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怪物少女、邁進す 〜魔法のある世界で腕力最強無双〜  作者: 平塚うり坊
2章・エルトナーゼの曇りの日編
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60 謝罪と容赦と相談と

「アトラクションの最中に暴れ出すとはどういう了見だ! しかも火を振り回すなど大馬鹿の所業だろう、この阿呆どもめ! 火災にでもなったら賠償問題だぞ! 他の客や従業員への安全についてもだ! なんとか言ったらどうだ脳筋コンビ!」


「「すみませんでした……」」


 一旦スクリームテラーの従業員通路から外部へと出て場所を移してから――口撃が始まった。

 苛烈に怒りをぶつけてくるエイミーへ、ナインとクータは素直に謝った。確かに乱暴な手段を取ってしまったと自戒の念があったからだ。


 しかし、あの状況で骸骨たちが襲おうとしているのではなくただ驚かそうとしていただけ、とは如何にナインたちと言えど見抜くのは難しい。それこそ一般客であれば純粋にアトラクションの一部だと思って楽しめたのだろうが、なまじっか戦闘への慣れがあったせいでナインもクータも骸骨が作り物ではなく「本物」だと気付いてしまった。


 とすれば警戒するのも迎撃するのも当然の行為なわけで……などという考えが殊勝な態度のどこかしらに出ていたのか、エイミーは謝罪を受けても説教をやめようとはしない。


「馬鹿たれが。一定以上は客に寄らんようちゃんと訓練しているんだぞ、落ち着いていればそれも分かったはずだ。アレは私の術で作り出した霊魂を誰にでも見えるよう可視化させたものだ。厳密にはモンスターとは違う。ナイン! 貴様の実力があれば悪意の有無くらいは見抜けるはずじゃないのか!」

「いやー、それがなかなか難しくってさ……」

「なんだと? まったくアンバランスな。つくづく妙な奴だ」


 はあー、とため息をついたエイミー。少しは落ち着いたのか、幾分か口調を和らげる。それを訊ねる好機と見てナインは質問をしてみる。


「ところでどうしてエイミーがここに? まさかスクリームテラーで働いているのか?」


「……半分正解といったところか。ここのオーナー、ロパロとは友人同士でな。ホラーハウスと私の術の相性がいいものだから、こうして手を貸してやっているんだ。エルトナーゼを訪れればそのたびに霊魂たちの調整や新調をしている。特に今回のテーマが『亡者の群れ』なものだからそれに見合うよう私も大量に用意せねば……ってそれはどうでもいい。貴様こそ何故この街にいる? リブレライトで、そこの子供とコンビを組んで治安維持局の仕事を手伝っているんじゃなかったのか?」


 私はリュウシィからそう聞かされているぞ、とエイミーは言う。


 ここでナインは、リュウシィが既にエイミーの誤解を解いてくれていることと、それでも七聖具の件については明かしていないことを知った。

 ならばここで自分がバラすわけにはいかない。


「そ、そうなのか……うん、まあ、ちょっとした野暮用ってやつかな? これもリュウシィの手伝い、に関係なくもないって感じでさ」


 あからさまに言葉を濁すナインに、エイミーはふんと鼻を鳴らした。


「言えんのなら構わんさ。私とてもう貴様を疑ってはいない。何かしらの事情があるのだろう」


「はは、そうしてもらえるとありがたい。また詰め寄られるかと焦ったよ」


「あー……その、なんだ。あの時はすまなかったな。私が思い違いをしていたと、素直に認めさせてもらおう」


 先ほどの気炎とは一転、視線を逸らしてぽつりと謝ったエイミー。

 気のないような態度だが、これが彼女なりの精一杯の謝罪であった。なんとなくその心情を慮ったナインは、なるべく明るく笑って言った。


「なんだそんなこと、別に謝ってくれなくていいんだよ。エイミーの気持ちは俺にだってよくわかるんだから」


 ナインとて、リュウシィとはもう知らぬ仲ではないのだ。もし道すがら如何にも物騒な輩がリブレライトを目指しているなどと宣ったら、その訳を問い質すくらいのことはするだろう。相手がそれを不自然に明かさぬようなら、少しくらい乱暴な手段も取るかもしれない……こちらから争いを仕掛けるかどうかはともかく。


