2話 3つめの街
「残念ながら、誰も聖女になれん」
神官の言葉に、勇者一行はがっくりと肩を落とした。
ここは「3つめの街」。勇者一行は聖女候補を守りながらこの街へやって来た。襲ってくるモンスターたちの対処に、それはもう大変苦労したのだが、その甲斐もなく聖女を確保できなかったのである。
「じゃあ、また聖女候補を探して……」
言いかけた賢者を、神官が制した。
「このままでは、誰を連れてこようと聖女にはできんよ。聖女は存在しておるようだ。表示上はな」
そう言ってログを見せてくる。
〈神官は薬師を聖女にしようとした〉
〈失敗した! 聖女は既に存在しているようだ〉
「嘘だろ……消えたのに」
勇者が呟いた。
「それより、武器を買いに行ってはどうだね」
神官の提案に、
「よし、そうしよう」
勇者は乗った。
「そんなあっさり⁉」
賢者が言った。しかし勇者はさっさと神殿を出て行く。2人は仕方なくついて行った。
武器屋に来た3人は、目が点になった。
高い。高すぎる。
所持金すべて使っても、1人分しか買えない。
「……買うより、ダンジョンでドロップ狙った方が良くないか?」
魔法使いが言った。賢者は渋る。
「私もそれは思ったけど……でもなぁ、また何か起こったら嫌やしなぁ」
「何か起こっても、きっと魔法使いが何とかしてくれる!」
「いやいや、自分にそんな力は無い」
無責任なことを言う勇者、否定する魔法使い。そんな2人を交互に見て、
「ほんま、勇者はクズやなぁ」
賢者は呆れた声で呟いた。
「まあ、導きの書にもダンジョンに行くよう書いてあるし……しゃあない、行こか」
「ちょっと待って、回復薬を買い足したい」
勇者が言った。
「何言っとん? めっちゃ持っとったやん」
「無くなった」
「はぁ⁉」
賢者は意味が分からなかった。いくら何でもあの数をもう使い切ったなど有り得ない、と思ったのだ。
「おかしいよな、そんなに使ってないのに」
勇者も怪訝そうな顔をしている。
「……結構使ってたように見えたけど」
魔法使いが言ったが、
「いや、この街に着いた時にはまだ余裕あったんだ」
勇者は否定した。
「勝手にアイテム無くなったいうんか? どないせいっちゅうねん!」
賢者は頭を抱えた。
「……とりあえず、買いに行こう」
魔法使いが言った。
それから3人は街を歩き回った。回復薬を売っている店を探して。
「こちらではMP回復薬のみの販売となっています」
「MP回復薬ならあるよ。HP回復薬? さあ……」
「らっしゃい! MP回復薬がお買い得だよ! HP回復薬は品切れだ!」
……。
「なんでやねん!」
賢者は叫んだ。日は沈みかかり、影が長く伸びている。
「おかしいやろ! HP回復薬くらい売っとけ!」
結局、ダンジョンには明日行くことになった。
宿をとって食事をし、大浴場で疲れを癒すことにした。
賢者は溜息を吐いた。隣の男風呂からは、勇者と魔法使いの話し声が聞こえてくる。
「理不尽だよなー。俺、別に勇者になりたかったわけじゃ無いのに」
「分かる。逃げて怒られるのは勇者だからこそ、だもんな」
(私、勇者の気も知らんと……酷かったかな)
賢者は少し後悔してきた。
「もっとテキトーに暮らしたい!」
「それな」
「さっさと魔王倒してチヤホヤされてモテまくって、ぐうたら生活するんだ!」
「勇者のスキルか? ハーレム自動生成?」
そんなスキルは無い。
(やっぱり勇者はクズ!)
賢者は苛立ちに任せて水面を叩いた。バシャンと飛沫が顔にかかる。
(魔法使いも大概やけどな)
それでも魔法使いはモンスターを倒すのに欠かせない存在となっている。
現状、全く役に立っていないのは勇者だ。斬りかかれば自分のHPを減らし、使ったスキルはあらぬ方へ飛んでいく。
本当に聖女不在のまま旅を続けなければならないのか。女神に話を聞けないまま? 回復を薬に頼るしかないまま?
「あー、もー!」
バッシャァーン
賢者の声と水飛沫の音が聞こえ、勇者と魔法使いは顔を見合わせた。
「賢者が荒ぶってる……」
「結局HP回復薬は手に入らなかったしな……」
翌日。
勇者一行はダンジョンに入った。
「その先トラップあるで!」
賢者が注意を呼び掛ける。
導きの書にはダンジョンのマップも書いてある。それどころかトラップの場所まで載っているのだ。
「トラップの意味無いな」
勇者がケラケラ笑って言う。
「もともとトラップのあった遺跡か何かをダンジョン化したんちゃうん。知らんけど」
賢者が言った時、前方から鉄球が転がってきた。
「……え?」
次から次へと転がってくる。最初は小さいものだったが、だんだん大きくなり、
「うわわわわ」
勇者が慌てた声を上げた。今転がってきたのは腰くらいまであった。このままだと身長を超えるものも来るかもしれない。
「こっちだ。通路がある」
魔法使いが言った。
3人は通路に逃げ込み難を逃れた。
「また変なことが起こっとう……」
賢者は疲れたように話す。
「鉄球が転がってくるのは別のダンジョンのはずやねん。マップ上はこの通路も無いから、どこに繋がっとうかも分からへん」
「進むしか無いな!」
勇者が目を輝かせて言った。
「楽しそうやな?」
賢者が胡乱げに言うと、勇者は首を傾げた。
「だって、ダンジョンなのに道が全部分かってたらつまらないだろ? 魔法使いもそう思うよな?」
「……まあ」
魔法使いは微妙な表情を浮かべた。