別視点 2. エメラ・ブロンド3
私は、領主様の家を追い出されました。
いくら、教会に行かなくて済んだのは領主様のおかげとはいえ、流石に奴隷にはなりたくありませんでした。
それに、7歳だったあの時とは違って、今の私はもう10歳、立派な大人です。
だから、領主様に頼らなくても、教会に頼らなくても、生きていけると思っていました。
確かに、部屋から荷物を取る間も無くいきなり追い出されてたため、お金や持ち物が殆ど何も無く、街からも出られないとはいえ、この街で仕事を探せばいいだけだと、そう思ってしました。
私はサマオーウィスプ、たとえどんな仕事でも適応できる自信はありました。
ですが、若様を溺愛している領主様は、若様を害したと思っている私に対して、容赦がありませんでした。
街に出て、一番初めに感じたのは、怯えの視線でした。
私は、誰かに怯えられるような心当たりは無かったのですが、私が少し近づいただけで、街の人たちは一目散に私から離れていってしまいました。
訳がわからなかったです。
宿屋に行っても、食事処に行っても、屋台に行っても、服屋に行っても、商店に行っても、ギルドに行っても、情報屋に行っても、魔道具店に行っても、どこもかしこも、私を見ると皆怯え、一目散に逃げて行ってしまいました。
そして、途方に暮れていました。
街の人は、誰も私の相手をしてくれませんでした。
だから、こんな状態では、仕事を探すどころか、たとえお金を持っていたとしても、風呂屋や宿に泊まるどころか、食料の購入すらできなかったでしょう。
老人も子供も若者も男性も女性も全ての街の人が、私を見ると逃げてしまいます。
私は、今の状況がどうなっているのかが分からず、とても怖かったです。
なんで避けられるのか、私が何かしてしまったのか、考えても考えてもわかりませんでした。
ですが、私は中央の広場で答えを見つけました。
そこには、私の精密な似顔絵と、私と関わったものは処罰すると書かれた紙が張り出されていました。
それを見た時、街の人たちの反応に納得するのと同時に、どうしようもないことを悟りました。
私は街から出られません、なのに、街の人たちは領主様を恐れて誰も私と関わりません。
そのため、お金を稼ぐこともできず、仮にお金があったとしても、宿にも泊まれず、風呂にも入れず、そして何より買い物ができず、食事をとる事が出来ません。
サマオーウィスプは環境への適応能力が高い反面、かなりの食量をとならければ生きられない種族です。
現に、もうお腹が空いてきました。
だから、このまま何も食べなければ、私はすぐに餓死してしまいます。
どうしましょう?
領主様の奴隷になる?
確かに領主様は私を殺さないと行っていました。
しかし、若様を害したと領主様に思われている関係上、私はただでは済まないでしょう。
それに、領主様は、私を可愛がると言っていました。
可愛がるとは、そういう事でしょう。
それは、嫌です。だから、これは却下です。
では、なんとかこの街から出る方法を探す?
しかし、街の門には、門番が居るため、力のない私では無理やり突破することも出来ません。
誰かを頼ろうにも、誰も私には力を貸してくださらないでしょうし、門以外から街を抜けだす方法も知りません。
・・・どうしようもないです。
この街にいる間、私は食料を手に入れる事が出来ません。
水は、広場に噴水があるため、なんとかなります。トイレも公衆のトイレがあるのでそこを使えば大丈夫です。
風呂には入れませんが、最低限体を拭くくらいは出来るはずです。
布はありませんが、この服を少し裂いて使えばいいでしょう。
しかし、食料だけはどうにもなりません。
いえ、一応、方法がないわけではないのです。
こっそりと、もしくは堂々と、食料を盗んでしまえばいいのです。
たとえ私が食料を盗もうとも、相手は私に関わるわけにはいかないため、相手は泣き寝入りするしかないはずです。
しかし、流石にそこまで外道に堕ちたくはありません。
でも、それ以外で食料を手に入れる方法なんて、と、頭を悩ませていた私の目に、道端に生えている草が目に入りました。
・・・草を、食べる?
流石に草は食べたことはありませんが、草食の動物がいるということは知っています。
なら、私も草を食べられるのではないでしょうか?
