第22話 追撃の大ダメージ
「すまなかった、こんな目に合わせてしまって」
俺は、頭を下げた。
っっっ!心が張り裂けそうになる。
何故俺が謝らなければならない!何故俺が謝らなければならない!何故俺が謝らなければならない!
黙れ!黙れ!黙れ!
今は、今だけは謝らなければならない!
(なに、これ、心が、ううっ!)
「な、わ、若様!?」
「あの時、俺が倒れなければ、君をここまで苦しめることはなかった、本当に、すまなかった」
言い切ったぞ。
俺の心が悲鳴をあげている。
だが、我慢だ、我慢だ。
今後の為に、好感度を高めて、自己犠牲で、より傷つける為だ。
「あ、頭を上げてください!若様はなにも悪くありません!悪いのは・・・ですから」
流石にここで豚を悪く言うことはできないか。
俺は顔を上げた。
だが、まだ謝ることはやめない、ここでしっかり謝らことができるかは、今後も重要になってくるはずだ。
「俺は、取り返しのつかないことをするところだった、あと少しでも遅かったら、君はもう・・・本当に、すまなかった」
「っ、」
っ、いい顔だ。先ほどの恐怖を思い出しているんだろう。
だが、ここで悦に浸る訳にはいかない。
表に出すな、抑えろ。
「大丈夫だ、大丈夫だ、もう君をそんな目には合わせない、俺が必ず君を守る」
うぇぇ、気持ち悪っ!
「光集いて、修復せよ、[ヒール]」
俺は、先ほどの男に殴られて出来たエメラ・ブロンドの傷を治した。
「え?・・・何故、若様はこれほどまで、私を気にかけてくださるのですか?代わりなんていくらでもいる、使用人の私なんかを」
「私なんか、なんて言わないでくれ!・・・俺は、君がいなくなって気づいたんだ、俺には、君が必要だと」
「え!?」
「必要なんだ!君が!」
「え!?あの、えっ!?」
「だから、帰ろう、俺の家に」
「・・・それ、は、出来ません」
やっぱり帰る気はないか。
「俺が、お父様をなんとかする」
「え?」
「お父様から聞いている、君が俺の家に戻るには、お父様の奴隷になるしかないと」
「はい・・・」
「安心しろ、そんなことは、絶対にさせない、言っただろう?俺が君を守ると、だから、帰ろう?」
「・・・」
返事はない。
返事がないと言うことは、好きに解釈していいという意思表示だ。
つまり、俺の家に帰るという事だな。
完璧な理論だ。
(すごい暴論ね)
「あっ」
俺は、エメラの手を掴み、立ち上がらせ、引っ張って行った。
やばい、体が重い。
家までが遠いな。本当。
歩く速度も落ちてきている。
本当に体力がない。子供は風の子とか、そんなものは迷信、都市伝説だ。
現に俺はもう歩くことすら億劫だ。
(あなた、肉体も精神もボロボロね)
そうだな、だが、まだやらなければならないことが残っている。
豚の説得だ。
だけど、これはそれほど難しいことでは無いと思いたい。
エメラ・ブロンドは俺の好きにしてもいいと豚に言われているからな。
楽観視したいところだ。
これさえ終わってしまえば、ある程度余裕ができる。緊急の要件はなくなる。
これが終わったら、ゆっくり休むとしよう。
だから、それまでは、頑張るぞ。
全ては最高の自己犠牲の為に。
「大丈夫、ですか?」
っ、俺の体調不良に気づかれたか。
「大丈夫だ」
「ですが、」
「大丈夫だ、もうすぐ家だろう?お父様の説得が終わったら、ゆっくり休むから、それまでは、君のために頑張らせてくれ」
「若様・・・」
なんだろう、かなりクサい気がする。
6歳児がこれを言っているって考えると、なんてマセガキだ、とか思われたりしないだろうか?
