第28話 黒髪の少女
23話で、エメラを助けた後、眠って、夢を見て、目が覚めたとき、まだその日の夜としていましたが、目が覚めたときが、もう次の日の朝という風に修正しました。
つまり今はエメラを助けた次の日の昼ごろです。
すみません。
俺は黒髪の少女の部屋にやってきた。
「よう」
「!?」
俺の存在に気付いた黒髪の少女は、またタンスの裏に隠れようとした。
が、その動きを止めて、こちらを振り返った。
「隠れなくていいのか?」
「・・・うん」
「そうか」
返事がある。タンスの裏に隠れる事もなくなった。怒っている様子もない。
やっぱり時間をおいて正解だったな。
さっきよりも態度が軟化している。
それに、俺に対して向けていた敵意の色が無くなっている。
邪操心蝕の効果も多少は出ているようだ。
とりあえず、邪操心蝕はもう切っておいてもいいかもしれないな。
イヴィラ、この少女への邪操心蝕を止めろ。
(分かったわ!)
「じゃあ、改めて、俺はイヴィルだ、君の名前は?」
「・・・」
・・・返事がない。名前を伝えたくないのだろうか?それとも迷っている?
しばらく待ってみるか。
・・・
「・・・」
「・・・」
部屋から一切の物音がしないまま、俺はしばらく黒髪の少女を見つめていた。
少女は、こちらを見ては目をそらし、またこちらを見ては目をそらしを繰り返している。
名前を教えてくれる気配はなさそうだ。
「そうか、なら、君をなんて呼べばいい?呼び名がないのは不便だからな、出来ればなんで呼べばいいかを教えて欲しい」
「・・・」
「俺が適当に呼び名を決めるわけにもいかないだろう?」
「・・・ううん」
「ん?俺が適当に決めていいのか?」
「・・・うん」
「そうか」
この少女、うん、か、ううん、しか言わないな。
しかし、名前、名前か、なんて名前がいいか。
適当に決めてもいいんだが、あんまりにあんまりな名前だと、流石に好感度が落ちるだろうな。
よし、真面目に考えよう。
アーク・オブ・フュートランとかどうだろうか?いや、ベリオグランダースもいいかもしれない。
いや、まて、ダークネス・ザ・ドラゴンとかもかっこよくていいよな?
(良くないわよ!何よ!そのかっこ悪い名前!そんなものを少女の名前にするんじゃないわよ!女の子なんだから、呼び名だとしても、もっと可愛い名前にしてあげなさいよ!)
ならイヴィラには何かいい名前の案でもあるのか?
(・・・え?・・・そ、そうね!なら私が世界一可愛い名前を考えてあげるわ!)
ほう、面白そうだ。
(ちょっと待ってなさい!・・・ピッキーン!閃いたわ!)
なんて名前だ?
(キャピキュラ・キラリ・キューキャルルなんてどうかしら!)
ほう、それが世界一可愛い名前だと?
(ええ!可愛い名前よね!)
そうかそうか可愛い名前か、却下だ。
(・・・え?)
俺はあくまでも名前の案をイヴィラに聞いただけだ、採用するかは聞いていない。
(不採用なの!?)
当然だろうが、こんなキラキラネーム、つけられるはずがないだろう、それに呼び名だぞ、もっと簡潔にしなければ面倒だろう、なぜ一々この少女を呼ぶときにキャピキュラ・キラリ・キューキャルルなどという痛い名前で呼ばなければならない
(痛い名前!?酷いわ!人がせっかく一生懸命考えた名前なのに!?)
なら、俺はこれからイヴィラのことをキャピキュラ・キラリ・キューキャルルと呼んでやろう。
(・・・え?)
世界一可愛い名前なのだろう?キャピキュラ・キラリ・キューキャルル、良かったな、キャピキュラ・キラリ・キューキャルル。
(や、やめて!)
これからお前は世界一可愛い名前で呼んでもらえるんだぞ、キャピキュラ・キラリ・キューキャルル、もっと喜んだらどうだ?キャピキュラ・キラリ・キューキャルル。
(悪かったわ!私が悪かったから、その名前で呼ばないでー!)
遠慮する必要はないぞ、キャピキュラ・キラリ・キューキャルル、何度でも呼んでやろう、キャピキュラ・キラリ・キューキャルル、世界一可愛い名前なのだろう?キャピキュラ・キラリ・キューキャルル?
(ごめんなさい!こんな名前をつけようとしていてごめんなさい!こんな名前で呼ばれるのは恥ずかしいわ!本当にごめんなさい!)
