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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第七章:「決着をつけるために」

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7-6:「実家は農家」

7-6:「実家は農家」


 丈士たちがたどり着いたのは、二面二線の小さな駅だった。

 最大でも5両ほどの電車しか停車することのできない短いホームに、歩道橋のような作りの屋根つきの連絡通路、駅員の常駐はたった2名の小さな駅舎がある。


 手押しボタンで扉を開き、丈士たちが電車から降りると、他にも数名の乗客が同じように降りていく姿を見ることができた。

 そして、丈士たちが連絡通路の階段を登り始めるころには、もう乗降客がいないこととホームと線路の安全の確認を終えた電車は扉を閉め、車掌の笛の合図で次の駅へ向かって出発していった。


 連絡通路の上からは、周囲にいくつもの家々が連なっているのが良く見える。

 それは丈士の故郷ではもっとも大きな集落、江戸時代には街道沿いの小さな宿場町として栄えていた場所であり、丈士の実家にはここからさらにローカルバスに乗りかえて20分ほどかかる予定だった。


 切符を改札機に入れ、スーツケースをガラゴロと引きながら駅舎から出ると、小さな商店やタクシー会社、駐車場などに囲まれたロータリーがあり、そこには電車から降りてきた人を出迎えに来たらしい乗用車が数台と、小型のバスが1台停車していた。


「わー、なにこのバス! かわいいですねぇ! 」

「こんなに小さなバス、見たことありません」


 これまでの旅路でずっとそうだったが、満月もゆかりも、この小さな路線バスにも興味があるようだった。

 確かにバスは小さいし少し丸っこく、色合いも明るい黄色で、都会には走っていないものだし、かわいらしいかもしれない。


 丈士たちがスーツケースを持って乗り込んでも、小さなバスであるにも関わらず車内はガラガラだった。

 乗ったのが丈士たちだけなのだから、それも当然だ。


 そして、丈士たちが座席につくと、他に乗客がいないことを確認したバスは、ほどなくして定刻通りに出発した。

 電車の時刻表に合わせ、その利用者が利用しやすいようにバスの時刻表が組まれているのだ。


 バスはのんびりと集落の中を走り抜け、数回停車して乗降客の対応をしながら、田園風景の中に向かって行く。

 田舎の道は交通量も少なくすいているので、バスの時刻表が乱れることはめったになかったし、その走り方も余裕を持った、ゆったりとしたものになっている。


 やがてバスは、数件の農家が集まった小さな集落へ近づいていく。

 その集落の姿を車窓から目にすると、丈士は降車することを知らせるボタンを押した。


 その小さな集落のうちの1つが、丈士と星凪の実家だった。


────────────────────────────────────────


 そこにある数件の農家は、どれも地方の田舎には多いことなのだが、どれも立派なものだった。

 古い作りの長方形の母屋に、2階建ての蔵、農業用品やちょっとした作業に使うためのバラックがある。

 中には、昔はどんな農家でも数頭の家畜を飼っていることが普通だったために、小さな家畜小屋のある家もある。


 どの家も敷地には余裕があり、庭には柿や栗、桃をはじめ、思い思いの樹木などが植えられている。

 そして、その周囲は、低い石垣の上にイヌマキという植物で作られた生垣でぐるりと囲まれ、さらにその周囲には、寛永用水から引かれて来た水が流れる小さな水路が張り巡らされている。

 入り口は、主なものが1つに小さなものが2,3か所あり、正面の通りに面している側にある主な入り口には、観音開きになる門がある家が多いが、それがない家もある。


 丈士と星凪の家は、その集落のちょうど真ん中にある家だった。

 その母屋はリフォームされていて、近代的な外観と瓦屋根を持つが、その内部は江戸時代の初期に建築されたものがそのまま使われているそうで、かなりの古民家と言ってよい建物だった。


 スーツケースを引きながら、丈士と星凪を先頭にその玄関先までたどり着いたものの、そこに人の気配はない。

 どうやら、留守にしているようだった。


「変だな……。ちゃんと、戻る時間は伝えておいたはずなのに」


 丈士はそういぶかしみながらも、自信が持っていたカギで玄関を開け、満月たちを中に導きいれる。

 何はともあれ、重い荷物をまず置いておきたかったからだ。


「とりあえず、裏の畑にいるかもだから、親どもを探してきますよ。よかったら、満月さんとゆかりちゃんはそのこの客間でくつろいでいてください」

「あっ、いえ、わたしも興味あるので行ってみたいのですが」

「満月先輩が行くなら、私も」


 荷物を置いた後丈士はそう言ったが、結局、全員で裏の畑を見に行くことになった。


 丈士の実家の周囲は寛永用水のおかげで水田を作ることができていたが、元々は高台にあるために水の確保が難しく、多くの畑も作られていた。

 丈士の実家の裏にあるのも、おそらくは丈士の先祖がこの土地に移り住んで真っ先に開墾かいこんされてからずっと大切に使われているもので、様々な作物が育てられている。


 季節は夏。

 様々な夏野菜が育てられている。


 トマトに、キュウリ、ナスにオクラにピーマン。

 青々とした葉を茂らせながら、瑞々しい新鮮な野菜がすくすくと育っている。


「わぁっ! すっごい! こんなに美味しそうなお野菜が、たっくさん! 」


 その光景に、料理が趣味である満月が興奮して、瞳をキラキラと輝かせる。


 そしてその声に気づき、かがんで草むしりをしていたらしい男女が立ちあがった。

 丈士と星凪の、両親だった。


 男性の方は、麦わら帽子に、作業着を身に着けた50歳で、農家と言ってイメージされるような感じとは少し違う、よく日焼けはしているが都会でサラリーマンでもしていそうな優男で、眼鏡をかけている。

 女性の方は、男性と同じく麦わら帽子を被った作業着姿で、中肉中背で、髪型はくるくるのパーマヘア、どっしりと肝のすわっていそうな風格を持つ。


 丈士と星凪の両親は満月とゆかりの姿を見て驚いた後、丈士の姿を見て嬉しそうな笑顔を見せる。


「丈士! よく帰って来たねぇ! 」

「おかえり、丈士」


 両親からの言葉に、丈士も嬉しそうに笑顔になって答える。


「ただいま。親父、おふくろ」


 そんな丈士の側らで、星凪が複雑そうな表情で、小さく「ただいま」と呟いていた。

 幽霊である星凪のことを、両親は認識することができないからだった。


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