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第8話 情報屋

 黄色い大きな屋根の建物はすぐに見つかった。


 看板には冒険者ギルドって書いてある。

 冒険者ギルドね、要するに情報屋はギルドの中にあるということか。

 俺は建物に入り、左側に向かい、情報屋を発見した。


「いらっしゃい」


 情報屋には、年老いた老人が一人いた。


 その老人の前には、赤く輝く水晶のような球が置かれている。

 まるで前世の占い屋みたいだな。


「ブロンドの娘を探している、居場所はわかるか?」


「ふむ、何故じゃ?今この街であの娘に関わるものなどほぼ誰もおらぬ、皆領主に目をつけられたくないからのぉ」


「金はある、理由を話さなければ教えてくれないのか?」


「当然じゃ、儂も家族の命は大切なんじゃ、もしそなたが領主に目をつけられたら、居場所を教えた儂も目をつけられる可能性があるじゃろう」


 やっぱり、そう簡単には教えてくれないか。


「助けたいと、思っているからだ」


「・・・可哀想じゃが、あの娘に関わるのはやめておくことじゃ、いくらそなたがまだ子供といえども、領主に目をつけられたらお終いじゃぞ、目をつけられたものは皆酷い目にあっておる、そなたも命や自身の平穏、それに自分の家族が大切なら、あの領主には関わらぬことじゃ」


 ものすごい言われようだな、さすがは豚だ。


「あの領主はな、儂の友を、その家族を、様々な方法で追い詰めていったんじゃ、周囲の人間を自身の権力で動かし、儂の友をイジメさせたり、友の家族の仕事を奪ったり、そして最終的にアヤツが罠にはめて殺したんじゃ!勿論、アヤツがやったという証拠は出てこなかった、しかし、儂は確信を持って言える、あのクズ領主がやったのじゃと」


 これ、俺が領主の息子って知ったら面白いことにならないかな?


「ああ、何故あの時儂は友の違和感に気づきながらも、魔導の探求を優先してしまったのじゃ、儂が少しでも関わっていれば、止められたやもしれぬのに、じゃから、そなたも儂の友のようになりたくなければ関わるべきではない、家族も危険に晒すことになる、しかし、あのクズは目をつけた相手と、その親類にしか構わぬ、故に、目をつけられさえしなければ安全なんじゃよ」


 長い。年寄りの話というのは何故こうも長いのか。

 まぁ、豚が悪く言われているのは気分がいい。

 やっぱり他人の悪口はいい清涼剤だ。

 だが、もういいだろう。


「俺が、その領主の息子でもか?」


「・・・何、じゃと?」


 情報屋のくせに、調べが甘い。


「俺は領主の息子、イヴィル・ハウントだ、だから問題はない」


 俺が名前を告げた瞬間、この老人の顔が面白いくらいに真っ青になった。

 まあ、領主の息子の前で、領主の悪口を言っていたんだ。

 豚がこの人間の発言を知れば、一家もろとも不敬罪で極刑だろうな。


「そ、そうでしたか、申し訳ありません、別に、私はあなたの父親を悪く言いたかったわけではないのですじゃ、ですから、どうか、どうか、このことはご領主様には内緒にしていただけると」


「何を言っている?」


 ここで少しタメを作ることが、相手をいい感じに勘違いさせるポイントだ。


 現にこの老人も、悪いように勘違いしたのか、かなり慌てている様子だ。


 楽しいなぁ。


 口封じをしようにも、俺はまだ6歳、子供だからこの老人は手も足も出せない。


 たぁぁのしぃぃぃなぁぁぁ!!


