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第16話 ハウント家の宿命

 まず、これを読んでいる我が子孫に向けて告げる、決してこの部屋にある黒き宝玉に触れてはならないということを。


 その黒き宝玉には、かつてこの大陸最大勢力であったリアン皇国を滅ぼした悪魔が封印されている。


 その悪魔が解放されれば、我が王国も危ういであろう。

 故に、決して触れるべからず。


 しかし、我はこの宝玉への悪魔の封印を完璧に行うことができなかった。

 いずれこの悪魔が再び目覚める時が必ず来るであろう。


 その時のために、我の知る限りの悪魔の情報をここに記す。


 悪魔の名はイヴィラ。


 イヴィラの戦闘能力はそれほど高くない。


 悪魔の中では最弱と言っても過言ではないだろう。

 事実、我が今まで見てきた悪魔の中では一番下だ。

 しかし、それは直接戦闘を行うことが出来ればの話だ。


 戦闘能力こそ最底辺ではあるが、我はこのイヴィラという悪魔こそ、その他の身体能力だけが高い悪魔よりもよっぽど悪魔らしいと思っている。


 なぜなら、かつて周辺諸国から、絆の国とまで言われるほどの結束力を誇っていたリアン皇国を、内部分裂させ崩壊させたからだ。


 これは間違い無い、当時のリアン皇国を知るものたちは、誰一人として予想していなかったリアン皇国の内乱という事件は、明らかに不自然なところが多すぎる。しかし、この事件の裏にイヴィラという悪魔がいたと言うのなら、不自然ではなくなる。


 そして、イヴィラという悪魔から直接聞いた話でもある。


 この悪魔がどのようにして、リアン皇国の内乱という事件を行えたかを書く前に、イヴィラの能力を説明する。


 イヴィラの能力は主に3つ。

 1つは悪意の譲渡、吸収だ。


 悪意の譲渡、吸収とは、自らの悪感情を他者に植え付けること、そして、他者の悪意を喰らうことだ。

 しかし、悪意の譲渡、吸収にはそれなりに時間がかかる。1日程度なら殆ど影響は出ないだろう。


 リアン皇国を内部分裂させた力は、この能力だ。


 次に、幻影身。


 幻影身とは、幻の体を作り出す能力だ。


 幻影故に、物にも魔法にも触ることは出来ない。

 逆を言えば、この幻影身には障害物と呼べるものはなく、物理的な物も魔法的な結界も意味をなさないと言うことだ。


 この幻影の厄介なところは、この幻影の半径数メートル前後が、イヴィラの能力の効果範囲と言うところだ。

 つまり、この幻影の近くにいれば、こちらからはイヴィラに攻撃することは出来ないが、イヴィラの能力の影響を受ける。


 そして、幻影身は本体を攻撃することが出来れば消すことも可能だが、イヴィラの本体は現実世界には存在しない。

 なら何処に存在するかというと、3つ目の能力に関係する。


 3つ目の能力は、身体の乗っ取りだ。


 イヴィラの幻影に触れた生物は、イヴィラの精神世界に取り込まれる。

 そして、その精神世界で敗北した場合、肉体をイヴィラに奪われるらしい。


 精神世界とは、


「飽きた、これはイヴィラについて記した本ってことか、もうイヴィラは俺が殺したし、読む必要はないな」


 そう、俺はイヴィラを殺した。


 精神世界から、この地下室に戻って来てからは極力考えないようにしていたが、俺は、イヴィラを殺したんだ。


 ・・・心に様々な思いが込み上げてくる。


 俺は、人を一人、殺したんだ。

 確かにイヴィラは俺の精神を殺して、俺の体を乗っ取ろうとしていた。

 だが、それでも前世の価値観では、殺しは受け入れられない。

 逆に俺の心は楽しかった、や、いい気味だ、と言った感情しか浮かばない。罪悪感や忌避感がカケラもない。

 そんな自分に嫌悪感を抱く。


(あなた、本当に不思議な精神構造をしてるのね、良いじゃない、たかだか殺しよ?それに所詮他人じゃない、そこまで悩むわけがわからないわ)


 ん?今、イヴィラの声が聞こえた気がした。

 幻聴か、まだ精神的に疲れているんだろうな。


(幻聴じゃないわよ)


 ・・・ちっ、


(ちょっと!舌打ちなんて失礼だと思わないの!?)


 思わんな、イヴィラ、何故生きている?確かにあの時俺はイヴィラの精神を飲み込んだはずだが?最初のように幻影じゃなく、間違いなくあれはイヴィラの本体だった。


(そういえば、さっきからなんで私を死んだことにしてるのよ?)


 だから、イヴィラの精神を俺が飲み込んだのだから、イヴィラは死んだはずだろう?


(なんで?あなたは私を丸ごと飲み込んだじゃない、もともと精神体存在の私が、丸ごと精神を飲み込まれたんだから、死ぬわけないじゃない)


 ・・・は?はぁ?はぁぁぁ、


(それにしても、潜在思考に2種同時思考ねぇ、そんなこと、私にだってできないわよ?たまに声が重なって聞こえたのは2種同時思考だったわけね)


 ちっ、イヴィラは殺す、俺の本性を知ってしまったんだ、前世の価値観では受け入れられないことだが、それでも殺す。


 イヴィラは今俺の精神内にいるということだ、なら精神を研ぎ澄ましてイヴィラを全力で殺そうと思えば殺せるはずだ。


(ちょっと!?何物騒なこと考えてるのよ!やめて!殺さないで!)


