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第17話 暗殺者

 俺は階段を上がって、書斎に戻った。


 地下室だったため、窓がなく、今がどれくらいの時間なのかがわかっていなかったが、外を見るともう真っ暗で、だいぶ時間が経過していることがうかがえる。


「さて、流石にお腹がすいたな」


(食事!食事かしら!良いわよねあれ!前に肉体を持ってた時に知ったんだけど、美味しいって良いわよね!貴方お坊ちゃんでしょ!きっと料理は美味しいのよね!)


 俺の精神の中でイヴィラが騒いでいる、うるさい。


(うるさいとは失礼ね!私は久しぶりの食事なのよ!ちょっとは大目に見なさい!)


 お前が食べるわけじゃないだろうが、食べるのは俺だ。


(大丈夫よ!私は今貴方の精神とつながっているもの、貴方が美味しいと感じたら、私も美味しいって感じるから!)


 よし、シェフにまっずい料理を提供させよう。


(え?なんで?)


 イヴィラが喜ぶことを何故俺がしなければならない?


(なんでよ!貴方も美味しい、私も美味しい!美味しいものを食べない理由なんてないじゃない!)


 お前が苦しむなら、俺は例えどんな苦痛にだって耐えてみせるさ。


(なんでよ!)


 まあ、それ以外にも今の食事は栄養的に体に悪すぎる。食事は体を作る重要なものだ、ただ美味しいだけの食事は体に良くない。


 だから元々、イヴィラがいなくとも栄養を重視した食事に変えてもらおうと思っていたんだ。

 その上、俺の精神内にイヴィラがいるとなると、そりゃもう当然、栄養重視のとびっきりまずい料理に変えてもらうしかないだろう?


(だからなんでよ!栄養?それがあって美味しい料理に変えてもらえば良いじゃない!)


 それじゃあお前が喜んでしまうだろう?嫌だぞ俺は、イヴィラにはとことん苦しんでもらうからな。


(鬼!悪魔!人でなし!)


 悪魔に悪魔と言われるのは光栄だな。


(嫌よ!私は嫌よ!美味しいものだけ食べてれば良いじゃない!栄養なんてどうでも良いわ!美味しいものが食べたい食べたい食べたいわ!!!!)


 うるさい!これは俺の体だ!お前の体じゃないんだ!俺が何をしようと俺の勝手だろう!


(私のことをもっと配慮しなさいよ!このドS!)


 なんとでもいうが良いさ、俺の体の支配権は俺のものだ!ふ、ふはは、ふはははは!


(・・・待って)


 待たん、俺は不味いものしか食べないぞ!


(待って!違うわ!あなた、誰かから見られてるわよ!しかも、あなたに悪意を持っている者から!)


 ・・・何?本当か?俺は何も感じないが?


(私、能力は失ってるけど、仮にも悪意を主食とする悪魔よ?悪意を持つ者の存在は見過ごさないわ、あなたの上の方から、あなたを見ている人がいる!)


 上?・・・暗殺者の類か?実力は?どれくらい強い?


(分からないわ、でも間違いなくあなたよりは強いわね、もちろん、精神世界に引きずり込んだら、あなたの敵ではないけど)


 俺はお前と違って、他者を精神世界に引きずり込む魔法なんて覚えてない。

 いや、今はお前も力を失っているんだったか。


(え?何を言っているの?貴方は私の力を使えるのよ?触りさえすれば精神世界に相手を引きずり込めるじゃない)


 ・・・まて、何さらっと重要なことを言っているんだ?俺がお前の力を使える?本当か?


(え?なに当たり前のことを聞いてるの?)


 なぜもっと早く言わない!


(常識でしょう!?私を取り込んだのだから、私の力を使えないはずないじゃない!)


 そんな常識知るか!


(あなた、なんでも知ってるって言ってたじゃないの!?)


 あんなの嘘に決まってるだろう!いつまで騙されているんだ!馬鹿か!


(あ!また馬鹿って言ったわね!馬鹿っていう方が馬鹿なのよ!馬鹿!嘘つき!)


 ・・・この状況をどう突破するか。

 俺はイヴィラの能力を使えるらしい。


(無視するんじゃないわよ!)


 うるさい、少し黙ってろ。


 イヴィラの能力は4つ、邪操心蝕、無身影幻、悪心誘引、そして、精転喰心だ。


 この状況で使えるのは、無身影幻、精転喰心か?


