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第3話 自己犠牲とは

 自己犠牲、それは前世の俺も好きだった言葉だ。


 自身を顧みず、他者のために己が命を投げ出す行為、それに対して前世の俺は素晴らしく感銘を受けていた。


 そうでなければあの時、自分の命を失ってまで、咄嗟に他人を助けるなんてことはしなかっただろうから。


 そして、自己犠牲は今生の俺も好きだ。

 とは言っても、間違っても他人を助けるからとか、他人に対する献身の精神が素晴らしいからとか、そんな大層な理由じゃない。


 自己犠牲によっての死は、とても周りを傷つけるからだ。

 自己犠牲によって救われた人間は、不幸になるからだ。


 誰しも大切な人が、自分を庇ったせいで死んでしまったら、自分を責めるだろう。

 誰しも大切な人が、他人を庇ったせいで死んでしまったら、他人を責めるだろう。


 そして、修羅場になって、かつての仲間同士が殺しあう、なんてなったら実に最高だ!


 そう、自己犠牲の後には不幸しかない。

 だからこそ俺は自己犠牲が大好きだ。


 つまり、前世の俺も今生の俺も、同じ趣味を持っていると言うことになる。


 確かに見ているものは違う、だが結果は同じ。

 前世の価値観、俺の心、そのどちらもが、自己犠牲をして死にたがっている。


 ならば、するしかないだろう?


「俺には、自己犠牲の道しか残されていない」


 ならばやろう。


「セルフ・サクリファイスを」






 自己犠牲をして、他人を不幸にする場合、重要になって来るのが、他人との好感度だ。


 例えば、なんの面識もない人間が、自分を庇って死んだとしよう。

 例えば、本当に大っ嫌いな人間が、自分を庇って死んだとしよう。

 例えば、自分の一番大事な人間が、自分を庇って死んだとしよう。


 どれが心に一番深い傷を負うか。

 当然一番下だ。


 なんの面識もない人間が自分を庇って死んだとしても、ザマァ見ろ、と思って終わりだろう。

 そして、大っ嫌いな人間が自分を庇って死んだら、嬉しさのあまり狂喜乱舞するだろう。


 ・・・いや待て、落ち着こう。

 前世の価値観の方が、世間一般的な価値観に近いだろうから、そっちを基準に考えよう。


 なんの面識もない人間が自分を庇って死んだら、自分の不甲斐なさに打ちひしがれ、悲しみに暮れて、精神を病むだろう。

 そして、大嫌いな人間が自分を庇って死んだら、自分の不甲斐なさに打ちひしがれ、悲しみに暮れて、精神を病むだろう。


 ・・・ん?いやいや、落ち着け、一般論だ一般論。

 自己犠牲に憧れを抱いて、実際にやる狂った人間の価値観はどうでもいい、一般論だ。


 なんの面識もない人間が自分を庇って死んだら、・・・どうなるんだろう?

 そして、大嫌いな人間が自分を庇って死んだら、・・・どうなるんだろう?


 あー!めんどくさい!


