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別視点 1. エルミ・クライ 3

 私は食堂で、食事の準備をしていました。


 先輩は言っていました、若様や領主様は待たされるのを嫌うと。

 でも、決まった時間に食事を取っているわけではなく、その日の気分で食事の時間が変わるため、出来るだけ前もって準備を進めておかなければならないと。


 料理は料理人の人が頑張ってくれるので、使用人である私は何もしなくて良いのですが、後は料理を運ぶだけ、という状況まで食堂を整えておかなければ、時間がかかり、若様も旦那様も機嫌を損ねてしまうそうです。


 それでも、今日は若様はまだ眠っているはずですし、領主様も少なくとも後30分は来ないだろうと先輩が言っていたので、今日はかなり余裕があるそうです。

 そのため、私が食堂の準備をさせていただいております。


 食堂での準備がほぼ整い、あと少しというところで、食堂の扉が開きました。

 私はてっきり先輩が様子を見にきてくださったのかと思ったのですが、なんと、そこに居たのは若様でした。


「わ、若様!?もう起きられて大丈夫なのですか?」


「ああ、問題ない」


「あ、す、すぐに食事を準備いたします!」


「あ、そんなに・・・」


 予想より早く若様がいらっしゃったため、私は慌てて食堂での準備を整えたあと、料理をもらいに厨房に向かいました。


「すみません!若様がいらっしゃいました!」


「何?もう来たのか!?少し待ってくれ!すぐ出来る!」


 料理人の人もまだまだ料理の途中でした。

 寧ろ、まだ始まったばかりと言ってもいいくらいでしょう。

 このままだとあと30分くらいはかかってしまうと思いました。


 どうしましょう!?若様を30分も待たせるなんて!

 1分も待たせたらダメと先輩から教わったのに!


 これは一度、若様に料理ができるまで時間がかかることを伝えた方がいいですよね。

 何も伝えずに30分もお待たせするなんて、流石に良くないでしょうから。

 そう思い、私は厨房を後にしようと、扉に手をかけた瞬間、料理人さんの方から、大きな音が聞こえて来ました。


 驚いて後ろを見ると、私の目には信じられない光景が飛び込んで来ました。


 料理人さんが、分身していたのです!

 いえ、分身ているように見えるほどの速度で動いて居たのです!


 私は目を疑いました。

 だって、分身して見えるほどの速度で料理をする人がいるなんて思いませんでしたから。


 そして、後30分はかかるだろうと思っていた料理は、10秒とかからずに出来上がりました。

 そして、それ以外の料理もどんどんどんどん完成して行き、1分とかからず豪華な料理が出来上がりました。


「すまねぇ!出来たぜ!いい肉だってんで時間をかけ過ぎちまった!」


 時間をかけすぎた?


「・・・え?ええええー!!」


「早く持って行きな!」


「あ、はい!」


 私は料理人の方から料理を受け取ると、急いで若様の元に戻りました。


「あんな程度の量に53秒も掛けちまうなんて、俺も歳かねぇ」


 ・・・あんな程度の量?き、気のせい、ですよね?

 だって、私が作ったら、この量は3時間じゃ終わりません。

 それをたったの53秒で作っておいて、時間をかけ過ぎただなんて。


 あれ?よく考えたら、どうやって53秒でお肉を焼いたのでしょうか?

 というより、10秒もかからずに肉を焼ききっていた気がします。

 このお肉、中まで火が通っていますか?生焼けじゃありませんよね?

 大丈夫ですよね?


 いえ、あんなすごい料理人さんが、生焼け肉を出すはずがないですね、疑うなんて失礼です。

 きっと大丈夫。


 あ、そんなことを考えてる場合じゃありません!


 急がなきゃ!






 すでに1分以上時間が過ぎていたため、私は気が急いていました。


 若様を怒らせると、領主様を怒らせるに等しいと先輩から聞いていたため、私は急ぎました。


 急いで、急いで、急いで。

 そして。


 ガシャーン!パリーン!


