幕間 その裏で
小ネタ集的な
書くタイミングないけど書いとかないと若干繋がらないなっていうエピソードたちです
1
「取材の件なのだが」
「俺へのですか」
「そうだ。グッドマー氏経由で省長へ直にそういった申し出があった。一応の確認だが、エルトナーゼ在住のミルコットという記者の女性に心当たりはあるかね」
「あー、はいはい。その人なら知り合いですね」
「そうか。先方は君の都合のいい日で構わないと言っているが」
「じゃあ……一週間後あたりがいいですかね。またこことか貸してもらえます?」
「こちらで手配しておこう。ただ、話す内容には気を付けてくれ。本来なら君へ直接の取材は断るところだ。独占をいいことにまだ明かすべきでない情報まで探られては、省としても対応に苦労する」
「ミルコットさんに限ってそんなことはないと思いますけど、注意しときます。でもたぶん、あの人が書きたいのは徹頭徹尾俺個人に関することですよ」
「それならいいが。……いや、そちらも書き方によるな」
「まー、上手いことやっときます」
「頼んだぞ、ナインくん」
2
「ナイン」
「なんだサイレンス」
「『サイレンス』は、異名ということになった。今の私の正式名称はサイサリス。あなたもそう呼んで」
「改名した……んじゃなくて別の名前があったのか。そりゃそうか、沈黙なんて普通は人名にしないよな」
「呼んで」
「え、ああ。サイサリス?」
「それでいい」
「そんだけか」
「そう」
「……あーっと。そういや、この前も今日もフルフェイスだけ見ないけど。あの人は何してんだ?」
「この時間なら……おそらく料理を作っている」
「料理? それってお前たち用の?」
「そう」
「フルフェイスって……料理するんだ」
「する」
3
「ご指名どうもありがとうございますねぇ、ナインさん。『王』から直の拝命が頂けるとは恐縮ですよ」
「どうせやり取りするならあんたが一番かなーと思ってさ」
「おや残念、選ばれたのは消去法でしたか」
「まーそうだな。知らん人よりはマシってな。あと、万が一にもレディーマンとかつけられたら絶対イヤだし」
「ははは。彼も嫌われたものですねー。ですが彼は変わらず施工官ですので、どのみち『王』お付きにはならなかったと思いますよ。こういうのを任されるのは、旧省から変わらず執行官の役目ですからねえ」
「そうだったか。なら余計な心配をしちゃってたみたいだな……でもまあ。いち早くオイニーを取れたのもそのおかげだし、結果オーライか」
「なんと。消去法で選ばれたとは思えないほどに信の厚いお言葉ですね。自分で言うのもなんですが私、あなたにそこまで信頼されるようなことしましたっけね?」
「仕事ができる。犠牲を厭わずとも最小限度にしようとする。十分すぎる条件さ」
「なんとなんと。では、よろしくお願いします。……今後ともいいお付き合いをしていきましょうね、ナインさん」
「ぜひともな。こちらこそよろしく、オイニー」
4
「なーんでボクたちが役人サマのお手伝いしなくちゃいけないのさー」
「文句言っちゃダメだよ、フェゴール」
「その通り、これも主様のためになるのだからな」
「『王』となる以上、省とは一蓮托生です。少なくとも新生省がその機能を安定させるまでは、私たちも協力を惜しむべきではないでしょう」
「わかった? クータたちが頑張ればご主人様の助けになれるんだよ」
「えー? これボクがおかしいの? ナインの助けになるってこういうことでいいのかなぁ」
「お主に言われるまでもなく、力不足は全員が痛感しておるところだ」
「私たちが一段ずつ階段を上る間に、マスターはフロアごと乗り越えていっているようなものですからね」
「どれだけ力を尽くしても壊せなかった、あの壁。あれを作り出した神具にご主人様は一人で勝った……これじゃあちっともいけないよね。それは、わかってる。だからはやく仕事しちゃおう。ご主人様の傍で戦うためにも!」
