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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第七章:「決着をつけるために」

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7-18:「決戦:1」

7-18:「決戦:1」


 丈士が茂みの中から駆け出し、刀を上段に振り上げ、雄叫びをあげながらたたり神に向かって突進していく。


 二枝川のたたり神が丈士の吶喊とっかんに気づくのとほとんど同時に、ゆかりから連絡を受けた満月が結界を発動させた。


 それは、本来あるべき姿からすれば不完全なものだったが、それでも、霊感がないはずの丈士にも、辺りの気配が変わったことが敏感に感じ取れるほどのものだった。

 なんというのか、空気が、厳かな気持ちにさせられるものに変わった、そんな感覚だ。


 丈士の吶喊とっかんと、突然辺りに展開された結界に、たたり神は驚き、戸惑ったようだった。

 せめて星凪だけでもとらえてから水底みなそこに逃げ込もうというのだろうか、たたり神はその腕をうねらせ、触手のようにのばし、星凪を捕らえようとする。


 だが、星凪は、そのたたり神がのばしてくる腕を、ひらり、ひらりとかわした。

 治正とハクと戦ったことによりたたり神がのばしてくることのできる腕の数は減っており、また、ロクに狙いもつけられずとっさに振り回しているだけのものであるため、よけるはそう難しくはない。


 だが、たたり神がのばしたうでの1つが、偶然、星凪をとらえるコースへと向かって行くのが見えた。


「させるかっ! 」


 丈士は叫び、走って来た勢いを乗せて刀を振り下ろして、そのたたり神の腕を叩き斬る。


「ありがと、お兄ちゃん! 」

「星凪、お前は下がってろ! 」


 礼を言う星凪に丈士は鋭い声でそう命じ、もう一度祟たたり神に斬りかかるために刀を両手で振り上げる。


 たたり神の標的は、丈士に言われた通り距離をとった星凪から、刀で斬りかかって来る丈士へと向いたようだった。

 丈士は、たたり神のなにもない眼窩がんかから無数の視線が自分へと向けられるのを自覚しながら、たたり神の腕が今度は丈士に向かってくるのを目にしていた。


 一斉に来られたら、防ぎきれない。

 そう思って身構えた丈士だったが、たたり神の攻撃は向かってこなかった。


 満月に連絡を終え、薙刀なぎなたを手に駆けてきたゆかりが、何枚ものお札をたたり神へと投げつけて命中させたからだ。

 たたり神へ次々と命中したお札は、次々と強烈な青白い燐光りんこうをまき散らし、攻撃を受けたたたり神はたじろいだようになる。


「どうですかっ! お前のために、特別に用意したお札ですよ! 」


 ゆかりはそう叫ぶと、さらにたたり神に向かって攻撃を加えた。

 お札は、満月とゆかりがせっせと作ったから、残弾を気にせずに使うことができる。

 次々と飛来するお札によってたたり神は反撃することもできず、たじたじとなって、そして、川の中へと逃げ込もうとする。


「逃がさねえよ! ここで、お前は倒されるんだ! 」


 だが、たたり神が逃げようとした先には、丈士が回り込んでいた。


 自身の逃げ道をふさがれているということを知ったたたり神は、おぞましい雄叫びをあげながら丈士へと遮二無二しゃにむに突進してくる。

 満月が発動させた結界によってこの場から逃げ出すことができないという状況から、丈士たちがたたり神を倒すために周到に準備し、作戦を立ててきていることを理解しているのか、たたり神はなりふりかまっていられないようだった。


 丈士には、たたり神を逃がすつもりはまったくなかった。

 迫って来る巨体を前に足がすくんだが、声を張り上げることで恐怖を吹き飛ばし、丈士は刀を振り上げ、たたり神を迎えうつ。


 背後からゆかりのお札で攻撃されながらも、たたり神はそれにはかまわず、逃げ道に立ちふさがっている丈士だけを集中攻撃した。

 いくつもの腕がむちのようにしなりながら丈士めがけて振り下ろされ、丈士はそれをかわし、あるいは刀で受け流し、斬り捨てながら、たたり神を川へと逃がさないように踏みとどまる。


 だが、必死になったたたり神の攻撃をすべて防ぎきることは、難しかった。

 丈士は直撃を避けるために徐々に後ろへと下がらざるを得ず、いつの間にか、川原の端まで後退させられていた。


「しまったっ!? 」


 じゃぶん、と、自身の運動靴が川の水の中に入り、その水の冷たさを感じながら、丈士は自分の足が泥にとられて滑るのを知覚していた。


 丈士が態勢を崩した瞬間を、たたり神は見逃さない。

 たたり神はいく本もの腕を束ね、1つの巨大なむちのようにすると、丈士に向かって振り下ろした。


 強力な霊的な力が込められたその一撃を、丈士はどうにか刀で受け止める。

 刀の霊力とたたり神の霊力とがぶつかり合い、反発しあい、その力のあまりの大きさに、丈士はその場に膝をついていた。


 たたり神は、この機に丈士を押しつぶしてしまおうと、力をこめる。

 丈士はたたり神を川へ逃がすまいと必死に耐えたが、たたり神の力を受け止めている刀にピシ、ピシ、とヒビが入り始めていた。

 霊能力者ではない丈士には、その刀はまだ扱いきれていないのだ。


 もう少しで、刀が砕ける。

 そう思った時、たたり神の腕を、ヒュン、と風を切る音を発しながら飛翔してきた1本の矢が貫き、吹き飛ばした。


 青白い燐光が広がるのと同時に、丈士へと叩きつけられていたたたり神の腕が途中で千切れ飛び、元のバラバラの腕になって四散していく。

 たたり神はおぞましい悲鳴をあげながらのたうち回った。


「お待たせしました! 丈士さん、ゆかりちゃん! 」


 矢を放った満月は、丈士の危機を救うことができたことにほっとしたような表情を浮かべ、2本目の矢を弓につがえる。

 「巫女装束こそが、高原稲荷神社の巫女であるわたしの制服です! 」という主張の満月は、この大事な場面でその巫女装束を身につけ、革製の胸当てを身に着けた姿だ。


「川原に矢を打ち込んで、たたり神が逃げられないように結界を作ります! 丈士さん、そこから逃げてください! 」

「……あっ、ああっ! 」


 満月の叫ぶ声に、危機を脱して両手を膝につき、荒い呼吸をしていた丈士はかろうじてそう答えると、よろよろとその場から駆け出した。


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