突き立った。


 青白い燐光りんこうが弾けるように広がり、破魔矢に秘められた力が解放され、霊の身体を強制的に浄化する。


 頭部から上半身にかけてを吹き飛ばされた女性の霊は、かすかに意識の残った丈士の目の前で、砂の城が崩れ落ちるように壊れ始め、そして、虚空へと消滅していった。


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