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第23話 夢

「おい、シェード、お前水買ってこいよ」


「俺は使いっ走りではない」


「俺様の命令が聞けないのか!?お父様に言いつけるぞ!」


「勝手にしろ、俺の任務は貴様の護衛、水の購入は、護衛の管轄外だ」


「うるさい!俺様は今喉が渇いて死にそうなんだ!餓死したらどうしてくれるんだ!?死にそうな俺を助けるのが、貴様の仕事だろうが!このドブネズミが!」


 よく俺にここまでの口が叩けるものだ。


「俺の任務は外敵から貴様の身を守ることだ、餓死は知らん、勝手に死ね」


「貴様!この俺様によくもそこまでの口を叩いたな!絶対にお父様に言いつけてやる!」


 嫌なことがあれば、すぐお父様に言いつける、か、まさに虎の威を借る狐だな。


 これが時期国王だと考えると、この国の未来は暗いだろう、まだ6歳の王女の方が賢い。


「ちっ、まあいい!水は他のやつに持って来させる!だからシェード!貴様は今すぐイエローを殺せ!」


「俺は護衛だと言ったはずだ」


「お前は暗殺者でもあるんだろう!お父様から聞いているぞ!だから早く殺してこい!」


 短期で横暴、短慮で無能、王の器なんてかけらもない。

 どうせまた、俺よりテストの点数が高かったからだの、実技で上回られたからだの、そんなことを言うのだろう。


「今日、あいつに決闘でズルをされたんだ!本当なら俺は間違いなく勝っていたはずだ!なのにあいつがズルをしたから!」


「負けたのか?」


「負けてない!俺は負けてない!あいつがズルをしたんだ!あんなの無効試合だ!」


「どんなズルをされたんだ?」


「そんなの知るか!俺が負けるはずがないんだ!だからあいつはズルをしたんだ!」


 自分の都合の悪いことが起こったら、相手がズルをしたと言いがかりをつけるか。


 ガキだな、もう11歳になるのに、心が何の成長もしていない。

 まるで子供の癇癪だ。


「だから殺せ!」


「付き合ってられんな」


 俺は踵を返して立ち去った。


「おい!待てよ!ふざけるな!どいつもこいつも!」







「はぁ、ガキの子守が仕事とは、国王め、面倒なことを押し付けやがって」


 とても残念なことに、あのバカ王子を国王は溺愛している。

 だから、バカ王子の学園での護衛に俺を使っているのだろう。


 王国の最大戦力である俺をな。


 全くもって愚かしい。あんな馬鹿を狙うバカなんてどこにもいないと言うのに。


 せっかくの馬鹿王子だ、他国からしたら、殺すより生かしておいて、あのバカを王国の王にした方が、王国に付け入る隙ができるだろうからな。


 バカ王子を殺して、賢者が王国の王にでもなったら、目も当てられないと考えていても不思議じゃない。


 いや、真に王国を思う王国民は狙ってくるかもしれないか。


 だが、俺を護衛につけるのは間違いなく間違っている。

 戦力の無駄遣いだ。


「はぁ」


 バカ王子が通う学園は王国の隣の国にあるため、護衛の俺も必然的に国に帰れなくなった。


 そのせいで、もうしばらく娘たちと会っていない。


 一応、娘たちももう大人だ、親の庇護からは外れて、自分の力で生きていかなければならないが、それでも心配なもの心配だ。


「エルミとライカは、大丈夫だろうか」


 ビシッ


「ん?」


 懐から、何かが割れるような音がした。


「何だ?」


 今、俺が持っているものはほぼ何もない。

 いつも肌身離さず持ち歩いている形見と、武器くらいだ。


 ・・・形見?