「……オーライ、わかったよ。もう影に潜れなくなっちゃって不便だけど、ナインがいないとつまんないしね。いっちょボクもやりますかぁ」
「そう言えばお主、もう縛りもないというのに逃げなんだな」
「えー……今更そんな意地悪言わないでよ、ジャラザ」
「仕事が面倒なら逃走を図るべきでは」
「いや、だからさ、クレイドールも」
「逃げるの? いーよ、止めないよ」
「クータも! ボクもやるって言ってるのになんで聞いてくれないのさ!」
「ずっとサボってたお主が悪い」
「……ごめんなさい」
5
「とうとう行くのか、マルサ。村長たちも寂しがっていたぞ」
「はい。お別れは私も寂しいですけど、もう決めたことですから。――冒険者になってきます」
「む? 既にリブレライトで冒険者登録は済ませたのでは?」
「そうですけど、今はただ資格を得ただけですから」
「皆から一目置かれるような冒険者になる、ということだな」
「はい! きっと立派な冒険者になってみせます」
「マルサ、ハヤク、イコ」
「おーい、ギィが待ちくたびれてるよー。いつまでお別れ会してんのさー」
「ごめーん、ギィちゃん、ミントちゃん! 今行くから! ……それじゃあ、カイニスさん、フロウスさん」
「ああ……武運を祈る」
「達者でな、マルサ」
「お二人もお元気で! 他のリザードマンさんたちにもよろしくお願いします!」
「確かに伝えておこう」
「……行ってしまったか」
「振り向かずに、な。人の成長は早いものだな」
「マルサが特別な気もするが」
「実力もそうだが、魔獣をテイムしたことや、ミントという己より強い仲間を得たこと。マルサには何か、加護のようなものが宿っているように感じられる」
「ひょっとするとこれも、あの怪物的な少女の導きであるかもしれないな」
「ふ……まさかとは言えないな」
「マルサは高名な冒険者となるのだろうな」
「必ず、そうなる。俺はそれを疑っていないとも」
6
「なんなのこの記事! もうびっくりなんだけど――海の向こうにそっくりさんがいるじゃん!」
「ほんとほんと! いや、そっくりではないんだけどね? むしろ正反対っていうか。だって白い髪に紅い瞳だよ? それで、絶世の美少女! 年頃も同じくらいに見えるしさぁ、まるで双子みたい」
「そーそー。ひょっとして、私たちみたいに本当に双子だったりして! 生き別れの姉妹なんじゃないの?」
「ねーねー、答えてよー。絶対なにか関係あるでしょっ?」
「……あると言えば、あるね。双子ではないけれど。でも、関係性で言えばそれに近いのかもしれないな」
「わーやっぱり! だってこっちは黒い髪に碧い瞳だもんね! このナインって子と対になってるよね――それでいてすごくよく似てるもんね!」
「そーだと思った! でもでも、双子じゃないけどそっくりってどういうこと? 双子じゃないけどそれに近い関係って、どんな関係? 私わかんないや」
「きっとすぐにわかるさ。……向こうもやがて僕に気付くだろうしね」
「わかったらどうなる?」
「気付いたらどうなる?」
「さあ、どうなるんだろうね。――ふふ。でも、楽しみだなあ」
「なんだか御機嫌だね」
「なんだか上機嫌だね」
「うん。だって元気にやってるみたいだから。とっても安心したし、嬉しくなった。ここでもやっぱり彼は彼だ。――僕だけの、彼だ」
澄み渡る空のような色をした瞳を細めて、少女は想い人が載った記事を見て笑みを浮かべた。
それは見た者全てを虜にするような美しい表情で。
それでいてどこか仄暗く妖しい気配を絶やさない、不気味な笑顔であった。
これにて第一部完結となります!
とりま充電期間として次の更新までは時間を置いて、別作品を投降していくつもりです。というかもうしています。よろしければそちらのほうもお読みいただけると嬉しいっす
そちらの主人公はネクロマンサー(笑)って感じになっております
こちらは一旦完結としておきます。再開日は未定となっておりますが、第二部でまたお会いしましょー




