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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第1章「逃げられるとでも思ったの? お兄ちゃん」

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1-14:「稲荷神社:2」

1-14:「稲荷神社:2」


 稲荷、というのは、日本の神々の一柱で、使われている字からも分かるように、稲などの穀物を司る神で、豊穣の神とされている。

 日本神話などに登場するウカノミタマと同一視されることもあり、日本全国に数多くの稲荷神社が建立こんりゅうされ、今でも人々からの信仰を集めている。


 丈士がやって来たこの[高原稲荷神社]も、そうしたお稲荷様を祭る神社だった。


 石垣の間に作られ、わざと斜面に沿って曲がりくねるように作られた石段を登りきると、左手側に参拝者用の手水舎ちょうずやがあり、その奥側に社務所が建っている。

正面に目を向けると、長方形の石が整然と並べられた石畳の通路の向こう側に、参拝するための拝殿がそびえている。

 右手側には神楽殿があり、絵馬や、おみくじなどを納めるための場所が用意されていた。


 丈士が思っていたよりも、大きくて立派な神社だった。

 朱に塗られた柱やはり、白い壁。

 拝殿やその奥の本殿、神楽殿、社務所などはすべて屋根つきの回廊などでつながっており、どれもしっかりとした作りだ。

 外から見た限り装飾は少なく、豪華ごうかな印象はなかったが、質実剛健で、気持ちが引き締まるような印象のある場所だった。


 だが、静かだった。

 かなり大きな神社だったし、山奥の人知れない場所にあるようなものではなく、街の中にあるものなので必ず誰かはいるだろうと思っていたのだが、少なくとも丈士の近くに誰かがいる気配はなかった。


 神社は見る限りどこも奇麗に掃除され、きちんと管理されている様子だったから、放棄されているとは考えられない。

 初詣などのシーズンではないということで人の姿が無いのかもしれなかったが、丈士は内心で(困ったな)と思っていた。


 星凪と約束したからというわけではないが、巫女と少しでも早く話をつけたいのに、巫女の少女がどこにいるから誰かにたずねることもできないからだ。


 しかたなく丈士は自分の足で巫女がどこにいるかを探すために、境内を歩き回ってみることにした。


 少なくとも、あの巫女の少女がいる場所は、この稲荷神社で間違いないはずだった。

 大家の高橋さんに「幽霊の件で話がしたいから」と説明し、高橋さんが幽霊退治の依頼を出した先がこの神社であり、巫女もそこにいると教えてもらったのだから、確実だ。


 高原町に住んでいる高橋さんは、地元に古くからある稲荷神社の事情についても詳しかった。

 巫女はこの神社で代々神主を務めている一族の娘で、今年で18歳になる高校生だということだった。


 だから、おそらくは学校がなく休みであろう土曜日を狙って訪ねてきたのだが、もしかすると、部活動か何かで帰宅していないのかもしれない。


(また明日来ればいい話だけど、ちょっと、困るな)


 少なくとも星凪が、大家の高橋さんの依頼にあった除霊対象の幽霊ではないということは、なるべく早く巫女に説明しておきたかった。

 明日また神社をおとずれるということも手間だったし、できれば、丈士は巫女とこの場で会って、きちんと話しておきたかった。


 境内を見回る内に、丈士はいろいろなものを見つけることができた。

 たとえば、深く掘られた古い井戸であったり、宝物や奉納品を納めておくためのくらであったり、祭りに使われる山車だしなどを保管しておくための倉庫であったり。

 稲荷神社といえばよくイメージされる、小さな鳥居をいくつも連ねた通路や、両手を広げても抱えきれないほど太い幹をもつ大木もあった。。


「参ったな。本当に、見つからないや」


 興味をひかれるものはたくさんあったが、目的の巫女だけが見つからない。


 かすかに、風を切るような鋭い音が丈士の耳に届いたのは、もしかすると巫女は神社ではなく、別の、自宅などにいるのではないかと丈士が思い始めた時だった。


────────────────────────────────────────


 ヒュン、トスン。

 ヒュン、トスン。


 その音は、断続的に、かすかに、だが確かに丈士の耳に聞こえて来ていた。


 その音がする場所に、巫女がいるかどうかは分からない。

 だが、事情を話せば、巫女の居場所を教えてもらうくらいはできるだろろう。

 そう考えた丈士は、その音のする方向へ向かって、境内の奥へと向かって行った。


 稲荷神社とその境内の周辺は、すっかり都市化してしまった街中にあるにもかかわらず、多くの木々に覆われていた。

 それは、この神社が、周辺が開発されるずっと以前からこの場所に存在し続けていた何よりの証拠であり、地元の人々から信仰され、親しまれてきたことの何よりの証明だった。


 普段、丈士が通学に使っている道からは外れた場所にある神社なので気にも留めてこなかったが、静かだし、自然が心地よく、散歩に来るのにもちょうどいいと思える場所だ。


 丈士が音に向かって進んでいくと、音は徐々にはっきり、大きく聞こえてくる。

 どうにも、聞き覚えのある音だ。


(弓、か? )


 高校時代、丈士が所属していた剣道部の道場の近くには、弓道部の練習場もあった。

 神社の奥から聞こえてくるその音は、弓術の練習で、弓で矢を放ち、的を射る時の音によく似ていた。


 丈士がそんなことを考えながら、一際大きな木を回り込んだ時だった。


 右の方から、ヒュン、という音が聞こえたと思った瞬間、丈士の目の前を、何かが猛烈な勢いで飛びぬけていった。

 そして、丈士の左側、ちょうど丈士が回り込んだ木にひもで吊り下げてあった的に、飛んできた何かが突き立つ。


「おぅわっ!? 」


 それが弓から鋭く放たれた矢で、もう少しでその矢は自分に突き刺さるところだったと理解した丈士は、遅ればせながら驚き、間の抜けた悲鳴をあげながらその場に尻もちをついてしまった。


「すっ、すみませんっ!! 大丈夫ですかぁっ! 」


 そんな丈士の様子を目にして、1人の少女が駆け寄ってくる。

 それは、丈士が探していた巫女だった。


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