「まさか!?」


 俺は慌てて懐から形見を取り出した。


「封印が解かれている!?」


 俺は慌てて、中身を取り出した。


 中には手紙が入っていた。


 シェードへ、


 この手紙を読んでいる頃には、娘たちは、エルミとライカは、





 死んでいるでしょう。


「!?な、なんだと!?・・・う、嘘だ!」


 嘘じゃありません。


 はっきりと見えたわけではありませんでした。

 ですが、エルミは地下で拷問をされ、ライカはエルミの前で女の尊厳を奪われながら、殺される未来が見えました。


「そ、そんな、・・・誰だ、誰だぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!!!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!許さない許さない許さない許さない許さない!!!!!!!誰だぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!!!」


 私たちの娘達を殺したのは、ハウント家の人間です。


「っっっっっ!?!?・・・ぐっ、何故、何故だ、何故だぁぁぁぁ!!!くそ!クソァがぁぁぁぁ!!!俺は!俺は自分の娘達の仇すら取れないのか!!!」


 私は、無力です、この未来が見えていながら、何も出来ないなんて、このことを伝えられるのが、娘達が死んだ後だなんて。


 私が、せめてアナタにだけでも伝えられたら。

 アナタが必ず娘を守ってくれたはずなのに。


 ごめんなさい、アナタ。

 一人で残してしまって、本当に、ごめんなさい。


「っっ、く、ぅぅ、何故だ、何故、なんだ」


 娘達には平和に生きて欲しかった。

 私たち、クライ家の、暗い未来しか見えない宿命から逃れて欲しかった。


 暗い未来を変えて欲しかった。


 でも、ダメでした。

 私たちは、結局、暗い未来を見ながら、何も出来ずに、死ぬしかないんです。


 ごめんなさい、ごめんなさい。


 私は、ここで一人、誰かが、この暗い未来を変えてくれることを祈ることしかできません。


 私の死は変わらなくてもいいのです。


 ですから、どうか、エルミとライカの暗い未来を、変えてください。

  サトリ・クライより


「・・・なんで、なんで、お前達だけが不幸になるんだ、何か悪いことをしたのか!?何もしてないだろう!何故だ!何故こんなにも世界は不平等なんだ!あ、ああああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 ・・・嘆いていたって仕方ない。


 そうだ、もしかしたら、サトリが見た未来から変わっているかもしれない!

 もしかしたら、娘達はまだ元気に暮らしているかもしれない!


「だから、帰らなきゃ、今すぐに、帰らなきゃ」


 俺は、全速力で、国に帰った。

 仕事のことなんて、頭の片隅にすら残っていなかった。






 ・・・本当は、分かっている。

 もう、娘達が死んでいるだろうということは。

 だって、俺は隣国にいた。娘達の危機に、何も出来なかった。何もしてやれなかった。

 なのに、未来が変わっているなんて、ないだろう。


 それに、サトリの未来予知は、外れたことがない。


 だけど、それでも認められなかった。


 サトリを失い、せめて娘達だけは必ず守ろうと誓ったのに、その娘達も死んでしまっただなんて。


 俺は、全力で国に戻った。

 短距離転移魔法を超連続行使し、魔力が尽きても、自らの生命力を魔力に無理やり変換し、国に戻った。


 俺の体なんてどうでもよかった。

 壊れたっていい、死んだって構わない。だから早く、国へ、王国へ、娘達の元へ。


 そして、国に帰った俺が見たのは。


 娘達の、死体だった。


「・・・あ、ああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」


 心が、折れた音が聞こえた。






 俺は、無意識に町の中をさまよっていた。


 俺は、無力だ、俺は、無力だ、俺は、無力だ、俺は、無力だ、俺は、無力だ、俺は、無力だ、俺は、無力だ、俺は、無力だ、俺は、無力だ、俺は、無力だ、俺は、無力だ、俺は、無力だ、俺は、無力だ、俺は、無力だ、俺は、無力だ、俺は、無力だ、俺は、無力だ、俺は、無力だ、俺は、無力だ、俺は、無力だ、俺は、無力だ、俺は、無力だ、俺は、無力だ、俺は、無力だ。


