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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第七章:「決着をつけるために」

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7-8:「昼食」

7-8:「昼食」


 百桐家の食卓に、たくさんの料理が並ぶ。

 全員で取り分けるように1つの皿に山盛りにされた夏野菜の天ぷらが中央にドンとかまえ、人数分のゴハン、味噌汁、そして満月が作った一品料理が盛られた小皿が机の上に並んでいる。


「いただきます」


 すべての料理が並べ終えられ、全員が食卓に着くと、丈士の父親の祈りの言葉を合図に、全員が一斉に「いただきます」と合掌し、食事が始まった。


 料理の味は、当然のようにどれも美味しい。

 味噌汁は丈士にとってちょうどいい濃さで、出汁もしっかりととれているし、豆腐とナスも食べやすい大きさに丁寧に切りそろえられている。

 トマトとチーズのホイル焼きも、塩コショウというシンプルな味つけながら、バジルの風味が加わり、火の通ったトマトのジューシーさと焼き目のついたチーズの香ばしさ、とろりとした感じが合わさって絶品だった。

 トマトと同じくオーブンで焼かれたピーマンの肉詰めも、中のお肉にしっかりと肉汁が閉じ込められており、ピーマンの苦みと歯切れのよい触感が合わさって美味しい。


 丈士の母親が作った夏野菜の天ぷらも、もちろん美味しかった。

 ナスに、オクラに、ピーマンに、大葉のてんぷら。

 どれもあげた手であるためにサクサクで、特に、大葉の天ぷらは食感も良くていくらでも食べられそうだった。


 それに、衣をつけて油で揚げるというシンプルな調理法だったが、てんぷらというのは夏野菜のうま味や風味をストーレートに楽しむには最適な食べ方の1つだった。

 衣はサクサクであるだけでなく、夏野菜のうま味や風味をその中にしっかりと閉じ込めてくれるし、つけダレの味もしみこみやすくしてくれる。


 丈士にとって、夏野菜のてんぷらというのは[夏のごちそう]の代名詞のような存在であり、故郷に久しぶりに帰って来たのだという懐かしさもあって余計に美味しかった。


 丈士は時折、自身の膝の上に頭を乗せている星凪に料理をとってやりながら、夢中になって料理を食べ進めていく。


 星凪が丈士の膝の上に頭を乗せているのは、星凪のことを認識できない両親がいる食卓で、2人を驚かせないように星凪に料理を食べさせるためだった。

 星凪は[お供え物]として捧げられた食べ物を食べることはできるのだが、当然、その口に入った食べ物はそこで消えてしまうため、机の下で両親の死角になる場所でやらないと驚かれてしまうのだ。


