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妹でもヤンデレでも幽霊でも、別にいいよね? お兄ちゃん? ~暑い夏に、幽霊×ヤンデレで[ヒンヤリ]をお届けします!~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第六章「生きている」

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6-1:「生きている」

6-1:「生きている」


 目の前に、暗い、暗い、水底が広がっている。


 光もなく、音もなく、ただただ冷たい、水の底。


 そんな中を、いくつもの人影が漂っている。

 青白く変色し、腐敗して、水膨れした、無数の水死体だ。


 辺りは暗いのに、その水死体たちの唇が動くのが、やけにはっきりと見える。


 タスケテ。

 タスケテ。

 ドウシテ、ワタシガ、シナナキャイケナイノ?


 もはや声にならない声が、自身の頭に直接語りかけてくるような感覚さえする。


 不思議と、恐ろしさよりも、哀しみを覚える光景だった。

 彼女たちが命を失うのに至った経緯、その理由は、わからない。

 だが、少なくとも、彼女たちが本心から望んでそうなったわけではないことはわかる。


 やがて、水死体たちの言葉は、助けを求め、自らの運命の理不尽さをなげくものから、いざなうものへと変わって行った。


 オイデ。

 オイデ。

 アナタモ、オイデ。


 クライミナソコハトッテモシズカ。

 モウ、ナニモマヨワナクテイイ。

 コワガラナクテイイ。


 アナタモ、ミンナト、ヒトツニナレル。


 その言葉に、思わず、手をのばす。


 だが、丈士はそこで、自分の名を必死に叫んでいる誰かの声を聞いたような気がして、目を覚ました。


────────────────────────────────────────


 悪夢を、見ていた。

 丈士は、見慣れない天井を見上げ、頭痛を覚えながら、そう自覚していた。


(怖くはないけど……、嫌な夢だった)


 丈士は自身の額に右手をかざしながら、1度深く息を吸い込み、体の中に残っていた不快な感覚を押し出すように吐き出した。


 そこでふと、何者かの気配を感じ、丈士が視線をその方向へ向けると、そこには1匹の白いキツネが、お行儀よく座っていた。

 そのキツネの存在に驚いて丈士が数回まばたきをすると、丈士のことを感情の読めない視線で見つめていたキツネは、ぱたん、とその尻尾を振った。


「ご気分はいかがでしょうか。百桐様? 」


 美しい、澄んだ女性の声だ。

 丈士は周囲を見回し、そこがどこかの家の部屋で、自分はそこに敷かれた布団で眠っていたこと、そして他に誰もいないということを確認し、その声の主が目の前にいる白いキツネであることを理解した。


 キツネが人間の言葉をしゃべるなど、おとぎ話の中のことだ。

 だが、丈士は自身の目の前にいるキツネがしゃべったのだと、疑いはしなかった。


 この世界には、霊や、神がいて、自分の中にあった常識は通用しないと知っている。

 それに、目の前にいる白いキツネからは、不思議な、普通の動物のキツネとは違うような雰囲気が伝わってくる。


「私の名前は、ハク。羽倉家に、高原稲荷神社にお仕えしている、治正様がおつくりになられた式神でございます」


 丈士の疑問を察したのか、白いキツネ、式神のハクは丈士にそう名乗った。


「ここは、羽倉家の一室でございます。時刻は、卯のついでございます。……かのたたり神と戦ってより、およそ1日」


 丈士はハクが教えてくれたことをズキズキと痛む頭でどうにか理解し、それから、ガバッ、と上半身を起こした。


「せっ、星凪はッ!? 満月さんはッ!? 」

「ご安心くださいませ。お二方とも、ご無事でございます」


 突然の丈士の動きにも動じることなく、ハクはぱたんと尻尾を1度振ると、丈士の質問に答えてくれた。


「あまり、ご無理はなさいませぬよう。あなた様は元々、星凪様を霊として存在させるためにご自身の生命力をかてとしている身の上。たたり神との戦いにより、消耗してもおります。……それに、実を申しますと、隣室ではお嬢様がお休みになられておりますので、どうぞ、ご安静に」

「は、はい……、すみません」


 頭痛のする頭を押さえていた丈士にハクは冷静な口調で言い、丈士もそうした方が良さそうだと理解して、もう一度布団の上に横になった。


「それで……、その、ハクさん? 星凪と、満月さんはどんな具合ですか? ……それと、たたり神は、どうなったんですか? 」

「大事ございません。星凪様は先ほどまであなた様を看病しておられましたが、根をつめておいででしたので私が代わらせていただきました。お嬢様は、まだ目をお覚ましになられませんが、命に別状はございません。お休みになられていれば、いずれ目を覚ましてくださいます。……たたり神につきましては、残念ながら、のがしました」

「逃げた? 」

「左様です。私と、旦那様で追撃を行いましたが、太夫川の増水に阻まれ、また、たたり神の抵抗も激しく、あなた様や、お嬢様のこともございましたので、追撃を徹底することができませんでした」

「そ、そうですか……」


 丈士はハクの言葉に、悔しく思って強く奥歯を噛みしめた。


 自分は、死んだと思っていた。

 だが、生きていた。


 そして、あのたたり神も、生きている。


 それは、この事件が終わってなどいないということを意味していた。


※熊吉よりのお願い

お疲れ様です。熊吉です。


活動報告、近況ノートですでにお願いしていることですが、熊吉の体調不良により当面の間行進速度を落とさせていただきます。

更新は1日1話、更新時間は午前7時に固定とさせていただきます。


読者様には、ご迷惑をおかけいたしまして大変申し訳ありません。

もしよろしければ、今後も熊吉をよろしくお願いいたします。

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