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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第八章「ありがとう」

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8-6:「星凪」

8-6:「星凪」


「それじゃぁ、あたし……、そろそろ、いくね? 」


 両手で自身の涙をぬぐうと、星凪は、丈士と満月にそう言った。


 丈士も満月も、なにも言うことができず、ただ、星凪のことをじっと見つめ返している。


 丈士は、もう息もしているのもやっと、という状態で、なにも声に出すことができず、ただ、星凪の姿をその目に焼きつけるようにしている。

 満月は、彼女なりにまだ言いたいことはある様子だったが、星凪の決意と、星凪を見送ることしかできない丈士の悲痛な姿に、[自分が口を挟めるようなことではない]と、すべてをぐっとこらえて飲み込んでいるようだった。


 すぅっ、と浮かび上がり、数メートル空中へと浮かび上がった星凪の周囲に、いくつもの人影があらわれる。


 青白い光でできた。おぼろげな輪郭を持つ霊たち。

 それは、この地域と、代々の百桐家を見守ってきてくれた、守護霊たちだ。


「大丈夫。心配いらないよ、お兄ちゃん。満月さん」


 星凪は、自身の周囲を守るように囲んでいる守護霊たちを見渡した後、丈士と満月に穏やかな笑みを向けた。


「ご先祖様たちが……、あたしを連れて行ってくれるって」


 星凪たちは、どこに向かうのか。

 天国と呼ばれる場所なのか、それとも、それ以外の、人間がまだ知らないどこかなのか。

 少なくとも、地獄、ということはないはずだった。


 だが、守護霊たちが導いて、守ってくれるのだ。

 星凪はきっと、そのどこかへ、迷うことなく、たどり着くことができるだろう。


 いつの間にか、星凪の隣に、1人だけもんぺ姿の霊が立っていた。


 しわくちゃの顔をした、老婆だ。

 丈士は、その老婆になんとなく見覚えがあるような気がしていたのだが、まったく思い出すことができなかった。


 もんぺ姿の老婆の霊は、星凪に向かって微笑みかけると、そっと手を差しだしてくれる。

 老婆が直接、星凪の手をとって、導いてくれるということなのだろう。


「ありがと、おばあちゃん」


 星凪はそう言って微笑み返し、その老婆の手を取る。


 すると、星凪を中心として、霊たちが一斉に輝き始めた。

 そして、その姿が、徐々に、溶けて、消えて行く。


 星凪が、いってしまう。

 消えてしまう。


「せなっ……! 」


 丈士はかすれた声でそう叫ぶと、星凪に向かって手を思い切りのばし、それから、その手を引いて、ぎゅっとキツく握り拳を作る。


(兄ちゃん、頑張るから……っ! だから、星凪、見ててくれよな! )


 そして丈士は、心の中でそう星凪に誓っていた。


 その、丈士が言葉にできなかった誓いは、それでも、星凪へと届いたのに違いない。

 星凪は丈士が向けてきている視線に気づくと、嬉しそうに笑みを浮かべ、確かにうなずいた。


 そして、ゆっくりと、最後の言葉をつむぐ。

 星凪のくちびるが動くのを、丈士も満月も、はっきりとその目にした。


 やがて、星凪たちの姿は消え去った。

 まるで、そこには最初からなにも存在しなかったかのように。

 なんの痕跡も残さず、跡形もなく。


 丈士の妹、星凪は、3年の月日を経て、ようやく、あるべき場所へと向かった。

 そして、丈士も、受け入れなければならない現実と向き合う時が来たのだ。


「……あたしは、幸せだったよ、ですか……」


 やがて、星凪たちが消えて行った場所を見つめながら、精一杯の笑みを浮かべた満月が双眸そうぼうから涙をこぼしながら、満月がそう言った。


 丈士は、もう、なにも言えず、ただ、泣いていることしかできなかった。


 2人の視線の先には、夏の、濃い青色をした空と、高くそびえる積乱雲だけがあった。


────────────────────────────────────────


「まさか、こんなことになるなんて、思いもしませんでした」


 しばらくして、いつの間にか立ちあがっていたゆかりが、独り言のように、しかし、丈士と満月にも聞こえるようにはっきりとした口調でそう言った。


「ゆかりちゃん!? 目が、覚めたんですか!? 」


 動けない丈士を抱きかかえたまま、満月がほっとしたように、嬉しそうにそう言うと、ゆかりは丈士と満月の姿を憮然ぶぜんとしてながめながら、頭を、首をコキコキとさせながら左右に揺らして見せる。


「ええ。……ちょっと前から。でも、とても私が割って入れる雰囲気ではなかったので、気絶したフリをしていたんです」


 おかげで、余計に体中が痛いです、とぼやいた後、ゆかりは両手を腰に当て、まだ半ば呆然としたようになっている丈士と満月に向かって言う。


「いつまで、そうやっているつもりですか!? 」


 普段、クールに、知的に振る舞い、人に話しかけるのに大声などめったに使わないゆかりに突然怒鳴られて、丈士も満月もぎょっとしたような視線をゆかりへと向ける。


「そりゃ、こうなったことは、私も残念だと思っていますよ! でも、星凪ちゃんは、3年前にいくべきだった場所に、今、ようやくいったんです! ……後悔はあるでしょうけど、星凪ちゃんは、笑っていましたよね? ちゃんと、お別れをすることができたからです。いくべき場所に、なんのうれいもなく旅立つことができた。……きっと、星凪ちゃんは満足しているはずです! 」


 だから、あまり感傷にひたるようなことはするな。


 ゆかりは、そう、丈士と満月を激励げきれいしようとしているのだろう。


「それに! ……もうすぐ、天気が崩れ始めますよ」


 それからゆかりが空を指さすと、その先にある積乱雲から、ゴロゴロと雷の音が響いてくる。


「早く、丈士先輩を運ばないと。……星凪ちゃんの覚悟が、無駄になるんじゃありませんか? 」


 その言葉に、丈士も満月もはっとする。


 今の弱り切った丈士では、大雨に降られるだけでも命取りになりかねない。


「た、大変! すぐに、戻りましょう! ……うッ、重いッ! ひ、1人は無理そうです! ゆかりちゃん、手伝って! 」

「はいはい、手伝いますよ。……私にだって、それくらいの義理はありますからね」


 そうして丈士たちは、川原から去って行った。


※熊吉より


 お疲れ様です。熊吉です。

 「妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいよね? お兄ちゃん? 」ですが、本話にて最終話となります。

 あとはエピローグを投稿させていただきまして、完結とさせていただきたく思います。


 これまで本作を読んでくださった読者様、本当に、ありがとうございました。

 もしよろしければ、エピローグもよろしくお願いいたします。


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