 少々、いや、かなりお行儀は悪かったが、星凪はご満悦だった。

 故郷の味が嬉しい、というのもあるが、丈士の膝枕で食べられるのが一番嬉しいらしい。


 満月もゆかりも、嬉しそうにパクパクと料理を食べている。

 満月は普段からよく食べる方だったので珍しくはなかったが、小柄で華奢な体格から予想される通り小食のゆかりが満月並みのペースで食べているのは珍しかった。

 満月が作ってくれた手料理、ということもあるのだろうが、ゆかりにも新鮮な夏野菜の美味しさはわかるのだろう。


 そんな丈士たちの様子を、両親は嬉しそうに眺めながら食事をしている。

 普段は2人だけで食卓を囲むことが多く、久しぶりに賑やかな食卓が嬉しいのと、丈士たちの食べっぷりがいいのも嬉しいのだろう。


 そうして、丈士たちはすぐに昼食を平らげてしまった。


────────────────────────────────────────


 食事が終わると、使い終わった食器を片づけ、丈士たちは2手にわかれてくつろぐことになった。

 丈士と星凪と父親は机を片づけた和室で将棋を指し、満月とゆかりと母親は居間でテレビを見ながらおしゃべりを楽しんでいる。


 将棋を指す、といっても、丈士はそれほど将棋に興味は持ったことがなかったので、大して強くはない。

 父親の方はために将棋の本を読んだりするのでなかなかの指し手だから、普通に戦ったのでは勝負は見えている。


 だから、丈士は父親から6枚抜きという大きなハンデをもらっている。

 強力な駒である飛車、角、陣地の両脇を固める香車や桂馬を抜いた状態で戦うという、将棋を指す中ではもっとも大きなハンデだった。


 だが、丈士はほどなくして、父親に追い詰められていた。

 ほんの少しなら将棋のことはわかるものの、丈士に二手、三手先を読む力はなく、場当たり的な指し方しかできないからハンデがあっても結局は劣勢になってしまう。

 特に、丈士の側の飛車や角をどちらか1つでもとられてしまうと、戦況は一気に悪化していくのだ。


 劣勢の盤面を見ながら、丈士が(かくなる上は歩兵を突っ込ませて玉砕するしか……)などと絶望的な考えを巡らせている時、母親が近くにやって来た。


「はい。スイカ、切ったから食べとくれ」


 どうやら、いつの間にかまた台所に立ち、デザート代わりにスイカを切って持ってきてくれたらしい。

 食べやすいように三角形に切り分けられたスイカで、手に持つとヒンヤリとよく冷えているのが伝わってくる。


 甘いスイカを喜んで食べている丈士を母親は嬉しそうに眺めていたが、唐突に「丈士」と呼びかけてきた。

 その声に、スイカを咀嚼そしゃくしながら丈士が「なに? 」と言いたげな視線を向けると、母親は「うふふ」と、意味深な笑みを浮かべた。


「ねぇ、丈士。……あそこに、2人の女の子がいるだろう? 」

「え? あ、ああ。満月さんと、ゆかりちゃんのこと? 」

「どっちが本命なんだい? 」


 丈士がきょとんとしていると、母親は急に鋭く切り込んできた。


 その質問に、丈士は思わずスイカを飲み込みそこなってむせる。

 そんな丈士の姿を、母親はニヤニヤと眺めた。


「お前、全然、女の子に縁がないって思っていたのに。急に、どっちもいい娘さんじゃないか? 満月さんは明るくて料理上手の器量よし、ゴールデンウィークの時に体調を崩したお前の面倒を見てくれたのもあのコなんだろう? 声でわかったよ。ゆかりちゃんは礼儀正しいし、サングラスで最初は気づかなかったけどテレビに出てる子なんだろう? あたしとしちゃ、あの2人ならどっちにでもお母さんと呼ばれてかまわないよ」

「げほっ、げほっ、ち、ちがうってっ! 2人は、そんなんじゃなくって! 」


 どこか楽しんでいるような母親の言葉に、丈士はむせながら、どうにか否定の言葉を絞り出す。

 すると、父親が大げさなしかめっ面で言った。


「むぅ。いかん、いかんぞ、丈士。二股なんぞ考えるように、お父さん、お前をそんな風に育てた覚えはないぞ」

「ばっ! 親父もっ、だから、違うんだって! 」


 丈士はさらに否定したが、両親は丈士の言葉などどうでもよく、あくまで「2人は彼女候補」ということで話を進める気でいるらしい。


 その時、居間の方から、満月とゆかりの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

 どうやら、ゆかりが出演している番組が放映されているらしい。

幽霊が出るという噂の廃墟をゆかりが探検するという内容の番組で、おどろおどろしい演出のホラーものなのだが、霊能力を持つ満月もゆかりもその演出がおかしいらしく笑っている。


(2人に、迷惑をかけるわけにはいかねぇっ! )


 そんな楽しそうな声を耳にしながら、丈士は内心で強くそう思っていた。


 両親が言うようなことを、特に満月に対して思わないことはない。

 だが、満月もゆかりも、たたり神を倒すためにわざわざここまで来てくれているのだ。


 もちろん、それはたたり神が放っておくことのできない危険な存在だからということもあるのだが、丈士と星凪のため、という理由もある。

 丈士としては、そんな2人を、両親の軽い好奇心で不愉快にさせたくはなかった。


「とにかく、2人とも、カノジョとか、そういう人じゃないから! 」


 丈士は満月とゆかりに聞こえないくらいの声でそう怒鳴ると、その場から逃げ出すように自室へと向かった。


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