 いや、無身影幻は現実世界に体を持っている場合、使えないんだったか、なら精転喰心しかないか。


 しかし、相手に触れなければならないのは難しい。

 相手が無手なら、可能性があるが、暗殺者なら恐らく武器は持っているだろう。


 ちっ、イヴィラは本当に使えないな。


(酷い!私のおかげで暗殺者の存在が分かったのよ!使えなくないわ!)


 はいはい。


(適当にあしらうんじゃないわよ!あ、それとごめん、私の力を使えるとは言ったけど、私の力は闇の属性なのよ、あなた、適正的に多分うまく使えないと思うわ)


 は?


(あなたの適正魔法って、多分風と雷と光よね?闇に適正がないから、使えなくはないかもしれないけど、使わない方が身のためよ、自分の適正以外の魔法を使うなんて、魚が陸に上がるようなものよ)


 つまり、かなり危険ということか、ほんと使えないな。


(酷いわ!泣くわよ!あなたの精神の中で大声で泣き続けてやるわよ!)


 それはぜひ頼む。


(え?)


 さあ泣け!早く泣け!俺を楽しませろ!


(いや、あの、現状をどうするか考えた方がいいんじゃないかしら?)


 そんなことは後でいい!さぁ!さぁ!さあ!!俺に無様なイヴィラの泣き声を聞かせてくれ!


(絶対に泣かないわ!)


 ちっ、まあいい、こんなことを考えている状況じゃないしな。


 どうするか、まあ、いいか。


「覗き見とは感心しないな」


 ・・・


 反応はないか。

 本当にいるんだよな?イヴィラの気のせいだったとかなら、俺、独り言を言っている痛いやつになるぞ?大丈夫なんだろうな?


(勿論よ!間違いなくいるわ!)


「隠れてないで、出てきたらどうだ?」


 ・・・


(って、呼んじゃっていいの!?)


 どうせ、この暗殺者が俺を殺すつもりなら、俺は実力的に逃げるのは不可能だ。


 それに、殺されるなら殺されるで構わん。


(ダメよ!私はあなたの精神の中にいるのよ!あなたが死ぬと、私も死ぬじゃない!)


 死ぬ時は一緒か、残念ながら、俺は近いうちに死ぬ、今のうちに覚悟を決めておけ。


(え?)


 イヴィラ、暗殺者はどこだ?


(え?えっと、上よ!)


 上を向いたぞ、前後左右どっちだ?


(えっと、右後ろ、そう、そっち、あ、もう少し左、そこ、あ、もうちょっと前ね、そこよ!)


 俺の目にはただ天井が映っているだけだ。

 だが、ここに俺に悪意を持つものがいるらしい。


「そこにいるのはわかってる」


 これでいなかったら、単なる厨二病の黒歴史だぞ?


「・・・なぜ分かった?」


 その声が聞こえてきた瞬間、天井の景色が歪んだ。

 そして、一人の男が天井に張り付いていた。


 顔は黒い布で目元以外を覆われている。ザ・暗殺者という出で立ちだ。


 天井に張り付いていた男は、クルクル回転しながら、俺の前に降り立った。


 なに回転してんの?馬鹿?かっこつけのナルシストかな?


「俺の隠形は完璧だ、なぜわかった?」


「完璧な隠形?ふっ」


 イヴィラに見抜かれる程度の隠形が完璧って、ダサ。


 思わず笑ってしまった。


「いや、うん、そうだな、完璧だったよ、俺には微塵もわからなかった」


「嫌味か?・・・まあいい、俺の娘に手を出したら殺す、忘れるな」


 そういうと、目の前の暗殺者は窓を開けて、消えてしまった。

 イヴィラ、あの暗殺者は?


(まだいるわ)


 ってまだいるのかよ!あの消え方なら普通どこか行くだろ!


(今壁を登って天井に張り付いたわ)


 さっきの場所か?


(ううん、違うわ、少し右ね)


 はぁ、面倒だな。


「いつまでいる気だ?」


「・・・ちっ、なぜ分かる?」


 こいつ、自分に自信はあるくせに、実力はない3流暗殺者ってところか?イヴィラに見つかる程度だからな。


(ちょっと!なんで私がそんなダメダメみたいに言うのよ!)


 さあ?


 天井に張り付いていた暗殺者は、先程と同様に、無駄に回転しながら降ってきた。


「貴様、っ!?」


 ん?どうしたんだ?


