別視点 2.エメラ・ブロンド 1 (過去)
今日は私の特別な日です。
そう、今日は私の7歳の誕生日です。
いつもは夜遅くに帰ってくるお父さんとお母さんも、今日だけは早く帰って来てくれると、昨日約束してくれました。
だから、私は色々と準備をしました。
部屋を飾ったり、食材のお買い物をしたり、料理の下準備をしたり、紙にお父さんとお母さんへの感謝を綴った手紙を用意したり。
特に、食材のお買い物は大変でした。
私たちサマオーウィスプは、沢山食事をとるので、量が多すぎて、お店と家を3往復くらいしないといけなかったです。
それでも、今日は私の誕生日、お腹いっぱい食べたかったので、沢山買いました。
それらの準備が全て終わってからは、お父さんとお母さんが帰ってくるのを玄関で、今か今かとずっと待っていました。
その間、私はワクワクしていました。
いつ帰って来てくれるのか、もう直ぐかな?それとももうちょっとかな?と。
お父さんとお母さんが帰って来たら、まずは大きな声でおかえりって言おう。
そして、お母さんと一緒に料理を作って、みんなで料理を食べて、沢山お話しして、それから手紙を渡そうと。
最後に、いつもありがとうって、昨日はごめんなさいって、謝ろうと。
私は昨日、いつも遅くまで冒険者をしているお父さんとお母さんと、喧嘩をしました。
もっと早く帰って来てよ!1人じゃ寂しいよ!って。
本当は分かっています。お父さんもお母さんも悪くないってことは。
私はわがままでした。お父さんも、お母さんも、冒険者だから、帰るのが遅くなるのは仕方がないことなのに、私はわがままを言ってしまいました。
だから、今日しっかり謝ります。
そう思って、玄関でずっと、ずぅーっと、私は待ちました。
・・・待ち続けました。
「・・・早く帰ってくるって、言ったのに、ばかぁ」
夜になっても、お父さんとお母さんは帰って来ませんでした。
でも、今日は私は怒りません。お父さんもお母さんもきっと冒険者を頑張っているんです。
それに、今日は私の誕生日なんです。だから、いくら遅くなっても、私は笑顔でお父さんとお母さんを迎えたい。
そう思っていました。
でも、いつまでたっても、いつまでたっても、お父さんとお母さんは家に帰って来ませんでした。
そうして、待ち続けている間に、眠くなって来てしまって、いつの間にか私は玄関で眠ってしまいました。
「・・・ちゃん、エメラちゃん!大丈夫か!?」
誰かの、呼ぶ声がしました。
「・・・んっ、なにー?」
頭がぼーっとします、眠いです。
「良かった!身体は大丈夫か?」
「んー?うんー、何にもないよー?どうしたのー?」
「いや、玄関に倒れていたから、何かあったんじゃないかって思って、良かった!」
頭のぼーっとしたのが晴れていきます。
いつの間にか、私の目の前には、トレネラおじさんがいました。
「・・・あ、眠ってました、おはようございます、トレネラおじさん」
窓の外を見るとお日様が顔を出しています。
「あれ?どうしておじさんがいるんですか?お父さんとお母さんは?」
「っ、・・・それ、は、」
トレネラさんは、お父さんとお母さんの冒険者のパーティメンバーです。
トレネラさんがいるって事は、お父さんもお母さんもいるはずです。
でも、まだ家には帰って来ていません。
「あ!もしかして、昨日早く帰れなかったから、私が怒っているか確認して来てって言われたんですか?」
「・・・いや、」
「大丈夫です、怒っていません、私の誕生日は過ぎてしまいましたが、怒ってないです、お父さんとお母さんだって、冒険者が大変ですから」
「・・・たん、じょうび?」
「はい、昨日が私の7歳の誕生日です」
「き、のう、が、・・・そんな、俺は、俺はっ!」
「だから早くお父さんとお母さんに帰って来てほしいです」
「っ!」
「お食事も、食材をいっぱい、いーっぱい用意しました、私と、お父さんと、お母さんのお腹が、プックリ膨らんでしまうくらい、沢山用意したんです」
「・・・」
「だから、お母さんが帰って来たら、沢山の食材を一緒に料理して、みんなで沢山お話ししながら、お腹いっぱいになるまで食べるんです」
「・・・ぅ、」
「それで、最後に、昨日のことを謝ります、昨日、わがまま言ってごめんなさいって、お父さんとお母さんに、謝ります」
「ぅ、ぅぁ、」
「あ、今のはお父さんとお母さんには内緒にしていてください、私が自分の口で謝りたいですから」
「ぁ、ぁぁぁ、」
「それで、仲直りしたら、お父さんとお母さんの次の冒険まで時間いっぱい遊びます、何がいいかな?おままごとかな?鬼ごっこかな?お人形遊びかな?へへ、どれも楽しみです」
