7-14:「結界」
7-14:「結界」
父親から昔話を聞いているうちに、すっかり夜はふけていた。
居間におかれていた鳩時計の音でかなりいい時間になっていたことを知った丈士たちは眠りにつくことにし、父親に昔話の礼を言ってそれぞれの布団へと向かった。
そして、その翌日。
朝食を済ませた丈士たちは、[午前中の涼しい内にまた辺りを散歩してくる]などと言って、また連れ立って百桐家を出かけた。
高原稲荷神社からここまで、電車などに持ち込めない武器の類を持ってきてくれることになっている式神、ハクが、もうすぐ到着する時間になるからだ。
丈士たちは、人目につかない場所として、雑木林の中の、祠がある広場でハクを待った。
もっと見通しの良い場所で待った方がいいのでは、とも思ったが、満月が霊能力を使ってハクに合図をすることで合流する場所は調整ができるらしく、ほどなくしてそこにハクがあらわれた。
白いキツネの姿のハクは、その背中にまとめられた荷物を背負い、真っ青な夏の空を[駆けて]来た。
美しくしなやかな銀の体毛を風になびかせながら、ハクは優雅に空を駆け、手を振る満月のいる広場めがけて降りてくる。
どうやって飛んでいるのかはさっぱりわからなかったが、式神であるハクのことだろう。
きっと、不思議な力を使っているのだ。
(う~ん、うらやましい)
丈士は、内心でそう思いながら徐々に近づいてくるハクの姿を見上げていた。
こんなに青い空の中を、風を感じながら自由に駆けまわれたら、きっと心地よいだろうと思ったからだ。
やがて、ハクはストン、と着地し、丈士たちの目の前まで来て立ち止まった。
「これは……」
それからハクは、少し驚いているような視線を、近くにあった祠へと向ける。
「空におりました頃より、なにかしらの力は感じておりましたが……、これは、力を、意味を持たされた祠でございますね」
「うん。実は……」
驚いているハクに、満月は昨晩、ここであったことを話した。
丈士とゆかりに背負って来た荷物を下ろしてもらいながら満月の話を聞いていたハクは、すべてを聞き終わると「なるほど」と言ってうなずいた。
「不思議なこともあるものです。百桐様のご先祖様が、よもや、あの祟り神を1度は倒した方々であったとは。……なにやら、運命や、宿命のようなものを感じます」
それからハクは、ぱたん、と白くてふわふわの尻尾を振ると、もう一度祠の方を振り返る。
「だといたしますと、かの祠は、単に角切りの太刀を納めておくためのものではないかもしれませぬ」
そのハクの言葉に、満月はいぶかしむように首をかしげる。
「ハク? どういうこと? 」
「幾百年の昔に討伐されたはずの祟り神が、どうして蘇ったのか、今まで疑問でございました。ですが、祟り神が退治されはしたものの滅びてはおらず、祟り神が再び復活することをこれらの祠を用いて封じていたのだとすれば、合点がいきます」
「封印していた? ……この祠が、祟り神を封じ込める結界を作っていたっていうこと? 」
「1つではございませぬ。空にある時は見逃しておりましたが、この祠に意味があると知った今なら、他にもいくつか、この祠から感じる力と似たようなものがあるとわかりまする」
つまり、祟り神が数百年もの間なんの騒ぎも起こさず、そして急に復活を遂げたのは、祟り神が実際には滅んでおらず、そして、百桐家の先祖が築いた祠などによって結界が作られ、その中に祟り神を封じ込めていたからということらしい。
おそらく、なにかの理由でこの結界が破られたことにより、祟り神は復活を遂げてしまったのだろう。
「なら、もう一度、結界を作りなおそう! そうすれば、祟り神をその中に封じ込めて、逃げられないようにできます! 」
「なるほど! もしかすると、祟り神の力をさらに弱められるかもしれませんね! 」
満月は少し興奮したように言い、ハクから降ろした荷物の梱包をといて中身を確認していたゆかりも、ぱっと明るい表情になって満月の言葉に続く。
「その……、申し訳ございません、お嬢様」
だが、嬉しそうにゆかりとハイタッチしている満月に、ハクは申し訳なさそうに言った。
「お手伝い申し上げたいのですが、私はこれより、高原稲荷に戻らねばなりません」
そんなハクの姿を見て少しきょとんとした後、満月は明るい笑顔で言った。
「大丈夫! 気にすることはないよ、ハク! 地元に詳しい丈士さんと星凪ちゃんもいるし、すぐに結界を作っていたものは見つかるよ! 」
「ですが、私、お嬢様にもお仕えせねばならぬ身……」
「ふふっ。……いいんだよ、ハク。お父さんのこと、心配してくれているんでしょ? 」
ハクはその満月の優しい問いかけには答えなかったが、無言のままそっぽを向いて視線をそむけるその仕草は、満月の指摘を肯定しているのに等しかった。
「お父さんのこと、よろしくね? ハク。きっと、祟り神を倒して、帰るから」
そんなハクをぎゅっと抱きしめると、満月は誓うようにそう言った。
ハクはその言葉にうなずく。
そして、満月が抱擁を解くと、ハクは未だに祟り神から受けた呪いによって苦しめられている治正のところへと戻るために、再び空へと駆け上がって行った。
「さっ! それじゃぁ、さっそく、結界について調べてみましょう! 丈士さん、星凪ちゃん、案内、よろしくね! 」
立ち上がり、元気にそう言った満月の姿を見て、丈士も星凪も微笑んだ。
「おう」「任せておいて! 」




