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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第六章「生きている」

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6-4:「気分転換」

6-4:「気分転換」


 たたり神の一件に関わるなという厳命を治正にされた後、丈士を待っていたのは、何気ない日常の時間だった。


 たたり神が去った高原町は、平穏なものだった。

 幽霊騒ぎもなく、ただ、当たり前のような日々が、それが当然であるかのように過ぎ去っていく。


 丈士は大学に通い、バイトに行き、タウンコート高原の201号室に帰る。

 それが本来あるべき日常だということは丈士もわかってはいたし、自身の実力ではたたり神には到底及ばないということを自覚させられている以上、治正にすべてを任せることは正しい選択だと、そう思っている。


 だが、どうにも、物足りないというか、もやもやするような日々だった。


 あの、太夫川のあし原で見つけた女性の遺体の姿が、頭の片隅にいつもちらついている。


 自分たちが、もしかすれば救えたかもしれない命。

 丈士たちだけでたたり神にはかなわないのだとしても、もっと早くその存在を見つけることができれば、何か、何かはできたはずなのだ。


 それに、丈士にとって、たたり神は妹の星凪の命を奪ったかたきだった。

 復讐は考えないと治正と約束はしているが、だからといって、完全に忘れ去ることもできない。


 3年前のあの日、星凪を失ったその瞬間の記憶を思い出した今となっては、あの出来事が丈士にとっての強力な[枷かせ]となっているのがわかる。


 自分は、妹を守ることができなかった。

 そして、自分1人だけ、生き残ってしまった。


 その悔しさと、罪悪感。

 それは、丈士の心の中にあり続ける重りのようなものになっている。


 そして何より、自分の力ではどうすることもできないことがあるという事実が、丈士の足をすくませる。


 その1歩を踏み出したところで、自分の望むものは、得られないかもしれない。

 自分はまた、取り返しのつかない失敗をしてしまうかもしれない。


 星凪を失った、守れなかった、喪失感、無力感。

 それは、丈士の心の奥底に刻みつけられた、消し去りようのない傷だった。


 だからこそ、丈士は、あの日の記憶を、星凪を失った記憶を忘れ去っていたのだ。

 ただ、目の前に、幽霊となった星凪がいてくれるという現実に安心し、甘えて、目と耳を閉じ、何もなかったかのように生きようとした。


 記憶を思い出し、たたり神という存在をはっきりと認識した今となっては、丈士は自分自身のそんな弱さに呆れ、そして、それが自分なのだと、情けなさとあきらめの入り混じったような気持になる。


 それは、どうすることもできない、不快な感情だった。


────────────────────────────────────────


「そうだ! 気分転換に、プールに遊びに行きませんか? 」


 相変わらず丈士の部屋に食事を作りに来てくれている高原稲荷神社の巫女、満月が、何だか楽しそうな笑顔を浮かべながらそう言ってくれたのは、長かった梅雨がようやく明けたころのことだった。


「えっと……、プール? 」

「はい! 実は、前にゆかりちゃんと話したことがあったんですけど、何駅か先にちょうど良さそうなレジャープールがあるんです! 」


 戸惑ったような顔をした丈士に、満月は嬉しそうにそう言って経緯を説明してくれた。


 たたり神についての調査をやめてから、丈士たちは4人で集まって太夫川の周辺で見回りをするようなことはなくなっていたが、満月は以前と変わらず、丈士と星凪の面倒を見続けている。

 たたり神のことはともかくとして、星凪が丈士の生命力をかてとして存在しているという問題の方への協力は継続する、ということらしかった。


 まだ、今のところ判明している唯一の方法、そして絶対に避けたいと思う方法以外の、もっと良い方法は見つかっていない。

 たたり神とのこと、自身の心のうちにあり続けている傷のこと、そして星凪とのこと、これらの問題で頭を悩ませ続けている丈士は、学業に身が入らず、単位をとれるかとれないかというぎりぎりのラインにいるような状態だった。


 本調子でないのは、星凪も一緒だった。

 星凪はたたり神と再び出会って、死の瞬間の記憶を鮮明に思い出して以来、すっかり大人しくなっている。


 散々こじらせていた、ヤンデレもすっかり消えたようになっていた。

 相変わらず丈士には執着しているし、片時もそばを離れようとはしないのだが、近づく者を手当たり次第に排除しようとしないし、満月のことも拒否せずに受け入れるようになっている。


 自分の命を奪ったたたり神が今も健在で、また、誰かが犠牲となるかもしれない。

 そのことが星凪にとっては大きな不安となっているし、それ以上に、自分が霊として現世に存在し続ける限り、兄である丈士の生命力を消耗しょうもうさせ続けるという事実が、かなりこたえているようだった。


 そんな丈士の様子を毎日見に来てくれていた満月は、ずっと、丈士の苦しそうな様子を心配してくれていたのだろう。

 梅雨も明けて日差しも強くなってきたし、プールに遊びに行くにはちょうどいいし、いい気分転換になるのに違いないと、満月はそんなふうに丈士と星凪のことを考えてくれたようだった。


(なにを、のんきに)


 だが、丈士はほんの一瞬だけ、そんな風に思ってしまった。

 そして、すぐにそんな気持ちを抱いた自分に、嫌気がさした。


 たたり神のことが気になっているのは満月だって同じはずだったし、彼女はたたり神との戦いでもっとも深刻な状態になっていた。

 それなのに満月は、丈士と星凪がより良い解決方法を見つけ出すことができるまでは、と、2人の世話を親身になって焼いてくれている。


 今、こうして丈士たちの前でニコニコと明るく笑っていて、こんな風に気分転換のお誘いをしてくれているのも、かなり無理をしているのに違いないのだ。


「いいですね。プール。久しぶりに、泳ぎたいです」


 丈士は精一杯の笑顔を作って見せると、満月の提案にうなずいた。


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