よし、いい材料を手に入れたぞ。これでしばらくはイヴィラ、いや、キャピキュラ・キラリ・キューキャルルで遊べるな。
(言い直さないで!イヴィラって呼んでよ!)
さて、そろそろ真面目に考えるか。
名前、ようはあだ名みたいなものだ。
なら、その人物の特徴や印象からつけるのがいいか。
この少女の特徴や印象か、物静か、返事しかしない、虐待されている少女、ボロ雑巾・・・うーん、どれもピンとこないな。
他には・・・黒か?黒髪で黒目だしな、うん。
なら、それに関連して、黒、ブラック、闇、ダーク、影、いや、少女だから、闇とか影は似合わないか?もう少し可愛げのある名前、なら、黒色の花の名前から取るか?
だが、花の名前なんて薔薇とかの有名なものくらいしかまともに覚えてないな。
薔薇?確か、薔薇には赤や青の他にも、黒薔薇、ブラックローズなんてなもあったよな?
うん。
「・・・よし、ローズ、でいいか?」
「・・・うん」
どうやら、大丈夫のようだ。
とりあえずこの少女はこれからローズと呼ぼう。
「よし、ローズ、よろしく」
「・・・うん」
それから、しばらくローズと会話をした。
と言っても、ローズは、うん、と、ううん、しか言わなかった為、俺から話しかけ続けることになったが。
何故ここに、というよりこの家にいるのかとか、豚に虐待のようなことをされていた理由とかは、まだ聞いていない。
今聞いたところで、どうせ話してくれないだろうからな。
自分から話してくれるか、もしくはある程度会話が成立、せめて、うん、と、ううん、以外の言葉も話してくれるようになってから聞くとしよう。
別に時間はいくらでもあるだろうしな。
だからとりあえず俺は会話をして、好感度を稼いだ。
だが、もう話題が尽き、話すことが無くなった。
一応返事はあるとはいえ、一方的に俺が話しているだけだから話が広がらない。
とりあえず今日はここまでか。
また話題が思い浮かんだり、暇なときにでも来るかな。
と、言っても、今は家庭教師がいない為、暇は有り余っているんだがな。
「じゃあ、またな」
「・・・うん」
俺は部屋を出た。
ローズの部屋を出た後、俺はギルドにある情報屋のもとに向かった。
とりあえず、エメラ・ブロンドを見つけたことを伝えようと思ったからだ。
情報屋のジジイの好感度を稼ぐのも悪いことじゃないだろうからな。
情報というのは大切だ、本当に大切だ。
知らないほうがいいこともあるが、知らなければ不味い事の方が圧倒的に多い。
特に俺には前世の記憶がある。
そのせいで価値観にズレが生じる事も多いだろう。
それは好感度を稼ぐ上では障害になりえる。
だから、情報通の人が知人にいるのは心強いだろう。
情報屋なんてやっていて、情報通じゃないなんて無いだろうしな。
情報屋はギルドの中にある。
その為、ギルドの中を通らなければならないのだが、ギルドの中に入ったとき、誰かの言い争う声が聞こえてきた。
「何故だ!この依頼とこの依頼は2つとも同じ場所だ、同時に行える!そっちの方が効率がいいだろう!」
「ですから、ギルドの規定で、一度に受けられる依頼の数は1つだけなのです」
「何故毎回毎回ギルドを往復しなければならない!時間の無駄だ!効率的では無い!まとめて依頼を受けさせてくれてもいいだろう!」
「ですから、ギルドの規定で、一度に受けられる依頼の数は1つだけなのです」
「非効率だ!」
頭から猫耳を生やした、見た目が15歳くらい女性が、おそらくギルドの職員であろう男性にくいかかっている。
「ですから、ギルドの規定で、一度に受けられる依頼の数は1つだけなのです」
「もういい!分かった、これだけでいい」
「かしこまりました、依頼の説明を」
「いらん!もう知っている!」
「では、ご武運を」
そう言って、猫耳の女性は、俺のいる入口の方に来た。
「全く、どいつもこいつも掟だ、規約だ、伝統だ、などと、非論理的で、非効率的すぎる、全くもって無駄だらけだ、何故そうまでのんびりしていられるのか、纏められるものは纏めて仕舞えば、ふん、ルールなどくだらん・・・」
猫耳の女性は俺の横を通り過ぎていった。
あれは、猫の獣人だな。
まあいいか、情報屋に行こう。




