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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第七章:「決着をつけるために」

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7-16:「川原:1」

7-16:「川原:1」


 すべての準備は、整った。


 たたり神を逃がさないための結界も、たたり神を倒すための武器も手に入った。


 あとは、行動に移すだけだ。


 丈士たちは話し合った結果、「たたり神の傷が回復しないうちに勝負を挑むべき」という意見でまとまり、結界を展開する準備が整ったその次の日には、たたり神との戦いにのぞむことを決めた。

 一般的に霊的な存在がその力を強める夜間は避け、朝、日の出を待ってから、なるべく早い時間にたたり神に挑む。


 これには、天候も関係している。

 天気予報で、明日以降、しばらく天候が崩れるかもしれないと言っていたのだ。


 たたり神は、元々は二枝川の神様だった。

 だからこそ、その力は、雨が降り、川を流れる水の量が増えれば増えるほど、強力になっていく。


 天候が崩れて雨が降れば、当然、二枝川の水かさは増す。

 そうなればたたり神はより大きな力を得てしまうし、その傷の治りも早まって、再び天候が回復するころには、倒すことが今よりも難しくなってしまう。


 明日、夜が明けてから、天候が崩れ出すまでが、丈士たちにとっては最善の機会だった。


準備を整え終えたその日、丈士たちは体調を万全にするためにいつもより早く休み、夜が明けたあと、朝食をいつもよりもしっかりと食べて体力をつけた。


 それから丈士たちは、両親が農作業のために出かけたタイミングを見計らって、それぞれの武器を手に、たたり神との戦いの場へと向かった。


────────────────────────────────────────


 たたり神が潜んでいるはずの、二枝川のふち

 そこは、なにも知らないものが見れば、静かで、穏やかな場所でしかなかった。


 川の流れは深いふちに差しかかるとその流れを穏やかなものとし、波を立てることもなく流れていく。

 ふちの水面は鏡のようで、周囲の木々の影を映しだす。


 のどかな光景だったが、そこには、生贄いけにえとして捧げられた人々の無念が怨念となってよどみ、たたり神と化した二枝川の神が潜んでいる。


 星凪の遺体は、この場所で見つかった。

 丈士はその時の光景を、警察の人から口伝てで聞いただけだったが、何もない川原に星凪が打ち上げられている姿を、簡単に思い描くことができた。


(絶対に、アイツだけは、倒す! )


 結界を発動させるための最後の仕上げをしに行く満月と別れ、星凪、ゆかりと一緒にふちから少し離れた場所までやってきた丈士はそこで荷物を下ろし、治正からたくされた刀を腰に、角切りの太刀を背中に背負いながら、木立越しに二枝川の方を睨みつけた。

 それから、何度か軽い咳が出たが、丈士の闘志は少しもおとろえはしなかった。


「百桐先輩。大丈夫ですか? 」


 そんな丈士のことを、珍しくゆかりが心配してくれる。


「なんだか、たまに咳き込んでいるみたいですけれど。……体調が悪いんですか? 」

「ああ、いや……、少しだけ、な」


 変に隠し立てをすれば、余計な疑いを受ける。

 そう思った丈士は、ゆかりに否定しかけて、すぐに肯定に切り替えた。


 それから丈士は、ことさらおどけたように、からかうような口調で言う。


「それにしても、ゆかりちゃんがオレのこと心配してくれるとか、珍しいじゃん? 少しはデレるつもりになったってことかな? 」

「ハッ、この決戦の時に、途中でへばってもらったら困るってだけです! 」


 丈士の言葉を鼻で笑うと、ゆかりは小さく舌を出し、薙刀なぎなたを抱えて先に川原の方へ向かって歩き去って行く。


(ああ。わかってるさ)


 丈士は、その背中を見ながら、険しい表情だった。


 満月がいろいろと世話を焼いてくれたおかげで回復したはずの体調が、また悪化し始めている。

 それは、丈士自身が自覚していることだった。


「お兄ちゃん……、やっぱり……? 」


 また、小さく咳き込んだ丈士のことを、星凪が心配そうに見つめている。

 そんな星凪に向かって、丈士は「なんてことないさ」と笑って見せた。


「星凪。兄ちゃんは、大丈夫だ。こんなの、すぐに吹き飛ばしてやるさ。……あのたたり神、星凪のかたき討ちも、すぐに終わらせてやる」


 その丈士の言葉に星凪はうなずいたが、しかし、やはり不安そうだった。


 それから、茂みの中を進んだ丈士は、二枝川のたたり神が潜んでいるふちの川原に入る手前の茂みでゆかりと合流し、姿勢を低くした。

 おそらく、たたり神は丈士たちの接近に気がついているのだろうが、満月が結界を発動させるための最期の仕上げを終え、たたり神を逃がさないようにできるまではあまり刺激はしたくないのだ。


 丈士たちを高原稲荷神社に追い詰めた時もそうだったが、たたり神は狡猾こうかつで、自身が深い水底にいれば、丈士たちは容易には手を出せず、無理に手を出して来たとしてもいつでも撃退できるか、逃げ出せると知っているのだろう。


 つい数日前まで、それは事実だった。

 だが、今の丈士たちには、百桐家の先祖がこの地にたたり神を封じるために作った結界がある。


「満月先輩から連絡。結界の準備、完了だそうです」


 スマホにあった着信を確認していたゆかりが、短くそう報告してくれる。

 どうやら、いよいよ、最後の決着をつける時が来たようだった。


「よし。……星凪、悪いけど、頼む」

「うん。わかったよ、お兄ちゃん」


 振り返らないままの丈士の言葉に星凪はうなずき、それから、ゆっくりと茂みから出て、川原へ、二枝川のたたり神が潜んでいるふちへと向かって行く。


 二枝川のたたり神は、3年前、命を奪ったものの、どういうわけかその魂までは我がものとすることのできなかった星凪のことに執着心があるようだった。

 だからこそ、100キロメートル以上も離れた高原町まで、丈士と星凪を追いかけてきたのだ。


 星凪を囮にして、たたり神をふち水底みなそこからおびき出す。

 それから、満月に結界を発動してもらい、たたり神の逃走を防ぐ。


 そうして、たたり神から逃げ道をうばい、今日、この場所で決着をつけるというのが、丈士たちの作戦だった。


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