 ということで謝罪はいらないと本心で言ったのだが、エイミーの苦々しい表情は晴れない。けっこう律義な性格をしているらしい。

 彼女に対して傲岸不遜なイメージを抱いていたナインとしては甚だ意外なことだが、どうやら本気で気に病んでいる様子なので、話を変えるべく別の話題を振ることにする。


「そういえば、ロパロって人と友人なんだって?」

「ああ、そうだが。それがどうかしたか」

「それじゃあエイミー、ひょっとしてピカレさんとも知り合いだったりするか?」


 そう訊ねると、エイミーは盛大に顔を顰めた。

 苦々しいというよりはっきり苦い表情になってしまったことに、ナインは戸惑う。


「なんだ貴様、まさかピカレに連れられて来たのか?」


「ああうん、そうだけど。ピカレさんがここのオーナーと親しいらしくて……なんでそんな嫌そうな顔してんの?」


 まさかピカレさんに恨みでもあるのかと勘繰るナインに、そうではないと彼女は頭を振った。


「共通の知人も多いしそれなりに長い付き合いになるが、どうもあいつは苦手でな。あの気取った狂言回しっぷりが私は好きになれん。……確かロパロは相談事があると言っていたから、おそらくその件だろうな。やれやれ……」

「会いたくない、のか? だったら俺はお暇しようと思うけど」


 いずれ自分を探してピカレがやって来るだろうことを踏まえてそう言えば、エイミーは諦観するような眼差しでそれを制した。


「いや、いいんだ。顔も見たくないというほど嫌ってはいないし、それに――避けるにはもう遅いようだからな」


 彼女の見ている方向に首を向ければ、こちらへ近づくピカレの姿。

 その傍らにはもう一人、ナインの知らない女性がいた。


「やあ、お待たせだね。聞いたよ? 君、なんだか騒ぎを起こしたらしいじゃないか」

「あう……すみません」


 従業員経由なのか随分と耳の早いピカレに、ナインはすぐに謝ったが、肩をすくめられてしまう。


「謝るならこちらに、じゃないかな。ロパロ・フットマン。スクリームテラーの経営者であり、私の友人だ。遠縁の親戚でもある」


「はは、丁寧な紹介どうもねピカレ。初めまして、私がロパロ。ここの責任者だよ。それで……飾りを壊した挙句ボヤ騒ぎまで起こしたのはどこのどなたさんかな?」


 名乗ったロパロは、ピカレと同じく女性にしては背が高くスタイルのいい人物だった。

 顔立ちもピカレほどではないが中性的で、服装が男性物のスリーピーススーツであることがその印象に拍車をかけている。


「初めまして、ナインです。こっちはクータ。ピカレさんの紹介で来ました。えっと、この度はご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした」

「もうしわけありませんでした!」


 ナインとクータが頭を下げると、何故か豪快にロパロは笑い出した。


「あっはっは! 冗談冗談、怒ってなんていないよ。ピカレの友達に悪い奴はいないさね。悪気があってやったことじゃないってのは君を見てればよくわかる。それにエイミーとも親しいようじゃないか? 何だか他人の気がしないね」


 ピカレもエイミーも友達は決して多くない。その両方と親しいロパロは言わば貴重な人物であり、同じ立場のナインに親近感を覚えたのだ。

 癖の強い者に好かれるというのはそれだけ人間的に素晴らしい部分があるからだとロパロは考えている。取りも直さず、それは自己肯定でもあったが。


「私からも謝っておくよロパロ。君の言う通り悪い子じゃないんだ。スクリームテラーが客へ恐怖体験を届けるためにどれだけ拘っているか伝え損ねた私にも、責任は大いにあるからね」

「いや、それは事前に聞かされていました。凝った趣向が楽しめるって言われていたのについ慌ててしまった俺が悪いんです」

「火を出したのはクータだから、クータが一番わるい。ごめんなさい」


 自分の不始末で親に謝罪させている子供のような罪悪感を味わうナインと、そんな主人を庇いたい一心のクータ。それを見たロパロは納得したように頷いた。


「いいっていいって。子供は元気が一番だよ。ちょっとくらいのヤンチャは大目に見ないとね、大人としては! 怪我人も出なかったことだし、きちんとごめんなさいもできた。それでこの件はもう手打ちってことにしようじゃないか。ナインちゃんもクータちゃんも、もう畏まらなくたっていいから」

「ですけど……」

「もういいだろうナイン。ロパロがこう言ってるんだ。余り気にしすぎるのも慇懃無礼というものだぞ」

「エイミー……あんなに怒ったお前が言うのか」

「なんだと!?」


 さっきまではエイミーのほうが過度に気に病む様子を見せていたというのに、とナインはちょっと呆れたが……まあ他人事であればこんなものだろうと少し気が楽になる。傍から見れば自分も彼女と同じなのだと気付けたからだ。とは言え、それでもまだ幾ばくかの罪の意識は残っているが。


 と、そんなナインの心情を読み取ったかのようにピカレがある提案をする。


「ねえ、ナインくん。どうしても気になるというのなら、どうだろう。ロパロの相談について君も一口噛んでみるというのは」

「え――相談、ですか?」


 そうだよ、とピカレはキザな笑みを深めて言った。


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