 暗殺者は、いきなり俺に背を向けると、慌てて壁を蹴り、天井に張り付いた。


 訳がわからない。なんだこいつ?忍者か?壁を蹴って天井に張り付くとか、どう言う身体能力してるんだ?

 それに、なんであんな真っ平らな天井に張り付いていられるんだ?

 何かの魔法か?


 と言うか、今回は透明にならないんだな。

 慌ててたし忘れているのかもしれないが。


 ガチャ。

 誰かが書斎に入って来た。

 俺が振り返ると、そこにはエルミがいた。


「イヴィル様、どこに・・・え?あ、イヴィル様!?」


「どうした?」


 エルミは肩を震わせ、目に涙を溜めている。

 やっぱり他人の涙はいいな。心が洗われるようだ。


「・・・よかった、良かったです!」


「ん!?」


 エルミがいきなり抱きついて来た。


 やめろ!気持ち悪い!離せ!


「んんー!」


 だけど、俺の顔は柔らかい何かに埋められて言葉を出せなかった。

 いや、分かっている、これは胸だろう。


 うぇぇ、人肌の生暖かさが気持ち悪い、胸の柔らかさが気持ち悪い!鳥肌が立って来た。

 先ほど洗われた心は、一瞬で泥まみれになった。

 やばい、死ぬかも。


 っっ!ものすごい殺気を感じる。これは天井に張り付いている暗殺者か。


(すごいわね、恨み真髄の様子よ)


 イヴィラ!暗殺者のことなんて今はどうでもいい!エルミをなんとかしろ!引き離せ!


(無理よ!私には力がないって行ってるでしょ!)


 本当に使えないな!


「いきなり壁の中に入って!もう7時間も!本当に、何かあったんじゃないかと!心配で心配で!」


 壁の中?

 少し拘束が緩んだ瞬間に俺はなんとか抜け出した。

 きっつ!


(あなたの精神性はすごいわね、普通女性に抱きつかれたら興奮するでしょうに、あ、そういえば、あなたまだ子供だったわね、え?子供?)


「はぁ、はぁ、エルミは、そこの扉が見えていないのか?」


「扉?」


 あの扉は、エルミには見えていなかった?そうか、もしかしたら、なにかしらの魔法が働いていて、特定の人間にしか見えないようになっているのか?


「いや、なんでもない、心配かけたな」


「いえ、いいのです、イヴィル様が無事ならそれで!」


 ぐぅぅ。


 丁度、俺のお腹が鳴った。


「あ、お腹空いてますよね!すぐに準備してまいります!」


 そう言うと、エルミはバタバタと駆け出して行った。


「慌てなくていいぞ!」


「はい!」


 エルミは変わらずにそのまま走って行った。


「はあ、っ、」


 俺の首に、刃物が当てられている。

 いつの間に降りたのか、今、俺の後ろには暗殺者がいるんだろう。


「殺さないのか?」


「・・・なぜ余裕を保っていられる?」


 そりゃ、自分の命に価値を微塵も見出していないからな。

 イヴィラの時は、負けると色々と不都合が起きたが、こいつの場合は違う。


 もし俺がここで殺された場合、間違いなくこいつとこいつの家族は、親類縁者は不幸になる。


 俺はまだ子供。子供を暗殺したなんて、国が黙ってはいない。全力を持って犯人を探し出し、必ず報いを受けさせるだろう。


 ここはそう言う国だ。


 それに、この暗殺者はイヴィラに見つかる程度の3流だ。国から逃げきれるとは思えない。


 そうなれば、きっと楽しいことになるだろう。


 当然、死にたくはない、死ぬのは自己犠牲でと決めている。

 だが、無様に命乞いをしてまで生きたいわけじゃない。俺を殺したやつと、その親類縁者が不幸になるなら全然構わない。


(あなた、かなり狂った精神してるわね)


 褒め言葉として受け取っておこう。


「ちっ、まあいい、決して、俺の娘には手を出すなよ、まあ、今日で終わりだがな」


 そう言って、暗殺者は窓を開き、消えた。


 イヴィラ、どうだ?


(今度こそ消えたわよ、ここから離れていったわ)


 そうか、結局何だったんだあいつ?訳がわからんな。


 まあいい、食堂に行こう。

 あ、料理を修正するように言うことを忘れてた。


 ちっ、はぁ、まあいいか、どっちにしろ料理は下準備やらなんやらで時間がかかるもの、今から言ったところで、少なくとも今日の料理が変わることはないか。


(やったー!やったーーーー!!!!!)


 はぁ、色々めんどくさい。

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