「ぐっ、ぐぅぅぅぁぁぁぁ」
「あ!トレネラおじさん、トレネラおじさんも、良かったら一緒に遊びませんか?」
「ぁ、ぁぁぁぁあああああああ!!!!!」
!?ど、どうしたのでしょうか?いきなり叫んで。
いつものトレネラおじさんとは、様子が違います。
トレネラおじさんは、明るくて優しくて、面白い人でした。
でも、今のトレネラおじさんは、悲痛で、悲しそうに、苦しそうに顔を歪めています。
「どうしたのですか?」
「・・・すまない」
「え?」
「すまない、すまないッ!すまないッッ!!!!俺の、俺のせいで、俺が、俺がっ・・・」
「お、落ち着いてください、あ、あの、大丈夫ですか?」
「俺が!・・・う、うぁ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
トレネラおじさんは、泣き出してしまいました。
私はどうすればいいかわからず、あわあわしていました。
そして、トレネラおじさんが泣いていると、私の目にも涙が溜まって来ました。
「う、うぇぇ、うぇぇーん!」
「ああああぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」
しばらく、私の泣き声と、トレネラおじさんの泣き声が、私の家に響き続けました。
「ご、ごめんな、みっともない姿を見せて」
「い、いいえ、私も泣きました、おあいこです」
「っ、本当に、ごめん、俺が泣く資格なんて、無いのに」
トレネラおじさんは、拳を強く握りしめています。
あ、強く握った拳から、血が出てしまっています。
「あ、あの、手から血が出てます、そんなに、強く握ったらだめです」
「っ、すまない、・・・俺は、俺は・・・本当に、良いのか?・・・よく無い、絶対にダメだ、ダメだ・・・でも、もう、俺は、引き返せない、すまない、すまない」
トレネラおじさんは何かを小声で呟いています。
もしかしたら、私の声が聞こえていないのかもしれません。
おじさんは手の力を緩めることなく、もう、手が血まみれですごい痛そうです。
だから私は、トレネラおじさんに気づいてもらえるように、トレネラおじさんの拳を手で包みました。
「トレネラおじさん、手が、血が、痛いです、えっと、あ、布、これ、使ってください」
「・・・エメラちゃん?」
「えっと、血が出たら、布を巻いて、ぎゅーってするんです、だから、これ、使ってください」
「・・・ぐっ、うぅぅ、・・・ああ、ありがとう、・・・本当に、良いのか?こんな良い子を、本当に、・・・でも、でも、俺は、俺は!」
「だ、大丈夫ですか?あ、お医者さん、お医者さん呼んで来ます、だから、じっとしててください」
「・・・いや、大丈夫だ、ありがとう、エメラちゃん」
「え、でも」
心配です。
きっと、トレネラおじさんは大丈夫じゃ無いはずです。
だって、トレネラおじさんはこんなにも苦しそうな顔をしていますから。
「エメラちゃん、落ち着いて、聞いてほしい」
でも、さっきまでのトレネラおじさんとは、いきなり雰囲気が変わってしまいました。
苦しそうな顔は変わらないですけど、それでも何かを決めたような、申し訳なさそうな、そんな顔をしています。
よくわかりません。
「なんですか?」
「落ち着いて、聞いてほしい、・・・クロウと、フィーニスは・・・エメラちゃんの、両親は・・・両親、は」
「はい?」
「っ、教会に、罠にはめられて、・・っっ、」
教会?罠?なんでしょうか?
トレネラおじさんは、とても言いづらそうにしています。
「っ、こ、・・・殺された」
「・・・え?」
・・・ころ、された?ころされた?殺された?
誰が?誰?だれ?
「エメラちゃんの、両親は、教会に罠に嵌められて、殺されたんだっ!」
・・・りょう、しん?
お、おとう、さん?おかあ、さん?
「・・・う、嘘、うそです!だって、だって!お父さんと、お母さんは強いんです!誰にも負けないって!最強だって、だから死ぬことはないって、お、お父さん、そう、言ってた!だから、うそです!」
「・・・」
「そ、それに、お母さんは、私を残して死なないって!約束してくれた!だから、お母さんは死んだりしません!」
「・・・」
「だから、だから!嘘、うそなの!うそ!」
「・・・すまない」
「・・・いや、いや、いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
私の心は、ぐちゃぐちゃになった。




