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3話 女神参入

 女神は困惑していた。

 この世界は、女神にとって箱庭も同然だった。定期的に魔王を出現させ、それを勇者一行に倒させる。それを繰り返すことで世界を安定させていた。

 始まりの村の勇者が近所の魔法使いと一緒に旅に出て、1つめの街で賢者を仲間に加える。ここまでは筋書き通りだった。

 それがどうしたことだろう。訳の分からないことが起きている。突然聖女が消えたり、バグが発生したり。

 女神といえど、全てを把握することはできない。

(聖女がいないと、勇者一行に何も伝えられませんね……)

 何故か聖女は存在していることになっている。しかし、聖女がいないことは女神が一番よく分かっていた。

「一体どうなっているんでしょうか……」

 増え続けるバグに頭を抱える。

「こうなったらー……下界に降りてしまいましょう」

 女神は化身を作った。それに憑依し、下界に降り立つ。


〈女神 レベル100

 HP 1/1  MP 1/1

 攻撃 1  防御 1

 スキル(オート) 不死 

 スキル(MP消費) なし〉


「へ?」

 あまりに酷いステータスに目を疑った。

 レベルは100が最高だ。それなのに、全部1。


「は?」

 勇者は目が点になった。突然目の前に女神が現れたからだ。

 導きの書に載っていない道を進んだ先は、ただの行き止まりだった。肩を落として引き返そうとしていたところで、女神の登場。

 他の2人も、突然人が現れたことに困惑していた。

 女神は気を取り直し、自信ありげな顔で言った。

「勇者一行よ、この私が来たからにはもう安心です」

「どこが⁉」

 勇者には女神のステータスが見えている。だからこそ、全く安心できない。

「なぜなら、私こそ女神だからです!」

「ほんま?」

 賢者が勇者に確認する。勇者は引きつった顔で頷いた。

 女神はステータス画面を見せようとしない。それどころか、「余計なことは言うな」と勇者に目で訴えている。

「2つめの街から変なことばかり起こるんです。原因と対処法を教えてください、女神様」

 賢者の言葉に、女神は微笑んで答える。

「バグが発生しているのです。あなたの言う変なことは、全てバグです。原因も対処法も全く分かりません」

「あかんやん……」

「とりあえず、このダンジョンを攻略してしまいましょう」

 女神はにっこり笑って言った。



 女神を加えた勇者一行はダンジョンの最奥にたどり着いた。ここにいるボスを倒すと、一際強い武器が手に入る。

「勇者はもっと真面目に戦えや」

 賢者が苦言を呈すると、勇者は

「女神が悪い。気になって集中できないんだ」

 責任転嫁した。

「なんや、ほれたん?」

「ちっがう! ステータスが!」

「は? ……女神様、ステータスを見せてくれませんか?」

 賢者が胡乱げな顔で要請した。女神はしぶしぶステータス画面を見せる。

 それを見た賢者と魔法使いは、口をぽかんと開けた。

「……それもバグ?」

 魔法使いが尋ねると、女神は首を縦にぶんぶんと振った。

「どうだか」

 勇者がからかうように言う。

「と、とにかくボスと戦いましょうー。その部屋に入るとボスが出て来るのでー」

 女神が言うので、3人はボス部屋の床を踏んだ。


 シン……


「……出ないが」

 魔法使いが呟いた。

「おかしいですねーまたバグですかね」

 言いながら、女神も部屋に入った。

 すると、床が抜けた。

「は?」

 4人は落ちていった。



「はっ、ここは⁉」

 いち早く目を覚ました勇者が辺りを見渡す。

 真っ暗な空間だ。ステータス画面の光だけが、ぼんやりと床を照らしている。

 HPは減っていない。痛くもないし、そういうものなのだろう。

 他の3人も気が付いたようだ。

「何ここ」

 賢者が呆然と呟いた。

「私も知りませんね……何なんでしょう」

 女神は不思議そうな顔をしている。

「いやいや、女神様は知っといてくださいよ」

「うーん……あ、思い出しました! ボーナスステージ……」

「ボーナスステージ⁉」

 勇者が食いついた。

「を、作ろうとしてやめた空間です。虚無の空間といったところでしょうか」

 3人は女神を呆れた顔で見た。

「……出る方法は」

 魔法使いが尋ねると、女神は

「無いですねー」

 にこやかに答えた。

「無いって⁉ 俺たちここに閉じ込められたまま⁉」

「ちょっと勇者、うるさい。脱出アイテム使えば良いだけちゃうん?」

「そんなの持ってない!」

「私が持っとうわ。使うで」

「うおーさすが賢者」


〈賢者はダンジョン脱出アイテムを使った〉

〈勇者一行は宿に戻った〉


「聞こうと思ってたんですけどー……」

 女神が唐突に話を切り出す。

「聖女はどうして消えちゃったんです?」

「これ……」

 勇者はログをさかのぼって見せた。

「そんな……」

 女神は愕然とした。

「本当に効果があるなんて……」

「どういうことだ?」

「ふざけて作ったスキルなんです。勇者がレベル100になることなんて、まず無いですし、習得したとしても絶対にMPが足りないという……発動不可能なはずのスキル。それが次元転送です」

「それがバグの原因ちゃうん」

 賢者が嘆息しながら口を挟んだ。

「それは無いですよー。バグの1つに違いありません」

「……で、これからどうすれば?」

 魔法使いが聞いた。

 ダンジョンでは、一応武器を獲得できた。最奥までの道中で、いくつかドロップしたのだ。よって、この街で武器を買う必要は無くなった。

「えっとですねー」

「次の街に行こう!」

 女神が言うよりも早く、勇者が言った。


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