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トビビト

作者: ダルシン

ダルシンです。


かってに奇談と名づけて、短い読み物を書いています。

 いつまでも現役でいたいですからね。

 トレーニングや食事の管理で、現役の期間を延ばすことができるようになったんです。

 最近ではいいサプリメントも出てますます調子がいいですよ。


 本当に素晴らしいことだと思います。

 私たちの世代では考えられなかった。

 活動期間は二十歳から二十六歳くらいまでと決まっていました。

 私もそうでした。私の兄弟も。もちろん親や祖父母も。

 それが今では三十歳になっても活躍できる人が増えて来ているのですから。


 私は反対です。

 昔から決められていたことです。

 その期間をのばすなど。

 これは二千年以上も続くこの国の伝統ですよ。

 それを崩していいはずがありませんよ。

 時代の変化。

 時代に合った考え方をするべきという意見はありますが、論点がずれていますよ。物事は時代によって変化していってしまうものです。だからこそなのです。だからこそ、伝統は時代に合わせることなく頑なに守られなければならないのです。


 反対する者は現状が把握できていないのです。活動期間の延長はもはや問題ではない。

 むしろ問題とすべきは新興勢力ですよ。

 内輪でもめている場合ではない。


 我々は歴史的瞬間に立ち会っているのです。

 二千年以上もの間ある特権階級の者だけが享受してきたものを、我々の手で手に入れることができる時代になったのです。

  

 選ばれた血筋。

 その中でも選ばれた者だけが手に入れることのできる正に神技だと信じられてきたことに、このような理屈が存在していようとは。

 つまり、この理屈に合ってさえすれば誰でも神技を手に入れることができる。

 だがそうなってしまうともはや神技ではない。彼らが怒るもの無理はないでしょう。


 科学が発達し海も森もすでに神が住まう土地ではなくなった。

 その上空まで。

 聖域がなくなってしまう。


 聖域なき改革を。

 権利は特権階級のものであってはならない。

 我々はそうやって発展してきた。

 権利は生まれながらにあるべきだ。

 空も。


「トビビト」

 トビビト家の血筋に生まれ、さらに成人である二十歳の時点で適合体格である身長150~155㎝、体重40㎏程度にある者。男女は問わない。

 その者はトビビトの秘儀を伝承することが許され、空を舞うことが神より許される。

 トビビトはトビ装束という腕が翼の形をした服を身に着け、高さ140mのトビ櫓から50mの距離の坂を駆け下りて助走をつけ空に飛び立つ。両腕の翼を羽ばたかせ、5㎞先のとまり櫓まで飛ぶ。

 二千年続く伝統の神事。


 三十年前重大な発表があった。

 科学者ボレニングによるトビビトと衛星メイラの関係についての研究結果である。

 トビビトと衛星メイラの関係については古来よりいわれていることで、トビビト家にはトビ暦というものが伝わっており、それに基づいて神事が行われる。そのトビ暦は衛星メイラの運行が示してあることは周知の事実だった。

 我らトビビトはメイラとの約束によって空を舞う力を得た、とトビビト家も公表している。

 科学者ボレニングの見解はこうだった。

 衛星メイラの引力が大気に変化をもたらし上昇気流を生み出す。トビ櫓の高さとトビビトの体型は上昇気流をとらえるに最適であり、彼らに浮力をもたらす。

 人智を超えた神技とされてきたものに理屈が存在したのだ。


 この説は特に現役世代のトビビトたちには歓迎された。

 二十歳でトビビトとなり二十六歳には引退する。

 古来よりそのように定められてきたことから無条件に従ってきた。

 それが衛星メイラの引力のおかげであり、浮力を失う体重変化と体力の低下が二十六歳からはじまるからだとわかれば、それを防いでやればいいという話になる。

 トレーニングや食事の管理で現役の期間を延ばすことができるようになった。

 最近ではいいサプリメントも出ている。

 ここ十年の間に、三十歳を超えても現役でいるトビビトが増えている。


 三十年前に発表された科学者ボレニングの理論は、トビビトの世界に新たな展開をみせるようになっていた。

 新興勢力の誕生である。

 トビビト家の血筋に生まれなくとも、ボレニングの理論を使って飛び方を習得する者たちが出現して来たのである。

 彼らは新たな尊敬の対象となった。

 新トビビト。

 彼らは科学の力で神の領域に達した存在として世間に受け入れられた。

 伝統にこだわらない斬新なフライングウェア。フライングテクニック。

 人々は争うようにその技術を習得しようと集まった。

 だが、それに伴う無理なダイエットや人体改造が横行。子供の意思を無視して我が子にそれをさせる親まで出現し逮捕される例多数。

 そして空の衝突事故。落下事故。

 ルールを無視した暴飛行。

 新しく開発された、より手軽に飛ぶことができるフライングウェアの販売がそれを加速させ。

 販売を禁止する裁判がおこされ。

 その訴えを取り下げるべきとの主張があり。

 裁判は何年も決着を見ない。


 トビビト家の「伝統の神事がレジャー化している」との見解。

 トビビト家こそ長年にわたり特権階級の利権を得て来た存在であるという抗議。

 

 伝統を守るべき。

 市民に開放されるべき。

 

 結論は出ず、宙に浮いたままである。


読んでくれてありがとう。

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