別視点 2. エメラ・ブロンド 2 (過去)
私は現実を受け止め切れませんでした。
お父さんとお母さんが死んでしまったと言う、現実を。
だって、まだお父さんとお母さんと、仲直りできていないのです。
なのに、なのに、なんで、なんでお父さんと、お母さんが。
なんで、なんで、なんで・・・
それから、そのまま時間が経って、私が少し落ち着いたとき、何があったのかをトレネラさんが、詳しく話してくれました。
お父さんとお母さんとトレネラさんは、教会からの依頼を受け、魔の森に行ったそうです。
魔の森とは、この街の近くにある、危険な魔物が多く生息している森のことです。
教会からの依頼の内容は、近年、魔の森の魔物が活性化して来ており、最悪活性化した魔物がこの街を襲う可能性があるため、魔物の活性化を抑える聖なる粉を、魔の森の中心に撒いて欲しい、と言う依頼だったそうです。
しかし、協会から渡された粉は、聖なる粉ではなく、魔物をおびき寄せる粉でした。
そんな物を魔の森の中心で撒いてしまったため、3人は大量の魔物に囲まれてしまったそうです。
それで、生き残ったのは、トレネラさんだけで、2人は、お父さんとお母さんは、魔物に、殺されてしまったと。
トレネラさんは教会に抗議しに行ったそうです。
でも、教会はそんな依頼出していない、そんなことを言うなら証拠を持って来いと言い、トレネラさんはまともに相手にされず、門前払いされたそうです。
証拠になるはずの依頼書は、お父さんが持っていたため、どうしようもなかったと。
・・・つまり、教会が、教会の人間が、私のお父さんとお母さんを騙して、殺したんだと、トレネラさんは、そう言いました。
私は信じられませんでした。いくらトレネラさんの言葉でも、お父さんとお母さんが死んでしまったなんて信じたく、ありませんでした。
でも、トレネラさんは、ある2つの物を、私に差し出しました。
「これ、は?」
それは、よく見覚えのあるものでした。
でも、血に濡れたそれが何か分かってしまったら、折れてしまいそうで、認めてしまいそうで、それが嫌で私は、縋るように、トレネラさんに聞きました。
何かの間違いであることを祈りながら。
でも、そんな祈りは、通じませんでした。
「これは・・・クロウのネックレスと、フィーニスの髪留め、だ」
これは、お父さんが、お母さんから貰ったネックレスと、お母さんが、お父さんから貰ったと言って、いつも付けていた、髪留めでした。
2人とも、例えどんな時でも、これだけは絶対に肌身離さず持っているものでした。
それが、血に濡れてここにある・・・つまり、本当に、お父さんと、お母さんは。
「・・・なんで、なんで?なんで、お父さん、お母さん、死んじゃったの?嫌だよぅ、わ、私を、ひ、1人に、しないでよ、ぅ、ぅぇぇ、うぇぇぇぇーーーん!!いやだよー!お父さん!お母さん!ぅぅ、」
「・・・すま、ない、本当に、すまない」
「うぇぇぇぇーーーん!!」
私は泣きました、泣き続けました。泣いて泣いて泣いて泣いて、そして、涙が枯れるまで泣きました。
その時の私の胸の中は両親を失った悲しみや、絶望が駆け巡っていました。
そして、それと同時に、教会への憎悪が心から溢れてきました。
許せませんでした。お父さんとお母さんを奪った、教会が、絶対に。
その後、私はトレネラさんに、この街の偉い人のいる家に連れていかれました。
そこは、大きな、大きな家でした。
そこで私は、綺麗なお姉さんに、この街の偉い人、領主様の部屋に1人で案内されました。
綺麗なお姉さんは、緑色の髪に、長い耳をしていたので、多分エルフだと思います。
初めて本物のエルフを見ました。
そして、私は領主様の部屋に入ると、とても太っている人が1人いました。この人が領主様なんでしょう。
こんなにも大きい人、初めて見ました。大きくて、怖い顔をしていました。
その大きな領主様は、私にこう言いました。
「親を失った子供は、教会で保護される、だからお前は、これから教会で暮らすんだ」
私はまだ子供です。子供は守られるものであるため、両親のいなくなった子供というのは、教会に保護されるのが、一般的です。
でも、教会は、私のお父さんと、お母さんを奪った、絶対に許せない場所です。
だから、私は絶対に教会の世話になんてなりたくありませんでした。
領主様は、街の人から怖がられていました。
だから、私も怖いです。