 致命的な、失敗をしてしまいました。

 足がもつれて、料理を落としてしまいました。


「あ、ああ、」


 この時、私は頭の中が真っ白になりました。


 目の前の光景が、自分の作り出した惨状が、いったいどのような結果を生み出してしまうか、考えたくありませんでした。


 でも、そんなことを許さないかのように、声が聞こえて来ました。


「お父様が知ってしまったら、なんて思うだろうね?」


「ヒィッ!」


 私は一瞬で血の気が引いて、体が震え出しました。


 ああ、先輩が言っていました。領主様はお肉に大変なこだわりを持っていらっしゃると。

 そして、料理人さんは言っていました。

 このお肉はいいお肉だと。

 そんなお肉を、私は。


 そんな、・・・ああ、


 私は、間違いなく領主様に目をつけられてしまうでしょう。


 そして、私は。

 それだけじゃなく、妹や、お父さんにまで被害が。


 私のせいで、私のせいで、私のせいで、妹は、お父さんは、あ、あああ、


 若様は立ち上がり、ゆっくりとこちらに近づいてきます。


 ど、どうしよう、どうすれば。


「あ、あの、こ、この事は、ああ、領主様、には、」


「何を言っているんだ?」


「わ、私には、病気の妹が、だ、だから」


「そんな事は関係ないだろう?」


「っ!」


 ああ、ダメ、なんだ、もう、お終い、です。

 私は、私のせいで、私の家族は、不幸に。

 ごめんなさい、ライカ、お父さん。

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。


 この仕事に着く前に、もっと、考えるべきでした。

 私が、ドジな私が、一度のミスも許されない使用人の仕事なんて出来るはずないのに。


 でも、私は、妹の病を見て、焦っていて、お父さんがいない今、私が妹を、ライカを助けるんだという使命感と、この仕事の金額の多さに目が眩んでいたせいで、この仕事がドジな私にとってどれだけ危険かという認識がとても甘くなっていました。

 分かった気になっていただけでした。


 ドジでよく失敗をしてしまう私は、たとえどれだけお金がもらえようと、家族を危険に晒すこの仕事だけは決してやってはいけなかったのです。


 それなのに私は。


 そのせいで、逆にライカをもっと危険な目に合わせてしまう。


 ライカ、お父さん、本当にごめんなさい。ダメなお姉ちゃんで、本当に、本当に。


「ほら、手を見せて」


「・・・え?」


 一瞬、若様が何を言っているのか分かりませんでした。


「血が出ている、割れた皿の破片で切ったんだね、怪我を治すよ、・・・光集いて、修復せよ、[ヒール]」


 若様が何をしているのか、何をしたのか、認識できませんでした。


「・・・え?」


 もう、死ぬしかないんだと、家族を巻き込んで死んでしまうしかないと、絶望をしていた私は、怪我をしていることなんて、微塵も気がつきませんでした。


 自分の手を見ると、確かに血が付いていて、その事を認識をした途端、手が少し痛みましたが、その痛みも、若様が一瞬のうちに消し去ってしまいました。


 そして、私は若様に手を引かれ、立ち上がりました。


「もう痛くないね?」


「は、はい」


「よし、じゃあ手早く片付けよう、お父様が来る前にね」


「っ!?」


 もしかして、若様は、私を助けてくれた?私のミスを見逃してくれる?


 この時、私はようやく認識が追いつき、自分が勘違いしていることに気がつきました。


 私は若様が領主様にこのことを報告すると思っていました。

 私に病気の妹がいても関係ない、ミスはミス、当然このことは領主様に報告され、私は領主様に目をつけられるのだと。


 ですが違ったのです。若様は初めから領主様に報告する気なんてなかったのです。


 それどころか、怪我をした私のもとにやって来て、魔法で治療を施してくださりました。


 私は若様のことを誤解していました。

 先輩から、若様についても気をつけたほうがいいと言われていたため、私は勝手に領主様と同じような方なのだと思っていました。


 でも、全然違いました。若様は、とても優しい人です。

 そうでなければ、大切な料理を落としてミスをした使用人である私の傷を、魔法を使ってまで治してくださるはずありません。


 それに、若様は今、床に散らばった料理と、割れた皿を片付けようとしています。

 私の失敗を黙っていてくれるどころか、こんなことまでして下さろうとする若様が、悪い人なはずありません。


 それなのに私は勝手に恐怖して、自分が恥ずかしいです。


「あ、わ、若様!私がやります!大丈夫です!」


「なら2人でやろう、2人でやった方が早く終わるからね」


「で、ですが、・・・はい、ありがとうございます!」


 普通なら、使用人にここまで気を使ってくださる方なんていないでしょう。

 でも若様は手伝ってくださいます。

 ああ、若様はなんていい人なんでしょうか。


 そうして、私たちは2人で料理を片付けました。


「じゃあ、新しい料理を持って来てもらえるか?」


「は、はい!すぐにお待ちいたします!」


「焦らなくていいよ、慎重にね」


 ミスをした私をここまで気遣ってくれる若様。


「は、はい!」


 焦らなくていいと言われたのに、なぜか私は、今、若様と共にいることが気恥ずかしくて、駆け出してしまいました。


 顔が熱く、全身が高ぶっていて、心臓が、ドクドクうるさいです。

 この胸の高鳴りは、なんなのでしょうか?

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