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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第七章:「決着をつけるために」

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7-10:「守護霊」

7-10:「守護霊」


 星凪が視線を送っていた縁側の方を見ると、そこには、座ったままの姿勢の満月とゆかりの姿があった。

 2人とも、つい先ほどまで楽しそうにおしゃべりをしていた時そのままの姿だったが、その視線はお互いを向いておらず、外の方を向いている。


 どうやら、星凪の視線も、外へと向けられているらしい。

 3人の視線の先へ自身も顔を向けた丈士は、そこで、息をのんだ。


 丈士の家の庭に、いくつもの人影があった。


 それはすべて青白い光のようなものでできた人影で、その輪郭はおぼろげで、そして足の先が透けて見える。

 典型的な、幽霊の姿だった。


 丈士は、たたり神の姿がそこになかったことに、正直言って安心していた。

 だが、実際には、なにも安心できるような状況ではなかった。


 ただの幽霊であっても、時に悪霊となり、大きな危険となる。

 そのことをこれまでの経緯から身に染みて理解している丈士にとって、幽霊たちが突然姿をあらわしたことは十分に警戒するべきことだった。


 それも、1人や2人ではない。

 何人も、10人以上もいるだろうか。


 おぼろげにわかる特徴から、その幽霊たちは性別も服装も様々で、時代さえも違っているようだった。

 中央に立っているのは、戦国時代か、もっと古い時代のよろいのようなものを身に着けた幽霊たちで、刀や弓、槍のようなものを持ち、5、6人ほどの集団で立っている。


 その周囲にいるのは、鎧は身に着けていないものの、武士のような恰好をした者たちや、着物のようなものを身に着けた女性たち、わりと近代的な服装に見える男性や女性、まるで大戦中のようなもんぺ姿の女性などだった。


 満月やゆかりがどうかは知らないが、丈士は1度にこれほど多くの幽霊を見たことはない。


 丈士と星凪がどうすればいいのかわからず、緊張した面持ちで幽霊たちを睨んでいると、ゆかりになにかをささやいた満月が、今度は丈士たちの方をゆっくりと振り返った。

 そして満月は、丈士たちに取り乱したりしないようにと忠告するように、左手の人差し指を立てて「しーっ」と言う仕草をする。


 それから、満月は丈士たちのことを小さく手招きをした。

 お互いに顔を見合わせた丈士と星凪は、両親がこの事態に気づかずテレビドラマに集中していることを確認し、満月の指示に従って縁側へと向かっていた。


「安心してください。あの人たちは、危険な霊ではありません。……多分、ですが、いわゆる守護霊と呼ばれる存在です」

「守護霊? 」


 隣に来た丈士と星凪に満月は説明してくれたが、丈士はまだ状況がつかみきれずにそう問い返していた。


「はい。……霊の多くは、怨念によって現世に留まっています。ですが、それ以外の強い情念、たとえば、守りたいものや人を残している方が亡くなった場合、まれにその人も幽霊となることがあるんです。そういった霊は、その、自分が守りたかったものを守るために存在し、様々な加護を与えてくれます。それが、守護霊と呼ばれる存在です」

「なるほど」


 丈士はようやくして納得してうなずく。


「ですが、これだけたくさんの守護霊は、見たことがありません」


 満月に続いて、緊張した様子のゆかりが口を開いた。


「守護霊とはいえ、その存在は普通の幽霊とは紙一重。場合によっては、悪霊化することさえあります」

「大丈夫だよ、ゆかりちゃん。ほら、イヤな感覚はしないでしょ? 」

「……それは、そうですが」


 少し怖がっている様子のゆかりをはげますように満月が言ったが、しかし、ゆかりはまだ不安そうな様子だった。


「あっ。みんな、消えて行く……」


 その時、星凪が少し驚き、戸惑ったような声をもらす。


 丈士が満月とゆかりから視線を守護霊たちの方へと戻すと、星凪が言った通り、霊たちの姿が夜の暗がりの中に数人ずつ、溶けて消えて行っていた。


 最後に残ったのは、もんぺ姿の女性だった。

 よく見ると、かなり高齢の老婆のようで、うっすらと眼鏡をかけているのが見える。

 背筋もピンと伸びていて年の割に活力のありそうな、生きていればしゃんとしていただろうと思わせるような霊だった。


(う~ん? あの人、なんか、見覚えがあるような……? )


 丈士はその老婆の霊を見ながら、なにか引っかかるようなものを感じていた。

 だが、なにも思い出すことはできない。

 それは、ほんとうに微かな引っかかりだった。


 いぶかしんでいる丈士の前で、もんぺ姿の老婆の霊は、ゆっくりと手をこちらに差し出すようにする。

 そして老婆の霊は、丈士たちを手招きするようなしぐさを見せると、他の霊たちと同じように夜の闇の中へと消えて行った。


「ついて来いって、ことか? 」


 そのしぐさの意味を直感的にそう理解した丈士は、不思議そうに呟く。


「追ってみましょう! 」


 そう言って立ち上がったのは、満月だった。


「わたしも、あれだけたくさんの守護霊を見たことはありません。……これは、とても珍しいことです。きっと、偶然ではありません。なにかがあるはずです! 」


 そして満月は、他の人の意見など聞かず、勢いよく玄関へ向かって駆けだしていく。


「あっ、先輩、1人は危ないですよっ! 」


 その後を、ゆかりが慌てて追いかけていった。


 後に残された丈士と星凪だったが、ほとんど迷うことはなかった。

 満月が言うとおり、あの守護霊たちが丈士たちの前に姿をあらわしたのには、なにかの意味があると、そう思えたからだ。


「ごめん、ちょっと、涼みに行ってくる! 」


 丈士は適当に思いついた理由を両親に告げると、星凪と共に、満月とゆかりのあとを追いかけた。


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