それでも、お父さんとお母さんの仇である教会で暮らすなんて、耐えられなかった私は、領主様に言いました。
「嫌、です」
「なんだと?」
っ、怖いです、こんな偉い人に口答えするのは、とても怖かったです。
でも、私は勇気を出して言いました。
「はい、私からお父さんとお母さんを奪った、教会で暮らすくらいなら、死んだほうがマシです」
・・・
長く、沈黙の時間が続きました。
領主様は、じっと、私を見つめてきます。
怖いです、もしかしたら、私は領主様を怒らせてしまったかもしれないです。
でも、それでも、教会で暮らすよりは、死んだほうがマシというのは本心です。
だから、私は怖くても、目をそらしませんでした。
「・・・そうか、どうしても、教会で暮らしたくないと言うのなら、ここの使用人になっても良いぞ」
「え?」
「どうするかはお前が選べ、ここで使用人として働きながら生活するか、それとも教会で保護されるか」
「ここで!ここで働かせてください」
「ふっ、良いだろう、仕事の内容やお前の住む部屋は、お前を案内してきた使用人に聞け、以上だ、下がれ」
「は、はい、ありがとうございます」
そうして、私の使用人生活が始まりました。
「・・・ふ、ふはは、ふはははは!完璧だ、最高だ、計画通りだ!あいつは実に良い働きをしてくれた、だから、ちゃんとご褒美をやらないとな・・・絶望と言う名の、ご褒美をな、ふ、ふはは、ふはははは!」
使用人の仕事は、私を領主様の部屋に案内してくれた、綺麗なお姉さんが教えてくれました。
というより、今この家にいる使用人は、この綺麗なお姉さんだけだそうです。
丁度、私が使用人になる少し前に、もともとここで働いていた、もう1人の使用人が辞めてしまわれたそうなので、私が入る前は、この巨大な家をたった1人で管理していたそうです。
綺麗な先輩は、アーニャさんという名前です。
可愛い名前です。
そうアーニャ先輩に言ったら、コツンと頭を小突かれました。
えっと、つまり、2人でこの家の掃除やら、洗濯やら、庭の枝の剪定やらを行わなければならないそうです。
使用人は常に募集しているそうですが、あまり領主様の評判がよろしくないためか、全く応募がないそうです。
たまにあってもすぐに辞めてしまうんだとか。
だけど私は辞められません。
この仕事を辞めるということは、教会に行くしか無くなってしまうからです。
それだけは、嫌です。
だから、私は仕事を必死で覚えました。
仕事を始めた日は、色々覚えることがあり、アーニャ先輩に見てもらいながら作業をしたため、今日やるはずの仕事を全て終わらせることができませんでした。
それに、こんなに長い間動きっぱなしなんて初めての経験でしたから、かなり辛かったです。
アーニャ先輩に、もういいです、今日はお疲れ様でした、あとは私がやっておきますから、ごゆっくりお休みください、と言われ、その後食堂で食事を取った後、部屋に帰ったら直ぐに眠ってしまったほどでした。
だけど、次の日からは、ギリギリ日を跨ぐ前までに仕事が終わるようになりました。
それでも、やっぱり家は大きすぎるので、どうしても早朝から日を跨ぐギリギリまで仕事は続きます。
それでも、3日目にはもう慣れました。
アーニャ先輩は、飲み込みが早いと私を褒めてくれました。
そして、毎日きちんと仕事をこなしていると、アーニャ先輩は頭を撫でてくださいます。
サマオーウィスプは適応力は素晴らしいですが、しかし、同時にとても飽きやすい性格をしているため、一つのことを行い続ける事が出来ない種族と、アーニャ先輩は教えてくれました。
だから、多くのサマオーウィスプは、鍛錬や反復練習がとても嫌いで、冒険者などの常に刺激があり続ける、危険な仕事をとても好むらしいです。
でも、私は一つのことを行い続けることは苦ではありません。
寧ろ、何も考えずに同じ作業を行い続けることの方が好きです。
それに、危険は嫌いです。刺激なんて要らないです。
ただ私は、お父さんと、お母さんと、毎日を暮らしたかっただけなのに・・・
私は時折、部屋でお父さんとお母さんの形見の髪留めとネックレスを胸に抱いて、枕を濡らしていました。
この悲しみだけは、絶望感だけは、いつまでたっても慣れません。
この教会への怒りは、憎しみは、いつまでたっても、私の心に根付いたまま、忘れる事が出来ませんでした。
そうして、私は3年間の時を、領主様に濡れ衣で追い出されるまでは、この屋敷の使用人として過ごすことになりました。




