第14話 イヴィルVSイヴィラ 4
最初はイヴィラの攻撃から逃れることが出来ていた。
恐らく、イヴィラはあまり戦闘に慣れていない。
もともと戦闘を行うタイプには見えないし、今まで戦闘なんてしなくとも、そのまま精神を飲み込める程度の相手しかいなかったのだろう。
だから戦闘経験のない俺でも、躱すだけなら何とかなっていた。
俺はその間に打開策を探っていた。
今見えているイヴィラの中に本物はいない。
俺の精神を弱らせ、確実に飲み込めるようになるまで、イヴィラは姿を見せる気はなさそうだ。
このまま何も出来なければ、いつか攻撃を喰らい、そして精神を削られていき、何の抵抗もできぬまま俺の精神は喰われるだろう。
だから早くこの状況を何とかできなければ、俺の負けだ。
しかし、相手の位置がわからないのだから、どうしようもない。
時間が経てば経つほど、俺は不利になっていった。
攻撃を避けるのにはかなり神経を使うため、精神的な疲労が蓄積していくのを感じるし、イヴィラも少しづつ学んできている。
そして、ついに。
「がっ!?」
俺は、イヴィラの攻撃を喰らった。
肉体的な痛みとは違う、まるで心を壊されるかのような衝撃が俺を襲った。
その衝撃で、思考が吹き飛び、俺は動きを止めてしまった。
そして、いい的になった俺は、イヴィラの攻撃を避けられず、どんどん精神にダメージを負った。
「ぐがぁぁ、ッギッィィ、がはっ、はっ、はっ、」
それから俺は、少しずつ精神を削られていった。
少しづつ、嬲るように、痛めつけるように、ゆっくりと、ゆっくりと。
そして、今ではもう、避ける気力すら湧かなくなっていた。
「がぁぁぁぁっ!はっ、ぐぅぅぅぅっ、」
「ふ、ふふふ!いいわいいわ!その表情!その苦悶に歪む顔!さっきまで偉そうにしていた奴を地に落とす快感!もっとよ!もっと悲鳴をあげなさい!」
「ぎがぁぁぁぁあ!っ、かはっ、」
「いい!いいわよ!流石はあれだけの悪心を抱えられる精神力を待つだけあるわ!常人ならとっくに壊れていてもおかしくないのに!まだ耐えるだなんて!いいわ!もっと!もっと悲鳴を聞かせて!」
「ぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
ああ、俺は、ここで死ぬのか。
俺は、何も出来ずに、ここで。
「そうよ!あなたはここで死ぬの!何も出来ずにね!」
そうか、俺は結局、何も為せぬまま、目的を果たせぬまま、死ぬんだな。
・・・まあ、いいさ。
俺は所詮悪人、この世から一人、悪人が消えるだけだ。
やりたいことがあった。目的があった。
でも、その目的がなければ、もともと俺は死ぬ気だった。
だから、ここで殺されても、いいか。
「ふ、ふふふ!折れた!折れたわね!精神が!ふ、ふふふ!いくら強大な精神力を持っていても、折れた心はただの餌よ!」
ああ、そうなのだろう。
でももう、抵抗する気力が湧いてこない。
疲れた。
そして、遠くからイヴィラがゆっくりと近づいてきた。
あれは恐らく、本物のイヴィラだ。
やっぱり、精神を飲み込む際は本物がやらなければならないのだろう。
しかし、それが分かっていたとしても、もう遅い。
俺の心は折れた。
このままイヴィラに精神を飲まれ、俺の体はイヴィラが操ることになる。
・・・ひとつ、気になったことがある。
もう直ぐ死ぬというのに、何故かひとつ、これだけがどうしても気になった。
「イヴィラは、おれ、のからだ、どう、するんだ」
「ん?そうね、まずは宝玉を破壊するわ、またこの宝玉に捉えられるのは嫌だもの、そのあとは、そうね、ハウントに復讐かしら」
ハウント?