 ただ、そのことだけが頭の中にあった。


 そう、俺には、何も出来ない。

 この誓約に縛られた体では、国王の命令がなければ、この国の人は殺せない。

 俺は、娘達の仇すら、討ってやれないんだ。


 俺は、無力だ。


 俺は俺がこの国最強だと思っていた。


 だが、俺は何も守れなかった。


 俺は、無力だ。


 力があっても、何も守れない。


 俺は、無力だ。


「俺は、・・・無力だ」


「・・・た・・す・・・け・・・て」


「・・・」


 目の前に、人が転がっている。


「・・・お・・なか・・す・・・い・・・た・・・た・・す・け・・て」


「・・・悪いが、他人に構っている余裕はない」


「・・・い・・き・た・・・い・・・し・に・・・た・・く・な・・・い」


 俺は、目の前に転がっている人を見捨てた。

 他人を助けてやれる心の余裕なんて、俺にはなかった。






 そうして、街をさまよっていると、とある絵が俺の目にはあった。


「・・・?これは、さっきの、」


 路地裏で転がっていた人の絵が、俺の目の前にあった。


 この、ブロンドの娘に関わった者は、ジョンヒアドー・ハウントの名において処罰する。


「・・・そう、か」


 あの、路地裏で転がっていた人は、領主のせいで死にかけていたのか。


 領主、娘達の仇。


 許さない、娘を殺しておいてのうのうと生きているなんて、許せるはずがない!

 この手で地獄を見せてやりたい!でも、俺は誓約のせいで殺せない。


「俺は、無力だ」


 俺は、殺せない、俺は、仇を討てない。俺は、俺は、俺は!


「・・・俺、は?」


 俺は、王国民を殺せない。俺は・・・俺は?


 ・・・そうだ、俺が殺せないなら、俺じゃない奴が、領主を殺せばいい。


 俺が殺さなくたっていい、ここの領主を、殺してくれるなら、誰だって構わない!

 だが、領主を殺すということは、王国に反旗を翻すということだ。

 国に反逆するような奴は、そうそういないだろう。


 なら、いないなら俺が育てればいい。

 この俺の暗殺術を、俺の全てをそいつに注いで、領主を殺して貰えばいい。


 そうだ、いるじゃないか、領主に恨みを持っていそうな奴が。

 いたじゃないか、領主のせいで、路地裏で転がっていた奴が。


「そうだ、それしかない、俺が復讐を果たすには、それしかないんだ」






「食え」


「・・・え」


 俺は路地裏に倒れている女の前に、大量の水と食料を置いた。


「いいから食え」


「・・・は・・い」


 バクバクバクバクバクバク!

 路地裏に転がっていた女は、俺が持ってきた食料を凄い勢いで全て平らげた。


 もしかしたら、こいつはサマオーウィスプか?


 サマオーウィスプ、通常の場合、見た目だけなら人間となんら変わりはしないが、この量の食料を食べきったこと、死にかけていたはずが、食事をしただけでだいぶ回復しているのを見る限り間違いないだろう。


「ふ、」


 サマオーウィスプはかなり暗殺者向きだ。

 幸先がいい。


「おい、貴様は先程、何故生を望んだ?」


「・・・それは、」


「ただ生きたいからか?何か成し遂げたいことがあるからか?答えろ」


「・・・復讐の、ため、です」


 っ!ふ、ふふふ、なんて事だ、俺と同じ復讐を望んでいる!

 いいぞ!これはまさに、天がこの女に俺の復讐をさせるように仕向けているかのようではないか!


「なら、力がいるだろう?俺の手を取れ」


「え?」


「俺が、貴様に力をくれてやる、必ず復讐を果たせる、力をな」


「・・・はい」


 ふ、ふふふ!待っていろ!領主よ!俺の全てをこの女に教え、貴様を殺す刃とする!


「貴様の名前は?」


「エメラ・ブロンドです」






 ん・・・


(あ、起きた?)


 ここは、部屋か、そうか、昨日は疲れすぎて、ベッドに倒れこんですぐ眠ったのか。


(そうよ)


窓を見ると、朝日が差し込んできている。


(それにしても、さっきの夢は何かしらね?)


 夢?なんの話だ?


(え?あなたが見ていた夢の話よ?)


 夢?・・・覚えていない。


(あー、そうよね、夢って覚えていないものよね、まあいいわ)


 そうか、まあいい、腹が減った、飯を食いにいくか。

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