ですが、流石にいきなり草を食べる勇気はありませんでした。
なので、私は他に何かこの現状を打開する方法を考え続けました。
そして、何も思い浮かばないまま、時間だけが過ぎ去って行き、夜になりました。
もう、空腹も限界でした。
だから私は、意を決して草を食べることにしました。
流石にそのまま毟って食べるのは怖かったので、草をある程度持って広場に行き、噴水の水で洗ってから食べました。
本当は、熱湯で茹でたかったのですが、公衆の施設に火を起こす場所は無いので、水洗いをして、そのまま食べました。
味は、酷いものでした。繊維か何かが硬く食べづらく、苦くて、何度も吐き出しそうになりながら無理やり喉の奥に押し込みました。
正直今まで食べてきた物の中で一番の不味さです。
それに、道端に生えている草を食べるというのは、生理的嫌悪感が湧いてきます。
でも、背に腹は変えられません。
私は我慢をして草を食べました。
そして、食べ終わったら、また草を毟りに行き、噴水の水で洗って食べるというのを繰り返しました。
噴水の周囲には草が生えていなかったので、往復は時間がかかりました。
しかしそのまま食べるのは、この草は、誰かに踏まれた汚いものじゃないかと考えてしまったり、虫がついていないかと、怖かったので時間がかかっても水で洗いました。
私は、無理やり草を食べ続けました。
そして、かなりの量、だいたい15キログラムほど草を食べた頃には、空腹を感じなくなっていました。
いつもなら、これほどの量は食べられなかったはずです。
おそらく、私の体が、草を食べて生きていけるよう変化するために、かなりのエネルギーを使用したため、食べても食べても空腹感が収まらず、15キロほど草を食べられたのでしょう。
正直、本当に辛かったです。
でも、これで、今日を生き残る事が出来ます。
そして、草を探して街を歩いている途中で、路地裏にボロボロの服が捨てられているのを発見しました。
流石にボロボロ過ぎますし、サイズも違いますので、服としては使えませんが、水で洗えば布としては使えると思うので、これで体をある程度拭こうと思います。
食事にかなり時間をかけてしまったため、今はもう深夜も深夜、あと2、3時間で恐らく日が昇るくらいなので、街は静かで、街灯もすでに全て消えています。
この時間ならもう起きている人もごく少数でしょう。ですから、日が出て、人々が行動を起こす前に、噴水で体を洗います。
街のど真ん中で裸になるのは抵抗がありますが、体を拭かない方が嫌ですし、私はもう暗闇に目が慣れているので、問題ありませんが、この暗さです、同じサマオーウィスプならともかく、他の夜目が聞く種族以外はもう何も見えないでしょう。
私は広場の噴水の水で、体を洗いました。
そして、路地裏で体を丸めて、眠りにつきました。
その次の日も、街から出る方法を探しながら、草を食べる生活を続けていました。
しかし、いくら広い街とはいえ、道端や荒地に生えている草の量にも限度があります。
この日で、私は街中の草をほとんど食べ尽くしてしまいました。
そのため、私は草についている花も食べました。
花は、少し甘いことも期待しましたが、花の蜜は水で洗うときにほぼ流れていたのか、それともあまり甘く無い蜜だったのかはわかりませんが、正直、草とあまり変わらなかったです。
街から出る方法も、未だに手掛かりすらつかめません。
試しに門のところに行っては見ましたが、門番さんに止められてしまいました。
その門番さんに助けを求めて見ましたが、領主様には逆らえないと、家族がいるから、私を助けることはできないと、申し訳なさそうに言われてしまいました。
そして、その次の日。
「・・・ぅ、ぐぅぅ、」
私は強烈な痛みとともに意識が覚醒しました。
「ふっ、ぐっ、ああ、ぅぅ」
お腹が、痛いです。
なんで、ここは?どこ?私の部屋じゃ無い?・・・ああ。
寝起きで頭が回っていませんでしたが、ゆっくりと現状を思い出してきました。
そして、この服痛の原因が、なんとなくわかってきました。
恐らく、昨日食べた草か、花に毒があったのか、それとも単に食あたりか、もしくは、虫でも食べてしまって、その虫がお腹の中で暴れているのか。
最後のは身体中に怖気が走りました。
それだけは違っていることを祈りました。
恐らく毒、私は毒草を知らずに食べたのです。間違いありません。絶対にそうです。
そう思わなければ気が狂いそうでした。
そして、あまりの痛みに、わたしはその場を動けませんでした。
地獄のような時間でした。
助けを求めようにも、この辺りは人通りがほとんどない場所ですし、それにたとえ人が通ったとしても、私を助けてくれる人はいないでしょう。
そのため、ずっと私はこの激痛を抱えたまま路地裏で転がっていました。
そして、辺りが暗くなってきた辺りで、腹痛が治まってきました。
恐らく、体が毒草の毒に慣れたのでしょう。
毒草です、私が食べたのは間違いなく毒草です。間違いありません。絶対に毒草です。毒草って言ったら毒草です。それ以外なんてありえません。
そう、私は自己暗示しました。
しかし、今度は強烈な空腹により、私にはもう動く力が残されていませんでした。
恐らく、毒草の毒に体が慣れるのに、かなりのエネルギーを使用してしまったために、もう動けなくなってしまったのでしょう。
・・・私は、ここで死ぬのですね。
嫌でした、こんな終わり方は。
なんで、こんなことになったのでしょうか?
私が、何かしたのでしょうか?
私は、何も悪いことはしていません。なのに、なんで。
・・・教会の、全ては教会のせいです。
教会が、お父さんとお母さんを殺さなければ。
お父さんとお母さんが生きていれば、私は領主様の家の使用人になることも、家を追い出されて街から出られなくなることも、草を食べて生活することも、毒で苦しむことも無かったのに。
私がこんな目にあっているのは、全て、教会の、教会のせいなのです。
そう思うと、心に憎悪が湧き上がってきます。
それでも、いくら憎悪を抱こうとも現状が良くなることはありません。
私は、ただ生きたかっただけなのに。
お父さんと、お母さんと、普通の生活が出来ていれば、それだけで良かったのに。
助けて、誰か、助けて。
「・・・た・・す・・・け・・・て・・・お・・なか・・す・・・い・・・た・・・た・・す・け・・て・・・い・・き・た・・・い・・・し・に・・・た・・く・な・・・い」
私は、助けを求めました。
でも、分かっています。私を助けてくれる人なんていないってことは。
私は、このまま死ぬしかないってことは。
そして、そして。
「大丈夫ですか?」
誰かが、私に声をかけてきました。




