別視点 1.エルミ・クライ 1
私、エルミ・クライは、今日から領主様の家で働きます。
領主様は怖い人。街の人はみんなそう言っています。
領主様に目をつけられたら、その人の一家は終わりだと。
逆に、目をつけられさえしなければ、安全ではあると。
領主様は興味のないものにはとことん興味が無いそうです。
逆に、興味があることには全力で取り組まれる方だとか。
他の街では、重い税に苦しんだり、儲けのほとんどを領主に持っていかれるところもあるそうです。
でも、ここの街では違います。
領主様はお金には興味がないらしく、他の街よりもかなり税が安いのです。
つまりこの街は、領主様に関わりさえしなければ、住みやすい街、ということです。
だから、この街の人で、領主様の家で働きたいという人は殆どいません。
領主様の家で働くということは、領主様に目をつけられる可能性が高くなりますから。
みんな、自分や、自分の家族は大切ですからね。
そう、自分の家族は大切。
だから私は領主様の家で働くのです。
妹の病を治すために。
今、妹は病に苦しんでいます。
その病を治すためには、特別な素材が必要らしく、その素材は、かなり危険な場所でしか手に入らないため、高価なものだと医師の人は言っていました。
当然、私達にそれだけのお金はありませんでした。
ですが、妹の延命だけなら、医師の人が、1年くらいなら手元の素材で行えると言っていました。
とは言っても、その素材も、それなりに高価で、お父様から渡されていた生活費の全てを差し出して、ギリギリ足りたくらいでした。
もし、お父さんがいたら、妹を治すだけのお金があったかもしれません。
ですが、お父さんは今仕事で国外にいるそうです。
お父さんがどんな仕事をしているかは知りませんが、お金はたくさん持っていたはずです。
でも、私にはお父さんとの連絡手段はありません。
それに、お父さんの仕事は、数ヶ月から数年後くらいかかるかもしれないと言っていました。
数ヶ月で帰ってきてくれるなら、妹は助かりますが、もし1年以上帰ってこなかったら、妹は死んでしまいます。
だから、私にはたくさんのお金が必要で、今働いているカフェでのお給金では、絶対に妹を治せないため、カフェの店長に事情を話して、カフェでの仕事を辞めさせてもらいました。
そして、高い給料の仕事を探していたところ、丁度領主様の家の使用人に欠員が出たらしく、使用人を募集していたため、私はそれに応募しました。
応募したのはどうやら私一人だけのようでした。
だから、今日から私は領主様の家で働くことになりました。
領主様の家の使用人はかなりの高給です。
それなのに誰もやりたがらないのは、それだけ危険なためでしょう、でも妹の病を治すため。
危険を犯さなければ妹を治せないなら、私は危険に飛び込みます。
「お姉ちゃん、ごほ、ごほ、大丈夫だよ、きっと、お父さん帰ってきてくれるから、ね、ごほ、だから、やめよう?」
「もし帰ってきてくれなかったら、ライカは死んじゃうんだよ!そんなの絶対ダメ!私が頑張らなきゃ!」
「でも、お姉ちゃん、ごほっ、きっと領主様に目をつけられちゃう、」
「え?私、そんなに可愛い?」
「違うよ、けほ、お姉ちゃん、ドジだから、きっと領主様の前で、大ポカやらかしちゃう、けっほ、こほ、」
「あ、あはは、だ、大丈夫!いつもよりしっかり気をつけるから!」
「・・・空回りしそう、ごほ、ごほ、ぅ」
「大丈夫!ほら、ライカ、朝のお薬飲んで」
「うん、・・・ぅぅぅ、苦ぃょぅ」
「苦いってことは、体にいいってことだから!じゃあ、行ってくるね、ライカ、ゆっくり休んでね」
「うん、お姉ちゃん、気をつけてね」
私は領主様の家で、先輩の使用人の方から仕事の説明を受けました。
「最後に一つ、もうご存じでしょうが、決して領主様に目をつけられるようなことはおやめください、貴方だけではなく、貴方の家族にまで被害が及びますので、」
「はい!」
「それともう一つ、領主様は大変なお肉好きです、その事は承知しておいてください、もし仮に領主様の食べるお肉に何かあった場合、目をつけられるのは確実です」
「はい!」
「さらにもう一つ、今、若様はお倒れになられております、原因は不明ですが、領主様は貴方の前任の使用人が原因だと決めております、その使用人、エメラ・ブロンドさんは解雇され、今は街のどこかにいるようです」
「え?エメラ・ブロンドさんって、あの領主様が関わるなと仰っていた?」
「はい、そのエメラ・ブロンドさんです、知っているとは思いますが、決してその使用人とは関わってはいけません、もし仮に、広場に貼られていた絵を見ていないなら、領主様の部屋の隣に、領主様が描いたその絵がもう1枚ありますので、後で一度確認しておいてください」
「え?あの絵って領主様が描いたものなのですか?」
まるで絵の中に本物の人がいるように見えるほど、かなり正確に描かれていて、この絵を描いた人は凄いと思っていましたが、まさか領主様が描いていただなんて。
「知らなかったのですか?領主様は目をつけた人は必ず絵に描いています、逆に、絵を描かれていないのなら、目はつけられていないという事です」
「分かりました!」
「そしてもう一つ、今領主様の息子が倒れているため、少し領主様は荒れています、近づくな、というのはこの仕事上無理なのですが、特に今はできるだけお気をつけください、せっかく入ってくださった新人が、1日も経たずに物言わぬ死体になった姿は、あまり見たいものではありませんので」
「はい!気をつけます!」
「さらに追加でもう一つ、この仕事上無理なのですが、この家の東側には、あまり近寄らないほうが身のためです」
「はい!・・・なぜですか?」
「あちらには、悪魔の子がいますので」
「悪魔の子?」
「はい、ですから、この仕事上無理なのですが、お気をつけください」
「はい、?」
悪魔の子ってなんでしょうか?
「もう一つ追加でもう一つ、先ほどの悪魔の子の話は、この家の人間以外には決して漏らしてはいけません、間違いなく領主様に目をつけられますので」
「はい!ってええ!?」
「まだまだ追加でもう一つ、この仕事上無理なのですが、」
後何回追加があるのでしょうか?
そしてこの仕事上無理なことが多すぎませんか?
やっぱり、領主様の家の使用人は大変そうです。
でも、妹のために、私、頑張って働きます!