 ダメだ、俺の精神内に悪魔がいるなんて、いつ何をやられるか分かったものじゃない、安心して眠ることすらできなくなる。


 そんな生活はごめんだ


(何もしないわよ!って、出来ないわよ、私はあなたに負けたの、精神体存在が、精神勝負で負けて、あなたに私が丸ごと飲み込まれたのよ、もう私は能力を失っていて、あなたに逆らえないわ)


 信用できん、悪魔を信用するなんて間違いなく馬鹿のすることだ。

 前世の価値観では信用したがっているが、イヴィラが間違いなく能力を失っていて、俺に逆らえない保証なんてない。嘘をついている可能性がある以上、貴様に体を乗っ取られることだけは避けたい俺としては、殺すしかない。


(私は悪魔よ!嘘はつかないわ!)


 何故イヴィラが悪魔だということが嘘をつかない保証になる?


(え?当然じゃない?悪魔は嘘をつかないわ)


 むしろ悪魔は嘘をつくイメージがあるんだが?


(何よその悪魔に対する間違ったイメージは!?いい、悪魔はね、決して嘘をつかないの、悪魔はみんな誇りを持っているのよ、騙したり、謀ったりはするけど、決して嘘は吐かないわ、だって嘘を吐くのは人だけだもの、嘘をつくと人に堕ちる、悪魔にとってそれは屈辱だわ、だから決して悪魔は嘘を吐かないの、間違ったことは言うかもしれないけどね)


 誇りか、くだらん、誇りとは、本当に大切なものの前には一瞬で単なる埃になる、もしお前が一番大切なものを守るためには誇りを捨てなければならない、となった時、どうする?決して誇りは捨てないと言い切れるのか?

 だから誇りを信用しろだなんて俺には無理だ。故にイヴィラは殺す。


(待って!私を殺すと、きっとあなたは大変な間に合うわよ!)


 脅しか?


(違うわ、忠告よ、私は死にたくない、だけど、あなたが私に死ねと命令するなら、私はそれに従うしかない、でも!私が死んだらきっとバランスが崩れてしまうわ!)


 は?バランス?


(そう、今、私はあなたの精神にいるから分かるわ、あなたの心は、まだ善と悪、白と黒、光と闇のバランスがギリギリ保たれているのよ、だいぶ闇の方に傾いてはいるけど、それでもまだ保っているわ、だけど私を殺すと、その比重は一気に闇に傾くわ」


 何故だ?


(私は今もうなんの力もない単なる精神体存在よ、それでも、今は私と言う殻があるおかげで、私の悪心はあなたに影響を与えていないわ、だけど、私と言う殻がなくなったら、私の悪心は全てあなたの精神に影響を与えるようになるわ、そうなったら、闇の比重が増す、ただでさえバランスが闇に傾いているのに、そんなことになれば確実に崩れるわ)


 ・・・それは、困る。

 確かに不思議に思っていた。これは精神世界でも考えたことだが、イヴィラの悪心はかなりのものだった。


 その悪心を飲み込んで、なんの影響もないのはおかしいと。


 だが、イヴィラの先ほどの説明が正しかった場合、納得がいく。


 ある程度の信憑性のある話だ。


 ・・・仕方ない、今はイヴィラの扱いは保留としておこう。


 本当にイヴィラは俺に何もしないんだな?何も出来ないんだな?力を失ったんだな?もし、イヴィラが少しでもおかしな真似をするなら、すぐに殺す。

 たとえ俺の精神にイヴィラの悪心が加わって、俺の精神の比重が悪に偏ったとしても、イヴィラは殺す、容赦なく、全力で、一瞬で殺してやるからな?


(分かってるわよ、私は何も出来ないわ、今は信じてとしか言えないわね、えっと、アビスガ、えっと、ハサヨト?)


 ん?なんだ?呪文か?よし、殺


(待って!違うわよ!名前よ!名前!あなたの名前を言ったのよ!)


 誰だそれは?どうして俺の名前がそんな変な名前になる?


(だってそう名乗ってたじゃない!)


 ん?ああ、あの最期の時か。

 2つの名前が混ざってるんだな。

 仕方ない、改めて自己紹介と行こうか、俺はイヴィル・ハウントだ、よろしくするつもりはないが、あまり騒ぐなよ?


(ハウント!?・・・そう、結局私はハウントに負けたのね、私はイヴィラ、悪魔よ!あ!イヴィルとイヴィラって似ているわね!)


 不愉快だ、名前を変えろ。


(嫌よ!悪魔にとって名前は大切なものなの!)


 早速俺の命令に逆らっているじゃないか、やはり嘘つきか。


(え?・・・本当だ、え?なんで?なんで逆らえるの?)


 知るか、何故お前の方が戸惑っているんだ?


(知らないわよ!私が知っていると思っているの!?)


 そりゃ悪かった。


 さて、これからイヴィラの扱いをどうするか、何か役割を持たせよう。

 タダで俺の精神に飼っておくのも勿体無いしな。


(話し相手になってあげるわ!)


 いらん、そうだな、俺がイライラすることがあったら、イヴィラで発散させてもらおうか。

 そうしよう。


(え?私は精神体存在だから、体を持ってないわよ?触ることもできずに発散できるの?)


 当然だろう?俺はイヴィラを虐めて、イヴィラの苦痛に歪む顔や悲鳴を聞いて無聊を慰めるさ。


(へ、へぇ、イヴィルだったかしら、あなた、特殊な性癖をしてるのね)


 ん?そうか?まあ、一般的ではないことは自覚している。一般人が皆こうだったら、とっくに人類は滅んでいるさ。


(まぁ、そうよね、みんながSでMがいなければ、人類は滅びるわよね、あ!勘違いしないでよ!私はMじゃないんだからね!)


 なんの話だ?


(なんの話って、ナニの話よ?)


 ん?・・・なにがだ?っと、流石にそろそろ戻らないとまずそうだな、幾ら何でもこの地下にいすぎた、どのくらい眠っていたかが分からないから、すぐに戻ろう。

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