だが、参考に出来るのは前世の俺しかいないんだ。
少なくとも、今生の俺よりはよっぽど好感度を稼げるだろう。
さぁ、最後のもう一踏ん張りだ、頑張ろう。
俺たちは、家に着いた。
「君はここで待っていてほしい」
「え?」
「話は俺が付けてくる」
「ですが、」
「大丈夫、心配しないで、君は俺が守るから」
「は、はい」
俺は、エメラ・ブロンドを置いて、一人で豚のいる部屋に来た。
エメラ・ブロンドを置いてきたのは、ここでの話を聞かれない為だ。
多分、ここでの話を聞かれると好感度は落ちるだろうからな。
コンコンコン、
「お父様?いますか?」
「ん?イヴィルか、どうした、入ってこい」
「はい」
俺は部屋に入った。
「お父様、ブロンドの娘がこの家に帰ってきたら、そのまま僕がもらってもいいんですよね?」
「ん?ああ、いや、まずは奴隷紋を刻んでからだ」
ちっ、これでいいよって言われたら、そのまま奴隷にしないで済んだのに。
「お父様、奴隷紋とはなんですか?」
「ん?そうだな、奴隷紋とは、身体の自由を拘束する魔法陣のようなものだ、これを肌に刻まれ、奴隷になるという意思を持った瞬間から、その者は主人に絶対服従の奴隷となるんだ」
「それを、ブロンドの娘の肌に刻むの?」
「ああ、そうだとも」
さて、なんて言えば、エメラ・ブロンドを奴隷にせずに済むだろうか。
奴隷、奴隷か、奴隷は不自由の代名詞みたいなものだよな。
もしくは最下層の民か。
絶対服従、か。
・・・頭に先ほどのエメラ・ブロンドを囲んでいた男たちの姿が思い浮かんだ。
そうだな、そうしよう。
「えー?でもそれだと、抵抗を楽しめないよね?」
「ん?」
「なんでも思い通りになるなんてつまらないよ、そんな奴隷紋の力なんて頼らないで、抵抗してくる女を自分の力だけで、絶対服従させる方が楽しそうだよ?」
「そ、そうか?最初から絶対服従の方が良く無いか?」
「ううん、俺はその過程も楽しみたいんだ、だから、奴隷紋を刻まずにもらっていい?」
「う、うむ、まぁ、イヴィルがそういうなら、いいか」
「わーい!」
(6歳児がこれを言っている場面、すごいわね)
黙れ、俺だってこんなことを豚に言いたいわけじゃ無いんだ。
だが仕方ないだろう、近くに奴隷を置いている奴を誰が好感を抱くというんだ?俺くらいだぞ?
そうなったら、ただでさえ苦痛な好感度稼ぎが、さらに大変になるだろう。
だからエメラ・ブロンドを奴隷にするわけにはいかないんだよ。
「あ!お父様、今ブロンドの娘が帰ってきたから、俺が貰っていくね?」
「おお、そうか、好きにするといい」
よし、じゃあ、何もしないでいいだろう。
好きにするといい、ということは、何もしなくてもいいということだからな。
だが、いつまでもエメラ・ブロンドが不幸な目にあっていないことを豚が知ったら、変に介入してくるかもしれない。
だからそれまでに、豚を改心させたい。
あー、ほんと、邪操心蝕が使えたら。
はぁ、疲れた、とりあえず、豚のことは後だ、今はとりあえず早く休もう。
俺は、部屋を後にした。
休む前に、まずエメラ・ブロンドに伝えなきゃな。
おれは、エメラ・ブロンドのところまで戻った。
「若様、どう、なりましたか?」
「ああ、大丈夫だ、君が奴隷になることはない」
「っ!」
「だから、これからもこの家の使用人として、働いてくれないか、エメラ?」
「はい!本当に、ありがとうございました!若様!」
ぐっはっ!
おれはボロボロの精神に追撃の大ダメージを食らった。
(あ、あはは、他人からの感謝が、ここまで苦痛なんて、自己犠牲までの好感度稼ぎは、前途多難ね)
思わず体がフラついた。
もう、だめ、だ、部屋に、帰ろう。
「わ、若様!?大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫だ、おれは、へやで、やすむよ」
おれは、へやに、かえって、眠った。