 とりあえず、知らない奴や嫌いな奴が自分を庇って死ぬよりも、親しい人間が自分を庇って死んだ方が、心を深く傷つけるだろうと言うこと。

 つまり、より周りを不幸にするためには、出来るだけ好感度を稼がなければならないと言うことだ。


 親しくなれば、当然笑顔を向けてきたり、好意を寄せてくるだろう。


 それは正直言ってかなり辛い。本気で辛い。

 だけど、親しくなればなるほど、自己犠牲をした時、相手を不幸にできると考えれば、耐えられる気がする。

 いや、耐える。


 これは別に前世の価値観でも、否定的じゃない。


 他人と親しくなることはいいことだから。

 そして、自己犠牲は自身を顧みず他人を助ける素晴らしいものだと言う価値観だからだ。


 自分でも前世の俺の価値観はバカだと思う、本当に。


 例え自分にとって大切な人を助けたって、自分が死んでしまったら、自分の親しい人がなんて思うか。

 助けられた人がなんて思うか。


 そう、自己犠牲なんて、単なる自己満足だ。

 本当に他人のことを考えるのなら、他人を真の意味で、心まで助けたいと思うのなら、自分の安全は、決して度外視にしてはいけない。


 自分が他人を思うように、他人も自分を思うのだから。


 だからこそ、自己犠牲は自己満足だし、だからこそ、俺はそれが大好きだと言うことだ。


 つまり何が言いたいかと言うと、他人の好感度を稼ぐ、それを当面の目標の一つにする。


「よし」


 ならもう少し具体的に考えよう。


 好感度を稼ぐにはどうすればいいか。

 ただの6歳の俺だったら何も分からなかっただろう。


 だが、俺には前世の記憶がある。そして前世では友達も多かった。

 つまり、前世の記憶通りに行動すればいい、そうすれば他人に好かれる。


 あとは他人からくる感謝や笑顔、好意にさえ耐えられれば、俺が取る行動は、基本的にこれで問題ない。


 だが、もう一つ問題がある。それは、


「豚(お父様)をどうするか」


 俺の心としては豚には自由に動いてもらいたい。そうすればするだけ、不幸が生まれるからだ。


 だが、好感度稼ぎという点においてはこれは間違いなくマイナスになる。


 いくら俺が他人から好かれるような行動を取ろうとも、豚が自由に遊んでいると、当然、豚の身内である俺の評判や、好感度も落ちる。


 例え俺が清廉潔白であったとしても、豚が父親な時点で、


「あの豚の息子だから、きっと悪巧みしているに違いない」


 とか、


「あの豚の息子だから、息子も豚に違いない」


 となり、評判や好感度が落ちるだろう。

 それに、身内が不幸を生み出そうとしているなら止めるもの、という前世の価値観もある。


 だから、豚にはおとなしくして貰う必要がある。


「屠殺するか?」


 豚にはお似合いの末路だな。

 前世で、推理小説やミステリー漫画等を読んでいた記憶があるため、誰にもバレず、解体することも可能なはずだ。


 豚は俺を警戒していないからな。

 いくら前世と違い、魔法というものがあろうとも、警戒もしていない豚を解体することくらい可能だろう。


 ・・・それを前世の価値観が許容するかは別にして。


 だが、あれでも一応領主だ。

 その後がかなり面倒なことになることは目に見えている。


 だから豚にはそのまま領主でいて貰いたい。

 しかし豚が粗相をするたびに俺の好感度も下がるなら、正直やってられない。


「どうするか」


 ・・・今は解決策が浮かばない、とりあえず一旦おいておこう。


 あと、好感度を稼ぐ以外にやらなければならないことは。


「自身の強化だな」


 俺は強くならなければならない。

 強くなければ、自己犠牲は難しいと俺は考える。


 確かに弱くとも自己犠牲は行えるが、かなりの運が必要になるだろう。


 例えば誰かを庇う行為、これはよっぽどの運と状況がなければ、弱い人間が誰かを庇うなんてできない。


 だが強ければどうか?その難易度はかなり下がる。


 それに、強くなって、相手を道連れにする、自爆技でも開発すれば、あとは強い敵が出てくるだけで自己犠牲の完成だ。


 だから強くならなければならない。


 それに誰かを庇う行為の場合、その後、庇った人間が生きてくれるかは微妙なところになる。

 庇うだけならまだ敵は生きていることになるから。


 俺が庇って死んだ人間が、すぐに死ぬなんて意味がない。できるだけ長く生きて欲しい(苦しんで欲しい)に決まってる。


 だから自爆技はいい。相手を道連れに出来るから。


 だが、自爆技の欠点としては、他人に背負わせる傷が浅くなるかもしれないことだ。


 例え、相手にかなり追い詰められて、絶体絶命のピンチという状況になって、相手を倒す方法が俺の自爆技しかなかったとしても、アイツが勝手に自爆していっただけ、俺たちのせいじゃない、なんて考えるかもしれない。


 そうなって仕舞えば、数週間程度で忘れられるだろう。


 だから自分のせいで大切な人が死んでしまった、という状況で、その人間が長く生きることがベストなのだが。


「難しい」


 あちらを立てればこちらが立たず。

 だが、なんにしても力は必要だ。力が無ければ選択肢も何もないだろうから。


 だから自分を鍛えることは大事だ。


 そしてもう一つ、これは好感度を稼ぐこと関連だが、避けては通れないことがある。


 それは豚にブロンドの娘と呼ばれていたあの使用人のことだ。


 今冷静になって考えてみると、あの使用人がこの家に戻ってくる確率はかなり低いと思う。


 よっぽど自分の命が大切でもない限り、最後まで街を出る方法を探すか、死を選ぶと思う。

 だってここに戻ってきてもあの豚の奴隷になるんだ。そりゃあ死を選ぶだろう。


 そうなってくるとだ、一人の使用人を死に追いやった一因か、一人の使用人をクビにした一因を持つことになる。


 事実なんてどうねじ曲がって広がるかは分からないから、もっと悪い噂になって広まることも考えられるだろう。


 そうなると、ただでさえ苦痛な好感度稼ぎという作業が、地獄のようになるだろう。


 だから、穏便に連れ戻さなければならない。

 もちろん、奴隷にするなんてありえない。


 奴隷を持っている者に好意を抱くやつがいるか?

 いるとしたら俺くらいだろう。


「よし、大体の目標は固まったな」


 1、好感度稼ぎ


 2、強くなる


 3、使用人を連れ戻す


 この中で緊急性があり、時間制限のあるものは、3だ。

 最悪、もう死んでいる可能性もある。


 もしそうなってしまっていても、何も行動しないよりは、行動を起こしておいた方が何かと言い逃れが効く。

 だから、まずは使用人を連れ戻すための行動をしよう。


「よし、じゃあまずは」


 グゥゥ、


 ああ、起きてからまだ水しか飲んでなかったか。

 自覚したら、急にお腹が空いてきた。

 何をおいても、まずは腹ごしらえが先か、よし。


「行くか」


 俺は部屋を出て、食堂に向かった。

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