「ええ、私を封印したあの憎っくきジャスティス・ハウントに復讐するわ、って、そっか、人間の寿命ってたった100年程度しかなかったわね、まだ生きているのかしら?まぁ生きていなかったら、その子孫でも探して、今のあなたよりもっとひどい目に合わせてあげるわ!」
・・・
「それが終わったら今度は王国を滅ぼそうかしら、ふふ、そうすれば、きっと甘美な不幸がたくさん生まれるわ!楽しみね!考えるだけでもワクワクしてきたわ!さあ!あなたの精神を飲み込んで、あなたの体をいただくわ!」
そう言って、イヴィラは俺の精神を飲み込もうとした。
このまま、なにもしなければ、俺はイヴィラに精神を飲み込まれ、体は奪われ、イヴィラは復讐を果たし、王国は滅びるだろう。
・・・それは、いいな。
・・・王国が、滅びる?
たくさんの不幸が生まれてくれれば、きっと、腹立たしい笑い声や、イライラする笑み、吐き気がする感謝が消えた、素晴らしい所になるだろう。
そうなれば、たくさんの人が不幸になる。たくさんの人が、犠牲になる。何の罪もない人達が、死んでしまう。
イヴィラは、その光景を実現させられる力を持っている。実際に、皇国という国を滅ぼしたらしいからな。帝国は滅びるだろう。
イヴィラは皇国を滅ぼしたと言っていた。それを可能とする能力をイヴィラは持っている。つまり、王国を滅ぼすことも可能だろう。
そう考えるだけで、気分が良くなる。
それは、決して認められるものじゃない。
でも、何故だろう?なにか、物足りない。
でも、俺はイヴィラに勝てなかった。
とても素晴らしい事のはずだ。他人がたくさん不幸になるなんて最高のはずなんだ。なのに、それだけじゃあ、心が満たされない。
俺の心はすでに折れていた。イヴィラには勝てないと、認めてしまっていた。
そうだ、俺は今日、知ってしまったんだ。自らが、他者を不幸に落とすことの快感を。
でも、それでも、イヴィラの所業を認めて仕舞えば、俺が俺で無くなる!
だから、気に食わない。俺以外が、俺の獲物であるこの国の人間を不幸にすることが。
勝てない?だからどうした!勝てないからと諦めるのが正義か!違う!!
俺が関わらず、勝手に不幸になるのが気に食わない。
正義は!絶対に悪には屈しない!勝てないから諦めるなんて、そんなことは絶対にしない!
俺が不幸に落とすんだ。その役目は俺のものだ、誰にだって渡さない!
俺は、俺の正義を貫く!
「だから!このままじゃあ!終われない!」
俺は、全力を持ってイヴィラの精神に対抗した。
「!?な、なに!?力が戻って!?どうして!確実に精神は折れていたはずよ!」
「俺にだって!譲れないものがあるんだ!」
負けない、負けられない!
「それにあれだけ精神を削り取っていたのよ!常人なら、とっくに廃人になっていたくらい削ったのに!あそこから立ち直るなんて!冗談でしょ!?」
「ここで負けるわけにはいかないんだぁぁぁ!」
「っ、でも!あなたの傷ついてボロボロな精神じゃあ、私の悪心は超えられないわ!そのまま飲み込んであげる!」
イヴィラが本気を出して来た。
それでも、それでも!
「俺は!自ら悪を振りまいてみせる!!!!」
「な、なんで!?ありえない!?あり得ないわ!これほど強い光と闇の精神が、同時に備わっているなんて!一体なんなの!?なんなのよ貴方は!」
「俺は!イヴィル・ハウントだぁぁぁ!」
「嘘、嘘よ!こんな!こんなはずは、キャァァァァァァァァ!!!!!!!」
俺は今度こそ、イヴィラの精神を飲み込んだ。