「わ、儂は、儂はどうなっても構わないんじゃ、どうせ老い先短い人生、ここで死んでも構わぬ、じゃが、息子夫婦や、孫には手を出さないでくだされ、儂は、儂はどうなってもいいのじゃ!」


 あー、もしこのじいさんの目の前で孫を・・・ふふ。

 まあ、これくらいでいいだろう。


「そんなこと、するわけないだろう?確かに、肉親を悪く言われるのは辛いことだが、そう言われるのは、お父様のとった行動の結果だ、おじいさんは何も悪くない」


「・・・すまぬ」


「でも、自分はどうなっても構わないなんて言わないでくれ、おじいさんには子供が、孫がいるんだろう?もしおじいさんがいなくなったら、家族は皆悲しむ、自分たちを守るために、おじいさんが死んだなんて知ってしまったら、なんて思うか想像できないか?本当に家族を大切に思うなら、自分を大切にして、ちゃんと生きて、天寿を全うしないとな」


「・・・ぅっ、すまぬ、すまぬなぁ、そうじゃな、生きねばならぬな、皆を悲しませるのは不本意じゃ、せめて儂の可愛い孫達が結婚するまでは、意地でも生き残ってみせるぞい」


 まぁ、これである程度俺の評判を上げられたんじゃないか?この人は情報屋だし、俺が善人だって勘違いして街に広めてくれるとありがたいんだが。


「良かった、じゃあな、元気で余生を満喫してくれ」


 俺は背を向けてゆっくりと歩き出した。


「・・・情報は、良いのか?」


「大切な家族のいるおじいさんを巻き込めないさ、すまなかったな、無理を言って、こうなったら街中を足で探すさ」


 こうやっていえば、罪悪感を刺激されて、この老人は自分から話してくれるはずだ。

 そのまま聞くより、気を遣っていることをアピールもできるし、この行動の方がいいだろう。


「・・・すまぬ」


 っておい!すまぬじゃねぇよ!話せよ!街中を足で探すなんてそんな面倒なことしたくないから情報屋を訪ねたんだろうが!

 ッチ、まあいい、せいぜい罪悪感で苦しんでくれ。


「気にするな」


 気にしろよ、気にしすぎて夜も眠れなくてすぐにポックリ逝ったっていいんだぞ?

 まあ、長生きすればするほど周りに迷惑をかけるのが老人ってものだから、その罪悪感を抱えながら生きてくれててもいいがな。


「・・・」


 悩んでる悩んでる。

 ここで俺が口止め料として情報を貰うことも可能だろう。

 しかし、そうやって情報を貰ったらこの老人は罪悪感から解放されてしまうだろうから、どっちでもいいか。


 第一俺が豚に話さなければこの老人のことなんて豚が知るはずはないんだから、ブロン子のことを言っても言わなくても俺の一存でこの老人の運命が決まる事には変わりないのに。

 話したって何の問題もないと思うんだがな。


 まあいいか、もしこれで俺がブロン子を見つけられなかったとしても、俺がブロン子を助けようと探した事実は残るんだ。


 勿論、見つけられるのが好感度や評判的には最善ではあるんだが。


 俺は情報屋を後にした。

 結局、老人は最後までブロン子の居場所を話さなかった。

 情報屋なのに、我が身可愛さに情報を渡さなかったことを後悔するといい。


 もしこれでブロン子が助からなかったら、あの老人は間違いなく後悔するだろう。


 老人は確か友人が豚に目をつけられて散々な目にあったって言っていた。

 その友人を救えなかったことを後悔しているくせに、同じように豚に目をつけられているブロン子を助けようと行動する俺に、情報を渡さない。


 それは、友人と同じような状況の人間を見捨てたってことと同義だ。

 今は我が身可愛さに、いや、自分の家族が大切で、自分の周りしか見えておらず、そのことに思い至っていないのかもしれないが、友人と同じ状況の人間を、あの時老人が俺に情報を伝えれば助けられたかもしれない、ということに気づいたとき、果たしてどう思うか。


 楽しみだな。本当に、フハハハハッ!


 はぁ、しかし、疲れた。

 今日はもう家に戻って休もう。


 また明日探せばいいか。

 手遅れになるかもしれないが、最低限はしたんだ。まあいいだろう。


 俺は家に帰った。

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