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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第七章:「決着をつけるために」

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7-4:「旅路」

7-4:「旅路」


 休日のまだ朝早い時間だったが、高原駅のホームには、丈士たちと同じようにスーツケースを手にした人たちの姿が幾人も見られた。

 大学に通う学生たちが多く住む高原町からは、丈士と同じように夏休みを利用して実家に帰省しようとする学生たちが大勢いる。


 だが、その多くは単独でいたから、4人(他の人から見れば3人)で連れ立って、少しはしゃいだような様子の丈士たちは、少し浮いて見えたかもしれない。

 なんというか、修学旅行にでも行く学生たち、というような雰囲気なのだ。


 やがて電車が到着すると、丈士たちはそれに乗り込み、都心部へと向かった。

 高原町から数駅先にある都心部には大きなターミナル駅があり、そこから新幹線に乗りかえて丈士の実家へ、二枝川のある場所へと向かうのだ。

 新幹線は少々お値段がするし、丈士と星凪の故郷へはローカル線を乗り継いででも向かうことができるのだが、それだと時間がかかるし、電車の座席も長時間座り続けるには適していないので腰が痛くなってしまう。


 ターミナル駅では、そこを数える程度しか利用したことのない満月とゆかりが少しもたついたが、丈士の誘導で無事に新幹線への乗り換え口にたどり着くことができ、そこからホームにあがって、二階建ての新幹線の二階席に乗ることができた。

 さすがに指定席の切符を買えるほどお金に余裕はないので自由席だったが、都心にあるターミナル駅が新幹線の始発駅となっているため、4人は固まって席を取ることができた。


 手荷物はたなにあげ、スーツケースなどは足元に置く。

 少し窮屈きゅうくつではあったが、あまりにも大きな荷物は別料金となってしまうし、他の座席を占拠して他の乗客に迷惑をかけるわけにもいかない。


 満月とゆかりが並んで座り、丈士はその後ろ、車両の中央から後部よりの窓際の席に座る。

 二階建ての車両の二階なので、通常の新幹線より視点が高く、車窓からの景色も期待が持てる場所だった。


 4人で周囲の迷惑にならない程度におしゃべりしながら待っていると、しばらくして発車を予告するベルが鳴り、ほどなくして新幹線の扉が閉まった。

 すぐに新幹線は動き出し、徐々に加速をはじめていく。


 しばらくの間は都心部を走行するために騒音対策などのためにあまり新幹線は速度を出さずに走っていたが、都心部を抜け高速を出せる区間に入ると加速し、時速数百キロという速度で走り始める。


 新幹線にあまり乗った経験がないのか、満月が前の座席で無邪気にはしゃいでいる。

 少し子供っぽい、と思われるかもしれなかったが、こうやって自身の感情を素直に表現できるのは満月のいいところでもあった。

 そのおかげで、丈士も星凪もゆかりも、これから戦わなければならないたたり神のことを、強く意識せずに済むからだ。


 やがて4人は売店で買っておいたお菓子やお茶などを広げ、座席越しにおしゃべりをはじめた。

 満月ははしゃいだ様子で少し騒がしいくらいで、時折、行儀悪く座席に膝立ちになって丈士と星凪の方を振り返ったりしたが、幸い新幹線の車内は混雑しておらず、丈士たちの周囲の座席もあいていたので、他の乗客からの顰蹙ひんしゅくは買わずに済んだ。


 乗車してから1時間ほど経つと、新幹線は次の乗換駅に到着した。

 都心部から100キロメートル以上も移動してきたが、時速数百キロで走る新幹線にかかれば、その長さはあまり感じない。


 乗換駅から丈士の実家の最寄り駅までは、またローカル線に乗り継いで数十分ほどかかる距離にあるのだが、この乗換駅までくればもう、ほとんど丈士の故郷と言って良かった。

 丈士の実家がある場所からちょっと背伸びして遊びに行くと、大抵はこの乗換駅の周辺にある街だったし、丈士も星凪も、何度もここまで遊びに来た覚えがある。


 乗換駅はいくつもの路線が集まる大きな駅だったから、都心にあるような駅にもその大きさでは負けていない。

 だが、そこからのびている路線は、都心とその近郊を走る電車に比べれば利用客はずっと少なく、走っている電車も車両数の少ない短い編成のものばかりだった。


 おまけに、走っている本数も少ない。

 これから丈士たちが乗ることになるローカル線なんて、1時間に1本走っているだけだ。

 通勤の時間帯など、混雑する時間でも、1時間に2本走るだけな上に、ホームで待機していたのは2両編成の短い編成だった。


 しかも、都会の主力路線で走っていた車両の[お古]だから、塗装も少し色あせているし、設備も古めかしく、掃除や整備が行き届いていても年季を感じさせるものだ。

 もっとも、逆にそれが[いい]ということで、たまに鉄道ファンなどが乗りにきたり、写真に撮って行ったりすることもある。


 実際、都心に近い場所で育ったせいか、編成の長い電車しか見たことのない満月やゆかりには、この2両編成の電車はめずらしい様子だった。

 満月もゆかりも、興味深そうに電車の周囲をうろうろとし、前から横から後ろから、場合によっては連絡通路にまで登って上から、いろいろな角度から電車を観察していた。


 丈士と星凪にとって面白かったのは、ホームにいて、中に乗客がいるにも関わらず、一向に開く気配のない電車の扉に、満月とゆかりがきょとんとしていたことだった。


「古い電車だから、壊れちゃってるんでしょうか? 」

「さぁ……? 他の扉も全部しまっちゃっていますけど、中にお客さんは乗っているみたいですね? 」


 2人は丈士がボタンを押すまで気づかない様子だったが、その電車の扉は押しボタン式で、扉のわきにあるボタンを押さなければ開閉しないようになっている。


 少し地方に行けばこれは当たり前のことなのだが、都心部を走る電車のように利用客が多くはなく、また、ダイヤの関係上駅のホームで待機している時間が長くなりがちな電車では、扉を車掌が制御して一斉に開閉するのではなく、必要な時に乗客が自分で扉を開閉するようになっている。

 これは、すべての扉を開きっぱなしにしているとエアコンなどの電力消費が多くなるため、なるべく節約するための仕組みだった。


 もちろん、安全のために走行中に扉は開けないし、ホームについてから車掌が安全を確認し、開閉ボタンを機能させなければ、扉を乗客が開け閉めできないようになっている。


 休日とはいえガラガラで、まばらにしか乗客の姿がない電車に乗り込んでしばらくすると、車掌のアナウンスで電車の扉が一度全て開き、それから発車のベルが辺りに鳴り響いた。

 数秒して、ベルが鳴りやむと扉が閉まり、丈士たちを乗せた電車はモーターの音を響かせながらゆっくりと加速を開始する。


 電車はガタンゴトンとレールの継ぎ目を乗り越える際の音をくりかえし、古びた車両であるためかカーブなどのたびに車両をきしませながら、夏の青空の下を走り抜けていく。

 車窓から見える景色も、建物が少なく、逆に緑が多くなっていく。


 そして、しばらくして、丈士の故郷を流れる川、たたり神が潜んでいるはずの二枝川が見えてきた。


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