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第6話 聞き込み調査

 街に行くことをお父様に伝えておこう。


「お父様、俺は街に行ってきます」


「ん?そうか、珍しいな、なにをしに行くんだ?」


「少し街を歩いて見たい気分なんです」


「イヴィル、病み上がりだろう?大丈夫なのか?」


「大丈夫です」


「うーん、そうか、気をつけるんだぞ、いくらイヴィルがまだ6歳とはいえ、他国のゴミ共にはなんの関係もないんだからな」


「分かっていますよ」


「路地裏には入るなよ、この国の人間がいるところに必ずいるんだぞ、分かっているな?」


「はい」


「よし、ならいいぞ」


「では、行ってきます」


 俺は食堂を後にして、玄関に向かって歩き出した。






「あの!」


 玄関に向かう途中で、俺はエルミに呼び止められた。


「どうした?」


「その、本当に、本当に!ありがとうございました!」


 うぇぇ、やめてくれマジで、キッツイ。

 感謝するなら感謝するな。


「一度ならず二度までも!本当に、本当に、このご恩は一生忘れません!」


 え、二度?なに二度って?え、俺2回もエルミを助けたの?いつの間に?


 と、とりあえず、訳がわからないが、返事はしておこう。


「なに、俺は当然のことをしただけだ、気にするな」


 気にしろよ、全力で気にしろよ。


 俺はエルミの様子を伺って見た。

 キラキラ!

 エルミは目を輝かせながら俺を見ている。


 どうやら返しはこれで良かったらしい。

 やはり前世の記憶は当てにできるな。


 中々いい好感度なんじゃないか?

 好感度を稼ぐ行動を始めた初日にしては、うまく行き過ぎているくらいだろう。


「じゃあ、これからは気をつけて仕事をするんだぞ」


「はい!本当に、本当に!」


 その後の言葉を告げられる前に、俺はエルミに背を向けて玄関に向かって歩き出した。


 今でもだいぶ精神的に参ってきてるのに、これ以上感謝なんてされたくない。

 下手をすれば今日の街の活動にまで影響を及ぼす恐れもある。


「静寂に閉ざされし風、[ウィンドストップ]」


 だから、俺は魔法を発動して、エルミからの声が届かないようにした。

 声は空気を伝って行く振動だ。

 それは前世の知識で習ったから知っている。だから、空気を完全に止めて仕舞えば、音はこちらまで届かない。


「ーーーーーーーーーーー!」


 しかし、魔法の精度が完全ではなかったのか、もしくは他の原因かは知らないが、エルミの声が小さく聴こえてきた。


 ・・・いや、それは気のせいということにしておこう。俺の精神衛生上、よろしく無い言葉であることは、間違いないだろうからな。


 俺は片手を上げながら、玄関に向かって歩いて行った。


 これをこれから耐えていかなければならないのか。

 中々に厳しいものがあるな。

 はぁ、でも、俺には自己犠牲の道しか残されていない。


 だから、進んで行くしかないだろう。


「頑張るぞ」


 俺は、家を出た。






 前世の価値観では、領主の、貴族の息子で、まだ6歳の俺が一人で街に出るなんて考えられないだろう。

 ましてやここは日本ほど、治安の良い国という訳じゃない、普通なら護衛が付いてきてしかるべきだと思うはずだ。


 しかし、この国で、9歳以下の人間に限って言えば、ほぼ何の問題もない。


 何故なら、この国の法律で、9歳以下の人間は絶対に死なせてはならないという法律があるからだ。

 但し、死産は除く。


 俺はそれを家庭教師に教わった。

 この国では、9歳までは安全が保障されている。


 この国で、無事に産まれた99パーセントの子供が、大人になるまでは死ぬことはないと言えば、どれだけ国が子供の保護に力を入れているかが分かるだろうか。


 それに、この国の人間の殆どは、子供は絶対に守らなければならないという価値観を持っている。

 だから人通りが多いところでは襲われることなんてまずないし、もし俺が襲われることがあったら、その場にいる国民は全力で俺を守ってくれる。


 領主に恨みを持つ人間であっても、俺が子供という時点で、守らないという選択肢を選べる人間はほぼいないくらいに、子供は守るべきものという考え方が浸透している。


 例え今から俺がこの街の人間を30人ばかし殺したとしても、その30人に9歳以下の子供がいなければ、俺に罪は無い、殺された大人が悪い、と言うほど子供というのは保護されている。

 勿論、そんな奴は10歳になった時点で人知れず闇に葬られているという噂だが。


 つまり、俺が一人街を歩いても何の問題もないと言うわけだ。


 それで、今回俺が街に出た目的は、ブロンドの娘と呼ばれていた使用人を探すことだ。


 街は広い、中々に広い。

 この広い街を子供の足で、何の当てもなく一人の人間を探すのは苦労するだろう。


 下手をすれば1週間くらいかかるかもしれない。


 さて、どうするか。


 いや、そうか、今この街ではブロンドの娘と呼ばれていた使用人はかなり有名なはずだ。

 何故なら、豚が関わるなと言っていたからだ。


 だから、色々な人に聞いていけば、目撃情報は簡単に見つかると思う。


 よし、適当な人に聞きながら探すか。

 思ったよりは楽そうだな。

 あまり時間に余裕はないだろうから、今日中に見つけてしまいたい。


 時間をかければかけるほど、ブロンドの娘と呼ばれていた使用人が死んでいる可能性も高くなるだろうしな。


 俺は聞き込み調査を開始した。






 ・・・中々上手くいかないな。


 思ったより目撃情報が集まらない。

 何故だ?

 領主が関わるなというほどの人間だ。

 普通はかなり目立つはず、ここまで目撃情報が無いのはおかしく無いか?


 いや、偶々俺が聞いた人の中には目撃者がいなかっただけかも知れない。


 俺はもうしばらく、聞き込み調査を続けた。






「か、勘弁してくれ!そんなこと話せるわけないだろう!?」


 その後、何人かに聞いていたら、こんな事を言う男がいた。


「つまり、話せないと言うことは、知っているんだな?」


 俺がそう聞くと、男は顔を真っ青にして、慌てだした。


「し、知らねぇよ!俺は何も知らない!何も知らないんだ!」


 そこまで頑なに否定すると逆に怪しいんだが?

 これは絶対に何かを知っているな。


「何かを知っているなら教えて欲しい」


「答えられるはずないだろう!俺には女房も子供もいるんだ、領主様に目をつけられたらどうなっちまうか、お前もわかってるだろ!?」


 そう言って、男は俺から逃げるように走り去って行った。


 ・・・え?そんなに?そんなに豚が怖いのか?

 もしかして、みんな豚を怖がって、何も情報を教えてくれないのか?


 ああ、もしかして、目撃情報を話すことすら、ブロンドの娘と関わったと判断されそうで怖いから、誰も俺に教えてくれなかったのか。


 そこまで街の人間に怖がられているなんて、あの豚は何をやったんだろうな?

 まぁ、でもそうか、あの豚に目をつけられたら、ろくな目には合わないか。


 でも、そうなってくると、聞き込み調査はほぼ不可能になる。

 当てが外れた。

 今日中には見つかるくらい難易度は低いと思っていたんだが、思ったよりも見つけるのは大変そうだ。


 さて、どうするか。

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